第131話:弟子入り志願

雅からの謝罪を受けたショウは、首を横に振りながら笑う。


「そんなー。雅さん、頭を上げてください。気にしてませんからー。実際、今回のことはシゲにとって辛いことだと思います。でも、僕もいつか、このことはシゲにとって良い方向に繋がると信じてますから。」

そう微笑んだ後、ショウが付け加える。


「あ、どうせだったら一度、皆さんの女子会に参加させてくださいよー。そこで、雅さんの恋バナ、聞かせてください。それで、チャラってことでー。」


「そんな事でいいのかい?」

「はい。むしろー、こちらからお願いしたいくらいです。」

そう言って放たれるショウスマイルに、雅のハートは撃ち抜かれ・・・


(危なかったぁーーっ!)

そうになる。


(あたしがあの人以外にトキメキそうになるとはね。ショウ君、やるじゃないか。

こんなこと、あっちゃんにバレたりしたら・・・)

雅がそっとアカに目を向けると、アカがジトぉっとした目で雅を見つめていた。


(さすがはあっちゃん。バレちまったみたいだねぇ。今度の女子会が怖いねぇ。こりゃ、ショウ君が参加する女子会の前までに、ハートを撃ち抜かれない術でも作っておくかねぇ。)

雅はそっと、心に誓うのであった。


ちなみに雅はこの日のうちに、ハートを撃ち抜かれない術『非恋の術』を完成させる。

後にこの術は、ダメ男にばかり恋する一部の女性から圧倒的な支持を受け、雅の元へ忍術の契約申込みが複数寄せられることとなるのだが、それはまた別のお話。


「さてと。」

雅が気を取り直して口を開く。


「この件はこの辺で終わりにしたいんだが、誰か言いたいことはあるかい?」


雅の言葉に、重清達忍者部の面々は口を噤む。

そもそも、一番の被害者とも言うべきショウが納得しているのだ。

であれば、他の者が何かを言えるはずもないのである。


と、その時、アカが一歩前へと進み出る。


「みーちゃん、ありがとうね。ありがとうついでに、1つお願いがあるの。」

「おや、なんだい、あっちゃん?」


雅の微笑みに対して、アカは一呼吸置いて、

「みーちゃん、いえ、雑賀雅様!わたしを、弟子にしてくださいっ!!」


「はぁ!?」


雅とアカを除いた、その場にいる全員が声を揃える。

特に雅の修行の恐ろしさを知っている重清とプレッソ、そしてノリの驚きは、それはもう言葉に表せないほどのものであった。


「あっちゃん、いや、甲賀アカ。あんたの覚悟は、さっき聞かせてもらってたよ。『決して女を武器にせず、雑賀雅のような、誰よりも強い忍者になる』だったね?」

雅は、アカが強い意志を込めた目で頷くのを確認して、


「そんな覚悟じゃ、弟子にはできないねぇ。」

「そ、そんなっ!?」


(ふむ。それはそうじゃろう。雅様はこれまで、誰に頼まれようとも弟子を取らなかった御方。弟子になどなれるわけがないわい。)

これまでシャレにならないほどに裏で失態を見せていたオウが、それを挽回するかのようにシブくそう分析していると、


「あたしの弟子になるんだ。『雑賀雅を超える』くらいのことは言ってもらわないとねぇ。」

ニヤリと雅が笑う。


「じゃ、じゃぁ・・・」

「あぁ。甲賀アカ。あんたを弟子にしよう。」


(なんですとぉーーーーーっ!!!)

名誉挽回に失敗したオウが、心の中で叫び声を上げていた。

それでも、声に出さなかったのだから褒めてあげたい。


「ただし、1つ条件がある。」

「な、なんでしょうか?」

雅の言葉に、アカが表情を硬くしながら身構える。


「あたしはね、弟子にしたいと思うほどにあんたを気に入っている。だからあんたには、重清の嫁になってもらうよ?」


「わかりました。じゃぁ、弟子諦めますっ!」


「「うぉいっ!!!!」」


アカの余りにも早いお断りの言葉に声を上げたのは、重清とオウであった。


「いやいやいや、えっ?即答!?おれ、そんなに嫌われてるの!?」

重清が若干涙目で叫ぶ。片やオウは。


「いやいやいや、アカさんや!雅様はこれまで、弟子を一切取らなかった孤高の天才じゃぞ!?その雅様が弟子に取るとおっしゃっておるのに、そんなに即答でいいのっ!?」

もう、口調も訳がわからなくなるほどに混乱していた。


2人の様子を見たアカが、ニコリと笑う。

「オウさん、心配してくれてありがとうございます。でもわたし、ここだけは譲れないんです。

それに重清。わたしは、別にあんたを嫌ってなんかないわよ?

もしかすると、何かの間違いであんたを好きになる可能性だって、全く無いとは思ってないわ。まぁ、絶対にないけど。


でもね、わたしのこの恋心は、誰にも縛られたくはないの。それがいくら、弟子になりたいと思えるほどに尊敬する忍者、雑賀雅であっても。


わたしは、恋と忍者を両立するのよっ!」


アカが拳を突き上げてそう宣言すると。


「はっはっは!恋と忍者を両立か。それでこそアカ!さすがは我が一番弟子だよ。」

雅がそう言って笑っていた。


「じゃぁ・・・」

「あぁ。アカ、あんたを弟子にしよう。いや、是非とも弟子になっておくれ。

試すようなことをして悪かったね。これまであたしの所には、多くの者が弟子入りを志願してきた。その者達全てが、『なんでもする』だのなんだのと、自分を投げ売ってでも弟子になろうと必死だった。

女共に至っては、息子や孫達との結婚を示唆したら、即答で了承しおった。

しかし、アカ。あんたは違った。ちゃんと自分ってもんを持っておる。そんな者こそ、あたしの弟子には相応しいのさ。」


「は、はいっ!」

「あぁ、それから、弟子になるに当たって本当の条件を1つ。

修行の場以外では、これまで通りあたしに接すること。

プライベートでは、今までと同じ、みーちゃんとあっちゃん。

これが条件だよ。」


「えっと・・・それで、いい、の??」

「もちろんさ。公私混同は嫌いなタチだからね。」


「どの口が言うっ!!」


その場で呆気にとられていた忍者部一同が、思わず声に出してつっこむのであった。



---あとがき---


次回更新は明日21時です!

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