第316話:1年男子からのプレゼント

「ショウさん、術の契約書を出してもらえませんか?」

そんな突然のソウのお願いに、


「えー。いいけどー」

ショウはそう言って術の契約書を具現化させた。


「お前ら、まさか・・・・」

重清達の様子に、ケンがそう言葉を漏らした。


「へっへっへ〜。俺達、ショウさんのために術を作ってきました!」

重清が、得意気な顔を披露して、ショウから術の契約書を受け取った。


「じゃ、ソウ、よろしく」

そのまま重清は、それをソウへと手渡した。


重清は得意気な顔をしていたが、術を作り上げたのは、やはりソウだったのである。


重清から契約書を受け取ったソウは、それを見つめながらつぶやき始めた。


「ぼく、甲賀ソウは、『猫化びょうかの術』を、甲賀ショウさんに譲渡します」


『にゃぉ〜ん!』

独特な着信音が頭に鳴り響いたショウは、


「びょ、猫化の術・・・」

そう呟きながらも、その目はランランと輝いていた。


「これ、お返しします」

ソウは術の契約書をショウへと手渡した。


「ありがとー!これ、使ってみてもいい!?」

ショウは契約書を受け取ると、輝く瞳でソウと重清、そして恒久を交互に見た。


「もちろんっ!」


重清はそれに元気よく答え、ソウと恒久も笑ってショウへと頷き返していた。


「いっくよー!猫化の術っ!!」


ショウはそう言って術を発動した。


ボンッという音とともにショウの姿を煙が包み込んだ。


そして、煙の中からショウが姿を現した。


全身を毛に覆われ、顔は面影を残しつつも紛れもない猫のものへと変わっていた。


猫の獣人と化したショウが、その場に佇んでいた。


「おぉーーっ!」

ショウは、自身の手に収まる肉球に、声も上げていた。


「ソウ、シゲ、ツネ!ありがとー!これ、最高だよっ!!」

猫顔のショウが、笑顔で重清達を見つめていた。


「本当は、猫になる術にするつもりだったんですけど・・・」

ソウは苦笑いを浮かべながら、ショウへと返した。


そう。重清が元々発案したショウへのプレゼントは、その姿を猫そのものへと変える術だったのである。


自身の姿を変化させる『変化の術』と、自身の身に具現獣を装備させる『獣装の術』、さらに予定外に恒久が覚えた『幻獣の術』による特定の動物の幻術を作り出す力を研究することで、『猫化の術』を作り上げることに彼らは成功したのだ。


しかし彼らは、出来上がった術を見てこう思った。


(((『獣装の術』、余計だったな)))


と。


確かに具現獣を身に纏う術は、重清達の予定していた『猫化の術』にはそれほど役には立たなかっただろう。


しかし力の配分上、本来であれば『猫化の術』は、自身の姿を猫そのものへと変えることも出来たはずだった。


重清達は気付いてはいないが、彼らにはもっと大きな誤算があったのだ。


それもまた、『獣装の術』に関係していた。


と言っても、『獣装の術』自体にはそれほど問題はない。

というよりも、『猫化の術』の作成にあたってはほとんど『獣装の術』は役には立っていなかったのだ。


では何が問題だったのか。


術を作るにあたっては、力の配分と共に、重要な要素がある。


『イメージ』である。


配分した力を使い、どんな術にしたいかというイメージが、術の作成には大きく関係しているのである。


そこに、彼らの誤算はあった。


そう。この術の効果が予定と変わってしまったのは、『獣装の術』の管理者である、根来真備が大きく関係しているのだ。


いい年したおっさんにも関わらず、普段から猫耳カチューシャを愛用し、語尾に『にゃ』などとつけるという規格外の存在は、彼らの心に大きな影を落としたのだ。


その鮮烈なまでの印象は、彼らの心の奥底に、深く突き刺さってしまっていた。


その結果、ソウが術を作り上げた際に、『猫になる』のではなく『猫みたいな人になる』イメージが、色濃く出てしまったのだ。


こうして生まれたのが、猫の獣人へと変化する術、『猫化の術』なのである。


術が出来た瞬間は、


(((あー、こりゃ失敗だな)))


と思った3人であったが、術が出来たのが卒業式前日である昨日だったこともあり、また猫好きのショウであれば、これでも喜んでくれるだろうという、ほぼ諦めの気持ちで、彼らはショウの送別会へと臨んだのだ。


結果として、ショウは満面の笑みを浮かべて喜んでくれたので、結局の所は結果オーライなのであるが、なんとも締まらない結末なのである。


ちなみにアカはアカで、猫の獣人と化したショウを見て、


(あぁっ!この姿のショウさん、野性的で素敵っ!!)


と、1人盛り上がっていたりする。


結局の所、重清達の努力は見事に実ったと言っても過言ではなかったのだ。


まぁ、失敗は失敗なのであるが。


しかしこの後重清達はこの失敗を、身を以て後悔することになるのである。

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