第4話:契約と遵守事項

手元の紙を見ていた重清は、他の3人に目を向ける。

3人はそれぞれが手元の紙に目をやり、やがて顔を上げて4人の視線が合う。


「おれ、甲賀シゲになるってことなのかな?」

「シゲは、シゲ、なんだ。僕は甲賀ソウ」

「あたしは甲賀アカ!」

「おれは甲賀ツネ、だ」


さて、それぞれが契約書を受け取ったね。そこにある「忍名(しのびな)が、忍者としての名前、だね。私の弟子になるから、みんな甲賀になるけど、そこは我慢してね」


「そっちは仕方ないとしても、アカ、ってなんか可愛くなくない??もうちょっと何かなかったんですか!?」

と、森が古賀に食って掛かる。


「いやいや、そこは私の趣味とかじゃないからね!?これ、師弟の契約の時に勝手に決められるの。しかも、基本的に今後師が変わっても、そっちは変わらないんだよ。一応、忍者として動いてないときに間違えてお互いの忍名呼んでも、怪しまれないようにっていう作成者の配慮なんだって」


そういわれ、森は引き下がる。

忍名の変更不可という衝撃的事実に、ショックを受けながら。


「さて、みんなひとまずみんな、忍名と遵守事項は確認できたかな?それ、守ってもらわないとこっちも困るから、よろしくね」


((((軽っ!!))))


4人が心の中でつっこんでいると、古賀が続ける。

「これで忍者の契約を結んで良いと思う人は、その紙を胸に当てて、『契約に同意する』と念じれば、契約が結ばれて、きみたちは晴れて忍者になります」


それを聞いた聡太が古賀に問う。

「その前に教えてください。この順守事項の4つ目って、どういうことですか?」


「あぁ、それね。前の3つは、この契約で必ず入れないといけない内容なんだけど、それ以外って基本的に師の裁量に任せられてるんだよね。だから私は、いつでも好きな順守事項追加できるように、4つ目としてそれを入れてるってわけ。例えば」


古賀がそういうと、突然重清の頭の中で着信音のような音が鳴る。

と、他の3人を見ると、周りを見渡していたことから、みんなが同じように着信音を聞いたのだと判断し、古賀に目を向ける。


「ほら、さっきの契約書を見てごらん?」


そう言われ、4人が手に持った紙を見てみると、先ほどまで4つ目にあった項目が5つ目に移り、新たに4つ目として次のような内容が記載されていた。


4 甲賀ノリの質問に対しては、正直に答えなければならない。もしも正直に答えなかった場合、罰を受けなければならない。


4人がその内容に戸惑っていると、古賀が重清に質問してくる。


「重清君、きみの好きな人は?」


突然とんでもない質問をぶっこまれた重清は、それでも契約を思い出し、心の中で涙を流しながら、答えをひねり出す。


「い、一中に行った、田中琴音さんです。。。」


「そうなんだ~。え、もしかして付き合ってたりするの??」

重清の答えに、古賀がそう返す。その質問に対して重清は、もはや心の中でなくリアル涙を流しながら答える。

「3月に告白して、盛大に振られました!!!」


それを聞いていた森と井田は、重清を慈悲のこもった眼で見、聡太は


(あ、やっぱまだ好きだったんだ)

と、心の中で手を合わせながら思う。


重清の答えに満足そうな顔の古賀は、笑いながら話を進める。


「いやー、ごめんごめん。ちょっと悪ノリしすぎちゃったね。でもね、重清君。よーく考えてみて?キミ、まだ『契約に同意する』って念じたりしてないでしょ?つまりまだ、キミはこの契約に縛られる必要はないんだよ??」


そういわれた重清は、事の重大さに気づく。

そう、別に言わなくてもよかった悲しくも儚い思い出を、無駄に暴露してしまったことに。


「はぁああああああああああああああ!?ちょ、古賀先生、何やってくれてるんですか!?」


「いやいや、今のは鈴木の注意不足だろ」

井田が、笑いをこらえながらそう言う。


言われた重清も、井田の正論に答えを詰まらせる。


「ま、この話は置いといて」


(あ、置かれた。シゲ可哀想)

聡太がそう思っていると、4人の頭の中にまた、着信音のような音が鳴る。

古賀は4人を見渡し、話を続けた。


「さっき追加した事項は、さすがにプライバシー侵害の何物でもないので、とりあえず契約からは外すよ。そのうえで、忍者としての契約を結ぶ人は、さっき言ったようにその紙を胸に当てて、『契約に同意する』と念じてね。」


それを聞いた、先ほど思いっきりプライバシーを侵害された重清は、それでもすぐに契約書を胸に当て、「契約に同意する!」と念じる。


すると、これまで手にあった契約書が、胸の中へと吸い込まれていった。


と同時に重清は、体から力が湧いてくるのが分かった。

これまで抑えられていたような何か。それが突然湧いてくるような感覚。

その感覚に驚きながらも周りを見回すと、聡太も同様に契約を結んでおり、胸を押さえて苦しんでいた。


「ソウ、大丈夫か!?」

重清が声をかけると、古賀が聡太近づく。


「やっぱりキミは、忍力が強いみたいだね。大丈夫、その力は君が本来持っていた力。決してキミを傷つけるものではない。安心して、その力を受け入れるんだ」


それを聞いた聡太は、少しずつ落ち着きを取り戻す。


「すごい。今なら、古賀先生から出ていた違和感の正体がわかった気がする。古賀先生、今日ずっとこの力を出していたんですね」

「そう、よくわかったね。すぐにここまで理解できる子もなかなかいないんだけどな」

そう笑顔で答えながら、古賀は森と井田に目を向ける。2人も、すでに契約を結んでいた。森は額に汗を浮かべ、井田は湧き出る力に心を躍らせて、古賀を見ていた。


「さて、これで全員が無事に契約を結べたね。これでキミたちは、晴れて忍者の仲間入りだ。早速だけどこのまま、次のステップに入るよ。今キミたちから出ている力は、忍力(にんりょく)という。忍術の基礎的な力だよ。その力を、手に集中するように念じてみて」


そう言われ、4人はそれぞれ手をかざす。


すると、これまであふれていた力が手に集中していく。

そして。4人の手にはこれまでなかったものがそれぞれ乗っていた。

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