第5話:忍術と武具と、黒い猫

ソウが手をかざして集中すると、そこにはレーダーっぽいものがあった。そこには、おそらくソウであろう1つの点を中心として、周りに4つの点が点滅していた。

(たぶんこれ、まんまレーダーなんだろうけど・・・

僕忍者になったんだよね?何でこんなに機械的なものが・・・

僕おかしいのかな?他のみんなは、何が出たんだろう?)

そう思ってソウは周りを見渡す。

シゲはまだ出てきたものがぼんやりしていたため、アカに目を向ける。


(森さんは、手甲、かな?)

ソウが見た通り、アカは手に手甲を持っていた。

(え、これ手にはめるの?なに、私、これで人とか殴っちゃうの?)

と、若干戸惑いながら。


ツネの手には、手裏剣があった。

(まさに忍者、って感じだな。でもこれ、投げたら確実に人傷つくじゃん。おもいっきり順守事項守れないんですけど。)

と、微妙そうな顔をしながら。


と、その時、シゲが声をあげる。


「先生、いや、師匠?とにかく、おれ、こんなん出てきたんですけど!」

そう言ったシゲの前には、クロネコが座っていた。

「ニャー」と可愛い声を出して。


(あ、僕より変なのいた。)

と、ソウは安心しながらシゲを見る。


「とりあえず、私のことはこれまで通り『古賀先生』ってよんでね。外で『師匠』とか呼ばれたら、色々と面倒だから。それと、他のみんなのことはそれぞれ、忍名で呼ぶようにね。ひとまず、みんな具現化できたみたいだね。とりあえず、シゲは置いといて、それぞれ見てみよう。」


(あ、シゲ置かれた。さっきから置かれまくってるな。可哀想。)


ソウがそう思いながら、シゲを見ると、シゲは他の3人を、特にツネを羨ましそうに見ている。

(うわぁー、井田、じゃなくてツネ、ちょー忍者っぽい!いいなぁー、おれもあれがいい!)


そんなシゲの考えを察知したのか、クロネコは不機嫌そうに「にゃぁ!」と鳴いていた。


そんなクロネコに少しだけ目を向けた後、古賀はソウをみる。

「ソウはレーダーか。こんな機械的な武具は初めて見たけど、すごく便利そうだね。ソウは忍力(にんりょく)が強いし、忍者としての察知能力も高そうだからこそ、なんだろうね。」


と言い、次にアカに目をやる。

「アカは手甲か。ってことは、【体(たい)】が強いのかな?思いっきり、接近戦向きだね。」


そう言って、ツネを見る。

「ツネは手裏剣だね。一般的ではあるけど、その分応用性に優れている。さすがは、い・・・っとまぁ、とにかく、手裏剣は使い方次第だ。」

若干言葉をつまらせながら、古賀が話を続ける。


「さて、ここで少し、忍術については説明をしようか。」


(((あ、シゲまだ置いておかれた)))


3人がそう思ってシゲに目を向けると、シゲは半ばやけっぱちになりながら、

「また置いとかれたぞーー」

といいながらクロネコとじゃれていた。


「シゲ、きみのこともちゃんと説明するから、やけにならずに話を聞きなさい。」


と、若干呆れながら古賀が言う。


「忍術っていうのは、さっききみたちが契約をしたときに湧き出てきた力、忍力と、心・技・体の3つの力によって成り立っているんだ。イメージ的に言うと、忍力という大きな丸の中に、心・技・体の丸がそれぞれ入っている感じだね。

心っていうのは、分かりやすく言えばイメージの力。幻術なんかがこの力をベースにしてるかな。

技っていうのは、武具の使用に関する力。例えば、手裏剣を技の力を使って投げれば、軌道を変えて相手に当てることなんかができたりするね。

体っていうのは、体術の力。身体強化なんかができたりするよ。

アカは、具現化した武具からみて、おそらくこの体の力が優れてるんじゃないかな?まぁアカの場合、忍力もソウの次に強いと思うけどね。さ、ここまでで質問は?」


そこで、ツネが手をあげる。

「アカがその、体ってのが得意そうってのはなんとなくわかったんですけど、それ以外は?例えばおれは手裏剣が出てきましたけど、その場合何が得意なのかとかってわかるんですか?」


「んー、具現化された武具と力の関係性って、実はあんまりないんだよね。単純に、アカが分かりやすかったってだけで。」

それを聞いたアカは、『分かりやすい』と言われて若干不満そうな顔をする。

「まぁ、何が得意かは、今後少しずつ自分で模索していくことになると思うよ?アカも、実際に体の力に優れていたとしても、その力を伸ばそうとしなかったら、他の人に劣ることにもなるからね。」

それを聞き、ツネとアカはそれぞれが頷く。


それを見た古賀は、さらに話を進める。

「この心・技・体3つの力と忍力を合わせることで、忍術っていうのはできてるんだ。

そして忍力には、3つの力をまとめる力とは別に、忍力だけが実行できる2つの力がある。

1つは、さっきみんながやったような『契約』。これは、忍者同士だけでなく、忍者と依頼主の間でも結ぶことができる。」


そこで、アカが疑問を投げ掛ける。


「依頼主って、なんですか?」


「さっきの契約で、忍者とばれてはいけないというのはわかったと思うけど、だからと言って、忍者以外の人がみんな忍者の存在を知らないって訳ではないんだ。

大きな会社のトップだったりといった上に立ってる人たちは、忍者の存在を知っていて、そういう人たちが忍者に色んな依頼をすることがあるんだ。そういうときに、忍者と依頼主はしっかりと契約を結ぶってわけさ。

あちらも我々の契約の力はよーくご存知だからこそ、信頼して依頼を任せてくれるんだよ。

だからこそ、忍者にとってこの契約の力は大切なんだ。場合によっては、死さえも契約内容に盛り込むケースもあるくらいだしね。」


死を盛り込まれた契約と聞き、4人の顔は強張る。


「ま、そういうお偉いさんが中学生に何かを依頼することはまずないし、そもそも死を盛り込んだ契約なんて、今のきみたちの忍力では、まず無理だから。どう?安心した?」


((((いや、いつかは出来るようになるんだったら安心できねーよ))))


心のなかでつっこむ4人はだが、古賀は気にせず続けて話す。


「契約にはもうひとつ、大事な要素があったりするけど、今日のところは割愛するとして、忍力のもう1つの力について話そうか。

もう1つの力、それが、今きみたちがやった具現化、ってやつだよ。

忍者の契約を結んだ際にこの具現化を行うことで、その者にもっとも適した武具を具現化することができるんだ。でもたまに、武具でないものを具現化する人がいる。」


「それが、おれ??」


シゲが、古賀の言葉に、目を輝かせる。


「あ、でも、自分が特別だなんて勘違いしないように。具現獣の具現化は、武具ほど数が多くないとは言ってもそれほど珍しいことじゃない。ちなみに。」


そう古賀が言うと突然、古賀の肩に鳥が現れる。


「私もそうだから。」


古賀の方にいる鳥は、4人を見渡した後、クロネコに目を向ける。

通常であれば、猫にとって鳥は獲物となる。しかしこの場において、クロネコはただ、鳥におびえていた。


「ハチ、その辺にしておきなさい。あんまり生まれたばかりの子をいじめるんじゃないぞ。」


古賀がそういうと、不満そうに「クゥー」と鳴いて、そのまま姿を消す。


「今のが、先生の具現獣?」

シゲがそういうと、アカが続けて質問する。


「今の鳥、今まで見たことない。なんて鳥なんですか??」


そう聞かれた古賀は、

「あー、特に実際に存在している鳥ってわけでもないよ?具現化した私自身、鳥のことよく知らないから、その知識のなさが多分反映されたんだろうね。」


「そういうもんなんですか~」

シゲが感心して言う。


「ところでシゲ、この子の名前どうするんだい?」


そう古賀が聞くと、シゲは少し考えて答える。


「プレッソ、ですね。」


「えっ??」

それを聞いたソウは、思わず声を上げる。


「ちょっと、シゲ、なんでプレッソなの!?」

「なんでって、こいつ黒いじゃん?おれ、コーヒーのブラックもまだ飲めないけど、それより苦いエスプレッソってまだまだ飲めないわけ。だから、いつか飲めるようになりたいって思ってて、なんかこう、その成長するぞ~~って思いを込めて、エスプレッソからとって、プレッソ!」


コーヒー好き(ただし苦いのは苦手)なシゲは、嬉しそうにそう語る。


プレッソと名付けられたクロネコは、その名前を気に入ったようで、嬉しそうに「ニャァ」と鳴いていた。

「よし、じゃぁお前はこれからプレッソだ!よろしくな、プレッソ!」


「なんともまぁ、忍者の具現獣っぽくない名前ではあるけど、本人?本猫?も気に入ってるみたいだし、よかったんじゃないかな。でもね、シゲ。エスプレッソって本来、砂糖入れて飲むものらしいぞ?」


それを聞いたシゲは、大きな衝撃を受けていた。

「え、それ本当ですか!?じゃぁ、おれでも飲めるじゃん!っていうかおれのじいちゃん、『この苦いのを一気に飲むのがかっこいいんだ』って言って、いっつもそのまま飲んでた!うわー、その話聞いた後に考えると、じいちゃんめっちゃかっこ悪いじゃん!!!」


衝撃を受けて騒ぐシゲをみて、古賀はどこか懐かしそうに微笑んでいた。

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