第269話:生まれてきたのは

『皆、準備はよいな?』

コモドドラゴンの言葉に、その周りを取り囲む重清達は頷いた。


ちなみに、先程まで重清達を囲っていた動物達は、いつの間にか離れた場所に待機していた。

動物達に危険が及ばないようにと、コモドドラゴンがそう指示をしたからである。


「ねぇ、なんであの動物達って忍力あるの?」

「シゲ、それ今じゃないとダメ?」

離れた動物達に目を向けて言った重清に、聡太がため息をついた。


『今さらだな。あ奴らは皆、生まれた時からこの森で我と過ごしてきたのだ。この強大な力に臆することなく、な。この力に長く触れていた故、あ奴ら自身も力を身に着けてしまったようなのだ。と、無駄話はこれくらいにしようか。

では、始めるぞ』

一同がその言葉に頷いたのを確認したコモドドラゴンは、目を閉じて集中し始めた。


「みんな、彼を囲むように忍力を展開させなさい!重清は茜と、聡太は恒久と、2人で組んで!

プレッソはこっちに来なさい!

ロイ、あなたは彼の上をお願い!」


「「「「りょーかいっ!!」」」」

忍力をバリアのように周りに展開させた智乃の言葉に、重清達は声を揃えて指示に従って2人で忍力を高め始めた。


「おっけー」

「承知した」

玲央もまた、智乃の言葉に従って彼女の元へと走り寄り、ロイは1人、コモドドラゴンの頭上へと浮かんでいた。


亀の姿となって。


「よし、じゃぁ、みんな!彼の周りに忍力を展開させるんだ!」

ガクがそう言うと、一同はコモドドラゴンを囲うように忍力の膜を張り始めた。


彼らの忍力が、1つの円柱となってコモドドラゴンを取り囲んだ。


「うむ。なんとか上手くいったようじゃのぉ」

その様子を見ていたロイはそう言って、空中でひっくり返った。


亀の甲羅をコモドドラゴンへと向けたロイもまた、忍力を放出して円柱へと蓋をした。


「もしも忍力が暴発しそうになったら、こちらへ向けるが良い」

ロイは、ひっくり返ったままコモドドラゴンへと言った。


『・・・・・承知した』

コモドドラゴンは、チラリとロイに目を向け、頷いた。


『では、ゆくぞ』

コモドドラゴンはそう言って、目の前へと忍力を集中し始めた。


「うわっ!」

コモドドラゴンから溢れ出る忍力の強さに、重清は忍力を展開させながらも声を上げた。


「ちょっ、忍力すごっ!!」

「シゲ、ちゃんと集中しなさい!こんなの、わたし1人じゃ無理よ!」

重清とペアを組んでいた茜が、苦しそうな顔で重清を見ていた。


「ごっ、ゴメンっ!!」

重清は慌てて、目の前へと集中する。


その時。


コモドドラゴンの目の前で渦巻き始めた忍力が、僅かに漏れ、重清達の方へと向かっていった。


見た目上は僅かとはいえ、限界まで濃縮された忍力が、重清達へと襲いかかる。


『むっ』

それに気付いたコモドドラゴンは、咄嗟に先程のロイの言葉を思い出し、漏れ出た忍力へと意識を向け、そのままその忍力をロイのいる頭上へと飛ばした。


「ロイっ!!」

重清の叫びと同時に、その忍力がロイへと直撃した。


ロイの甲羅へと。


「大丈夫じゃ。安心せい」

いつの間にか甲羅へと仕舞われていた頭をヒョイと出して、ロイは重清へと答えた。


「この姿になったからには、いかなる力も防いでやるわ。敵意の無い忍力の塊なんぞ、容易いものだ。亀の甲羅を、甘く見るでないわ」

ロイはホッホッホと、重清へと笑いかけた。



今はロイとなったゴロウの真の姿である亀は、高い防御力を持っていた。

何人たりとも、この甲羅を傷つけることはできないという自負が、ゴロウにはあった。


だからこそゴロウは、常に犬の姿に身をやつしていた。

あまりの防御力の高さに、全く戦闘における緊張感が無くなってしまうという理由で。


そのためにゴロウは、自身へと亀の姿になることに制約を課していた。


主を守る時のみ、この力に頼ろう、と。


それは、ロイとなった今でも変らない、彼の信念でもあったのだ。



「おぉ〜。ロイ、やるじゃん!」

玲央が、鳴らない口笛を吹きながらロイを見て笑っていた。


「じゃろうが。少しは儂を尊敬せい」

ロイは玲央へと目を向けながら、軽口を叩いた。


(くっ。とはいえ、流石に今の力では、ちとキツいのぉ)

そう、ロイが心の中でボヤいていると。


(トシなんだから、あまり無理はしちゃダメよ?)

ロイの頭にそんな声が響いてきた。


ロイがその声の主に目を向けると、智乃がニッコリと笑ってロイを見ていた。


(言うてくれるわ。今は1番ピチピチなんじゃぞ?)

(本当に若い子は、ピチピチなんて言わないけれどね)

元老亀と元老猫が、そんなやり取りをしていると。


『ふむ。終わったな』

そんなコモドドラゴンの声と共に、先程まで渦巻いていた忍力が消え失せ、重清達にかかっていた忍力による力の圧も、綺麗サッパリと無くなっていた。


「う、生まれたの!?」

重清がそう言いながら忍力の渦があった所に目を向けると、そこには1つの小さな卵が、チョコんと転がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る