第270話:卵が現れた

「卵、だね」

「あぁ、卵だな」

目の前の卵に重清が呟き、恒久がそれに頷き返していた。


「せ、成功、でいいのかな?」

聡太が、恐る恐るコモドドラゴンと智乃、そしてロイへと目を向けた。


「ちぇっ。なんでオイラには聞かないんだよ」

玲央は、1人不貞腐れていた。


「だって玲央、まだ生まれて1年経ってない赤ちゃんじゃん」

「あかっ・・・・重清っ!言うに事欠いて赤ちゃんはねーだろっ!」


「だって、生まれて1年経ってないのは事実じゃん」

「だからってなぁ!」


「落ち着け!」

言い合う2人の頭に、ガクの拳が振り下ろされる。


「「痛ってぇ!!」」

重清と玲央は、仲良く頭を押えてガクを見上げた。


「それで、これは成功ということで良いんですか?」 

重清と玲央うるさいふたりから睨まれたガクは、2人から目を逸らしてコモドドラゴンを見つめた。


『いや、まだのようだな』

「えぇ、そのようね」

「ふむ。このままでは危険じゃのぉ」

コモドドラゴンと智乃、そしてロイのご高齢トリオは地に転がる卵に目を向けながら、口々にそう答えた。


「いやロイ。危険って、普通の卵じゃ―――」

「近づくでない!」

言いながら卵へと近寄る重清に、ロイが叫び声を上げた。


「うわっ!突然叫ぶなよ!」

重清は、驚いてその場で足を止めてロイに向き直った。


「あぁ、すまぬ。じゃがな、危険なのは間違いないのじゃ」

「えぇ、ロイの言うとおりよ。その卵はまだ、安定していないわ。少しでも余計な刺激を与えると、注がれた忍力が暴発して、ドカン、よ?」


「うぉぃっ!!そんなに危ないの!?え、じゃぁこのままにしとくの?」

「いや、そういう訳にもいかんじゃろうな」

ロイが、犬の姿に戻ってそう重清へと返した。


『この卵、放っておいても力が暴発するであろうな』

コモドドラゴンも、じっと卵を見つめて呟いていた。


「孵化させてあげるしかないわね」

智乃は、ため息混じりに言った。


「孵化・・・しかし、どうやって?」

ガクは、智乃に目を向ける。


『この卵に、力を注いでみるしかあるまいて』

コモドドラゴンが、ガクへと答えた。


「じゃぁ、コモドさんがまた忍力注いじゃう?」

「コモドさんて」

重清の呑気な声に、恒久がボソリとつっこむ。


「いや、それではダメじゃろうな」

重清の言葉に、ロイが首を振る。


『そのようだな。我がこれ以上力を注いでも、この卵は弾けてしまうだろうな。我以外の、それも我の力と近い力を注がねば、危険は変わらぬであろう』

「近い力・・・ということは、具現獣ですか?」

チラリと玲央達に目を向けながらそう言ったガクの言葉を、


「いいえ、そうではないわ」

智乃が否定した。


「みんな、気付かなかった?彼の忍力の属性」

「あ・・・」

智乃の言葉に、聡太が声を漏らす。


「さすがは聡太ね」

智乃は、聡太へと微笑みかけた。


「緑・・・彼の忍力は、木・・・」

「「「ってことは・・・」」」

聡太の呟きに、重清、茜、恒久がじっと聡太を見つめていた。


「ぼくが、やるしかないみたいだね」

「いや、待つんだ」

聡太が決意のこもった目で卵を見つめてそう言うと、ガクが前へと進み出た。


「忍力を注いで、危険が去るとも限らない。そんな危険なこと、させるわけにはいかない。幸い俺も木の忍力を使える。ここは、俺が引き受ける」

「おぉ〜、ガクさんかっこいい〜!」

「あんたはちょっと黙ってなさい!」


男前なガクに尊敬の眼差しを向けていた重清の腹に、茜の肘が炸裂する。


「いいえ、あなたではダメなのよ」

そんな男前ガクに、智乃の無情な言葉が投げかけられた。


「俺の本来の忍力が、木ではないからですか?」

「ええ、そうよ。おそらく彼の主の忍力も木。そうよね?」

智乃はガクへと答えながら、コモドドラゴンを見る。


『あぁ、そうだ』

コモドドラゴンは、智乃の言葉に頷いて、聡太をじっと見た。


『危険なことは承知している。お主が力を注いでどうなるのかも、我には想像がつかぬ。だから、無理にとは―――』

「やります!」

『えぇ〜』


かぶせ気味に答える聡太に、コモドドラゴンは声を漏らしていた。


「そ、聡太君!危険だ!無理はするな!」

ガクは、聡太の肩を掴んで言った。


「ぼく、やりたいんです!コモドさん、1つ、お願いがあるんです」

『もう、我は「コモドさん」で固まったのだな。して、主の願いとはなんだ?』


「もしこの卵が孵化したら、生まれてきた具現獣、ぼくが連れて帰ってもいいですか?」

そう言ってじっとコモドドラゴンを見つめる聡太に、コモドドラゴンはふっと笑みを漏らした。


『そんなことか。あぁ、構わんさ。お主の力で孵化すれば、お主の子も同然。好きにするが良い』

「えっ、自分で言っててなんですけど、そんなに簡単に許可していいんですか?あなたのお子さんでもあるんじゃ・・・」


『であればこそ、なおさらよ。我の子に、このような所で過ごさせたくはない。お主が、生まれてくる子に、様々なものを見せて欲しい』

コモドドラゴンは、そう言って聡太を見つめていた。


「おぉ〜。ソウ、中学生にして父になるのか。しかも、相手はオスのコモドドラゴン。ソウ、上級者だな」

「なんの上級者だよっ!!」

「シゲ、あんたは一生、黙ってなさい!!」


ニヤニヤしながら聡太を見つめて茶々を入れる重清に、恒久のつっこみと茜の拳が炸裂するのであった。

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