第349話:雑賀家の暴君

「よう。2人とも、元気にしてたか?」

麻耶を追う平太と太の背を見つめる重清と裕二に、声がかけられた。


「あ、桔平叔父さん」

重清達が振り返ると、そこには父雅史の弟であり2人の叔父である桔平がいた。


「あれ?花姉ちゃんと彩姉ちゃんは?」

重清が辺りを見回しながら、桔平に言った。


花と彩は桔平の娘であり、2人とも重清より年上の高校生である。


「あぁ、2人にはちょっと用事を頼んで、席を外してもらったよ。このあとお袋から、忍者である俺達だけに話があるらしい」

「え?花姉ちゃんと彩姉ちゃんは、忍者じゃないの?」

桔平の言葉に、重清は驚きの声を上げた。


「なんだ、お前知らなかったのか。そう、2人とも忍者にはしなかったんだよ」

桔平は、そう言って苦笑いを浮かべた。


「忍者ってのはほら、色々と危険もついて回るだろう?可愛い娘を危険な目に合わせたくなくてな。彩花と話して、忍者にはしなかったんだよ。当時はお袋から、めちゃくちゃ怒られたけどな」

「なははは。まぁ確かに危ないこともあるもんね。桔平叔父さん、相変わらず良いパパしてるんだね」

重清は笑って桔平へと答えていた。


「いや重清。お前、そこに食いつくのかよ。ばあちゃんからの話の方が気にならないのか?」

裕二は呆れ声を重清へと向けた。


「さすがは重清だな。親父に似て、関係ないところに食いつくのが得意だな」

桔平が笑っていると、


「そういえば、2人には彼氏は―――」

「いや、いるわけ無いし認めるわけ無いだろ?」

重清がさらなる脱線を始めるも、それに被せるように桔平はそれまでの笑顔を忘れたかのような真顔で、重清を見返していた。


「あぁ、うん。桔平叔父さんも、相変わらずだね」

重清と裕二がそう言って笑いあっていると、雅がその場に姿を現した。


『部屋に入って来た』のではなく、何もない場所に突然『現れた』のだ。


その場の誰もが、それを当然のように受け入れる中重清は、

(ばあちゃん、何でも有りだな)


と、1人心の中で呟いていた。


プレ(まぁ、あのばあちゃんだからな)

チー(あのくらい、雅なら当たり前ね)

ロイ(雅ちゃんだしのぉ)


重清の頭の中でプレッソ達がそう囁いていると、


「みんな、揃っているようだね」

雅が部屋を見渡して話し始めた。


「みんなに集まってもらったのは他でもない、この雑賀分家の次期当主について話をしたい。

あの人平八が亡くなってから、あたしがその代わりを務めてきたわけだが、もう飽きた。

だから次の当主を―――」


雅の言葉に、その場の全員が息を呑む。


「7月21日に決める!」


「あ、今じゃないんだ」


重清が、ボソリとつっこむ。


「当たり前だよ。今日はあの人の命日だよ?なんでそんなこの世で最も忌むべき日に、そんな大事なことを決めなきゃいけないんだよ」

雅は不機嫌そうに重清へと返した。


「でも、なんでその日なんだ?」

重清の父雅史が首を傾げると、平太、雅史、桔平のそれぞれの妻である浩子、綾香、彩花と、そして麻耶がため息をついた。


「あれ?なんで女性陣、ため息ついてるの?」

雅史が恐る恐る尋ねると、妻の綾香が呆れ声で、


「あなたねぇ。その日は、お義父様とお義母様の、結婚記念日じゃないの」


「「「あ〜〜」」」


雅の息子達は、揃って声を出した。


「まったく、親の結婚記念日も覚えていないとはねぇ」

雅がそう言って息子達に目を向けると、3人は苦笑いを浮かべて雅の視線から目を逸らしていた。


「まぁいいさ。とにかく、その日はここに集まった全員、必ずここに集まること。いいね?」

雅は息子達から視線を外し、その場を見渡してそう告げた。


「う〜ん。7月21日かぁ。なーんかその日はあったような気がするんだけどなぁ」

重清がそう言って唸っていると、


「お前なぁ。その日お前は、中忍体じゃなかったのか?」

公弘が重清へと声をかけてきた。


「あっ!そうだった!ばあちゃん、おれ中忍体があった!」

「そんなもん、キャンセルだよっ!」


公弘「ばあちゃん。俺もその日は、教員になって最初の大事な仕事が・・・」

雅「キャンセル!」


雅史「俺もその日は、会社の方の出張が・・・」

雅「代わってもらいなさい!」


裕二「俺その日、ばあちゃん達の結婚記念日だから彼女にプロポーズを・・・」

雅「えっ、そ、それは・・・キャンセルだよっ!」

綾香「ちょっと裕二!?それ私聞いてない!」


麻耶「私も、ケンの応援に行きたいんだけど・・・」

雅「おや麻耶。ケン君とはうまくいっているようだね。じゃなくて、キャンセル!」

平太&太「だからケンって何者!?」


「お黙りなさいっ!!!!」


場がワチャワチャし始めたところで、雅が叫んだ。


ワチャワチャの原因は、雅なのだが。


「誰が何と言おうとも、これは変更しないからねっ!

1人でも来なかったら、ここにいる全員、あたしが全力で修行をつけるからね!わかったかい!?」


「えぇ〜〜〜」

一同が声を揃えると、


「返事は!?」


「・・・・・・・はぁ〜い」


暴君の人睨みで、一同は渋々ながらそれに答えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る