第184話:恒久の覚悟

『なにそれ、バッカみたい!』

スマホの向こう側から、茜の呆れたような声が聞こえてきた。


「だろ?俺もそう思う」

そう言って笑う恒久は、少し間をあけて重清達を見回したあと、何かを決意したように口を開いた。


「あのさ。実は俺も、お前らみたいな、その、『覚悟』ってやつが、あるんだよね。

ウチもさ、伊賀家の中では末席で・・・俺は、まだ本家の奴らと接したことがないから、なにか言われたことはないんだけどさ。


いつも、親父が色々と言われてるみたいなんだよ。何言われてるかは知らねーけど、なんつーか、いつも親父がペコペコしててさ。


そんな親父をかっこ悪ぃとも思うんだけど、それ以上に、本家の奴らにスゲー腹立つんだよ。

一応さ、親父は親父なりに頑張ってるんだよ。それ見てるからこそ、本家の奴らが理不尽なこと言ってるってのが、なんつーか、分かっちまうんだよな」


そんな恒久の言葉を、誰一人遮ることなく重清達は聞き入っていた。


「ふっ。お前らがこんだけ静かに聞いてくれるのも、珍しいな」

「いや、おれが口開いたら、確実に脱線させそうだからね」

重清が、そんな恒久に照れ笑いしながらそう答えた。


「だな。で、俺としては、本家の奴らを見返したいって思ってるんだよ。

伊賀家の忍術だけじゃなく、色んな忍術を覚えて、伊賀家で一番、強くなりたい。それが俺の覚悟、かな」


『ふーん。あんた、そんなんでいいんだ』

スマホから、茜のそんな声が聞こえてきた。


「なに?」

恒久が、スマホに映る茜を睨む。


『結局さ、あんたもその本家の人達と変わらないじゃない。あんたはただ、強くなって本家の人達を見下したいだけなんじゃないの?』

「ぐっ」

そんな茜の言葉に、恒久は言い返せずにいた。


『強くなるっていうのは、わたしも反対はしないわよ?でも、本当にそれだけでいいの?

確かに、あんたと伊賀家との関係は改善されるかもしれない。けど、それだけなのよ?』

「だ、だったらどうしろっていうんだよ?」

恒久が、少し不貞腐れたようにそう返す。


『どうせだったら、忍者の中で1番偉くなって、そんな考え方、根本から無くすくらいのこと言いなさいよ』

「1番偉く、って・・・」

恒久が、混乱したように呟くと、


「忍者協会、だね」

聡太が恒久に笑顔を向けた。


「なーる!忍者協会のトップに立てばいいんだよツネ!いいじゃわんそれ!カッコいいじゃん!!」

重清が、目を輝かせる。


「いや、急にそんなこと言われてもな。そもそも、どうやってなれるんだよ?」

そう言って恒久が茜に目を向けるも、


『そんなの、知らないわよ』

茜は冷たく言い放った。


『とりあえず、わたし達が3年になったときに、部長になってみなさいよ』


「はぁ!?」

茜の言葉に、恒久が大声を上げる。


『まぁ、あんたには無理でしょうけどね。わたし達の部長は、ソウで決定だし』


「はぁ!?」

今度は聡太が、大声を上げた。


「ちょっと茜!なんでぼく部長なのさ!?」

「え?おれもソウが部長になると思ってたよ?」

そんな聡太に、重清も当たり前のように笑いかけていた。


「いやまぁ、確かにこの中じゃどう考えてもソウだけどよ。それを、俺にやれってのか!?」

『今のあんたじゃ、無理よね。別に無理しなくていいのよ?わたしはあんたになんか、部長になって欲しいとも思ってないし』


「あぁ!?俺じゃ無理だってのか!?あぁわかったよ!目指してやるよ!!部長も、協会のトップも、なってやろうじゃねーか!!

じゃぁ今日から俺の目標であり覚悟は、『強くなって、忍者協会のトップに立つ』だ!」


「ツネ、意外と扱いやすいな」

「ほんとにね。ぼくとしては、部長なんてガラじゃないから、助かるんだけどね」

重清と聡太は、そう言って呑気に笑い合うのであった。

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