第249話:とりあえずあいこまで

雅の言葉に、重清は頷いた。


「じゃぁゴロ爺、いくよ」

そう言って雅がゴロウへと手をかざすと、ゴロウの体から青い忍力が溢れ出し、そのまま雅の手の平へと吸い込まれていった。


「水、なんだね」

その様子に、聡太が呟いていた。


「儂の元々の具現者は水の忍力の持ち主だったからのぉ。普段は水の忍力を持つことが多いのだ。くっ、流石にこれだけ忍力を失うのはキツいのぉ」

聡太へと答えながら、ゴロウはどんどんと忍力を吸い出され、声を漏らしていた。


そんな中、聡太は考えていた。


(だったらあの時、火の術じゃなくて水の術を使っていれば、シゲのダメージももう少し軽かったんじゃ・・・)

と。


聡太の言うあの時とは、ゴロウがドウと戦った時であり、重清に流れ弾が飛んだときである。


ゴロウが火弾の術を使ったことで、流れ弾を受けた重清の髪は、少し焦げていたのだ。


ゴロウとしては、あの時にどちらの術を使おうとも特に問題は無かったのだ。

ただ、水の術では威力が強すぎると判断したため、火弾の術を使ったにすぎない。


しかもまさか、重清へと流れ弾が飛んでいくとは思ってもみなかったのである。


ゴロウは、全然悪くはないのだ。

ただちょっと、年を取りすぎていただけなのである。


そうこうしているうちに、ゴロウから出てくる忍力がドンドンと少なくなり、やがてそれすらも無くなっていった。


「そろそろだね。六兵衛、ゴロ爺との契約を切りな。重清は、すぐにゴロ爺に忍力をありったけ注ぐんだよ」

その雅の言葉に六兵衛が頷き、ゴロウを見つめた。


「ゴロウ、今まで世話になったな。色々と失望させて、悪かった。よければ、これからも陰から本家を見守ってくれ」

「そりゃ、新しい主次第じゃがな。

世話になったな」

六兵衛は再度頷き、


「雑賀本家当主雑賀六兵衛は、ゴロウとの契約を破棄する」

そう言うと、ゴロウが光りだした。


その姿が薄れていく中、重清はゴロウへと手をかざした。


「じゃぁゴロウ、いくよ!」

「あぁ。とびっきり美味いのを頼むぞ」


ゴロウの言葉と共に、重清は全力で忍力をゴロウへと注ぎ始めた。


「ほっほっほ。こりゃ、中々美味じゃな」

そう言いながら、ゴロウの体が光り始めた。


その場にいる全員が、あまりの眩しさに目を覆っていた。


いつの間にかサングラスを準備していた雅を除いて。


「おい重清。もう大丈夫みたいだぞ」

頭の上からプレッソのそんな声が聞こえてきた重清は、少しずつその目を開いた。


先程までゴロウのいた場所に、老いた犬の姿は無かった。


「あれ??」


代わりにその場にいたのは、手の平に乗るほど小さい、亀であった。


「ふむ。終わったようじゃな。予想通り、力も全て牛なったようじゃな。こうでなくては、面白くないわな」


そんな亀から、ゴロウの声が聞こえてきた。


「えっと・・・・ゴロウ、なの??」

重清は、亀に向かって話しかけた。


「そうじゃが?」

ゴロウが、当たり前のように返してきた。


「えっと・・・亀になってるよ?」

「ん?そうか。姿が元に戻っておったか。案ずるな。儂は元々、亀じゃ」


「いや亀じゃ、て。じゃぁ何で犬の姿なんかしてたのさ?」

「この姿、動きにくいんじゃよ」

そう言いながら、ゴロウはのそのそと歩き始めた。


それはもう、ゆっくりと。


「あー、うん。納得」

重清は、そのあまりの動きの緩慢さに納得して頷いていた。


実際には、他にも亀の姿をしていなかった理由があったりするゴロウは、小さな瞳で重清を見つめた。


「して、新しい主、重清よ。儂の名はどうする?」

「え、やっぱ換えちゃう感じ?」


「どうせだったら、心機一転、というやつじゃ」

「そっかぁ・・・・」


そう言って少し考えた重清は、亀を見つめて言った。


「じゃぁ、ロイ、で!」


重清は自信たっぷりにニカァっと笑った。


「で、名前の由来は?」

聡太が、重清へと雑に問う。


「よくぞ聞いてくれました!

ゴロウは、ずっと雑賀本家の具現獣で、すげー長生きなんだろ?ってことは、チーノよりも大人だ。

で、大人と言ったらお酒!

お酒を使ったコーヒーに、カフェ・ロワイヤルってのがあるんだ。おれが大人になったら飲んでみたいコーヒーナンバー1のやつね。で、それからとって、ロイ!!」


「ふむ。儂も酒は好きだからな。その名、気に入った」

ゴロウ改めロイが、重清に満足そうに頷いていた。


多分、満足そうに、だ。


その場のほとんどの者は、小さな亀の表現など全く分からないのである。


「さて、ゴロウ、ではなくロイ、だったな。ロイの契約も済んだし、我々はそろそろ失礼しようか」

六兵衛が、そう言って雑賀本家一同に目を向けると、一同はそれに頷き返していた。


ただ1人、美影を除いて。


「重清っ!」

美影は、重清へと駆け寄った。


「あの・・・このままだと、全部あの子に負けたままになっちゃうから・・・」

「ん??」

美影が何を言っているか分からない重清が、訳もわからず美影を見ていると。


その顔が突然近づき、気付くと重清は、美影から唇を奪われていた。


「と、とりあえず、これであの子琴音との重清争奪戦は、今の所あいこよっ!」

そう言って顔を真っ赤にする美影に対し、重清は目を見開いたまま、硬直していたのであった。


そんな重清と美影に2中忍者部の面々は、


ソウ「うっわぁ〜。大胆」

ツネ「なんで、シゲばっかり・・・」

アカ「あらあら・・・・」

麻耶「重清、やるじゃない」

シン「シゲ、いいなぁ〜」

ノブ「・・・・う、羨ましい」

ケン「シゲ、やるな」

ノリ「平八様の孫でなければ、とっくに滅してやるのに」


好き勝手言っているのであった。



こうして、色々と騒動を運んできた雑賀本家は2中を去っていった。


翌日の休日明けから、美影、充希ロス現象により、一部の生徒達が授業中にぼーっとする場面が増えたとか増えなかったとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る