第464話:幕引き
「「ん??」」
目の前にいた重清と目を合わせながら允行は、同じく何が起きたのか不思議な重清と同時に、首を傾げていた。
「ぷっ!!」
その時、
「允行!あんた俺達の話聞いてたのかよ!?
俺達はみんな、死んでここに来たんだぞ?
あんたも死ねば、このままここに残るのは当たり前じゃねぇかよっ!」
「「あ・・・」」
「あー、やっぱりシゲ、気付いてなかったんだ」
2人して間抜けな声を上げている重清と允行に苦笑いを浮かべながら、聡太は1人呟いていた。
(おい茜、お前こうなるの分かってたか?)
(もももももちろんじゃない)
(いや嘘下手かっ!)
聡太の影でコソコソと話し合う恒久と茜をよそに、允行の弟弟子達は騒ぎ始めていた。
そう口々に言いながら笑い転げる麟達の中から、そっと允行の元へと歩み寄った
「おかえりなさい、允行」
そう、優しく語りかけた。
必死に笑いをこらえながら。
「
そんな
(分かる。その気持ち良くわかるぞ、允行!)
と、強く頷いていた。
青龍もまた、相談やブルーメと感動の別れをしておきながらそれほど時間を置かずに再会するという苦行を味わっており、允行の今の気持ちがよく分かるのであった。
それはさておき。
「允行、そう落ち込むな。皆も、お前が帰ってきたことが嬉しいのだ」
始祖はそう言いながら、允行の肩へ手を置いた。
「それに、これでようやく我らも、この場から解放される」
「それはどういう―――――」
始祖の言葉に允行が答えていると、
「っ!?」
允行は言葉を詰まらせて自身の手を見つめた。
先ほどのなんちゃってさらばと同じく、その手は存在ごと消えていくように薄く、おぼろげなものになっていた。
そしてそれは、允行の肩に置かれた始祖の手も同様であった。
「ちょ、次は何が起きてるの!?」
允行達の様子を見た重清が、慌てたように声を上げていた。
その後ろでは、聡太や恒久、茜も同様にうろたえた様子で允行を見つめていた。
允行が死後、この洞窟に留まることは予想していた聡太も、今何が起きているのかはわからなかったようである。
あわあわする重清達に、始祖は優しく語り掛けた。
「なに、問題はない。我らに掛けた術が解けただけだ」
「術が?」
重清が首をかしげていると、始祖は語りだした。
「先ほども言ったように、私は自身と弟子たちに、生前術をかけていた。死後、私の作り上げたこの空間に留まるという術を。
しかし、いつまでもこのような場に留まるつもりもなかった。だから私は、事前にこの術の解除条件を作っておいたのだ。
1つは、この場に私と、允行を含めた弟子達6人が死を迎えて一堂に会すこと。
そしてもう1つが、私の作り上げた契約書を、別の誰かに授けること。
後者は、お主達の希望通り契約書変更の権利を協会に以上することで満たした。
そして・・・ぷっ!」
そう言いながら允行に目を向けた始祖は、噴き出した。
彼もまた、允行のなんちゃってさらばを弟子達と共に笑いたかったのだ。
しかし、師として、そして父として、そのようなことをすれば允行が悲しむと知っていた始祖は、必死に耐えていたのである。
結局は、無駄に終わってしまったが。
むしろこの大事な場面で笑いをこらえきれない方が、タチが悪いのではないか。
允行はそんな気持ちとともに、
「ち、父上までも・・・」
そう呟いて落ち込んでいた。
「すまないな、允行。どうしてもこらえきれなくてな。
本当はもうしばらく、皆でこの場に留まり、共に過ごす時間を設けた後にこの話をするつもりだったのだが・・・」
允行「なっ、丞篭、何を言って―――」
丞篭「あれだけ待たせたんですもの。もう逃がしはしないからね!」
始祖「允行、諦めなさい。お前たち2人の新婚旅行が終わったら、皆で地獄めぐりといこうではないか」
始祖とその弟子達は、そう言いあいながら次第にその姿を霧へと変えていった。
そんななか、始祖は重清達へと目を向けて、頭を下げた。
「我らが作り上げた忍者のこと、よろしく頼む。お主達であれば、きっと良い方向に忍者を導いてくれると信じている。
では、さらばだ」
「
「麟、もう勘弁してくれ」
始祖の言葉に横から茶々を入れる麟に允行が情けない声を出し、そのまま笑い声をあげながら始祖達は霧となって消えていったのであった。
「・・・・・・逝っちゃったね」
重清が小さく呟いた。
ツネ「あの允行ってやつ。一応今回の騒動の黒幕だろ?こんな終わり方でいいのかよ」
シゲ「まぁ、いいんじゃない?美影には悪いけど、あの人そんなに悪い人にも思えなかったし」
ソウ「・・・そうだね。それに、ぼくらにはこんな終わり方がちょうどいいんじゃないかな?」
アカ「確かにそうよね。シリアスな場面は、わたし達には似合わないし」
「「「言えてる」」」
茜の言葉に重清達が同意していると、
「で、オイラ達はどうやって元の場所に戻るんだ?」
プレッソがボソリと言った。
「「「「あ・・・」」」」
一同が不安げに視線を交わしていると、次の瞬間洞窟が消え、彼らの視界には森が広がっていた。
「あ、元の場所だ」
こうして重清の言葉通り、彼らは元の場所へと戻ってきたのであった。
かくして、重清達を巻き込んだ一連の騒動は、黒幕の楽しそうな地獄行きという何とも言い難い終わりとともに、幕を閉じることとなるのであった。
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