第463話:允行の最期?

重清達が元の世界へと戻る少し前のこと。


重清が、新しい契約書に『自分の意志で契約を破棄しても、忍者としての記憶を失わない』ことを追加する提案をし、それを始祖が契約書へと付け加えたのを確認した允行は、自身の契約書を具現化させた。


そしてそれを允行、躊躇うことなく破り割くのだった。


「ふむ。確かに記憶を無くしてはいないな。そして、やはりこうなったか」

そう呟いた允行の体は、次第にその存在ごと無くなるかのように薄くなっていた。


「えっちょ、なにこれ!?こうなるなんて、頼んでないよ!?」

消えゆく允行を見た重清は、始祖へと非難めいた視線を向けた。


「父上のせいではない。父上との契約によって得たこの不老不死の力。契約を破棄すればその力はもちろん失われる。そしてそうなれば、私の長い生を終えることが出来ることは想像が出来ていた」

自身のために父を避難がましく見つめる重清に、允行はそう言ってほほ笑んでいた。


「そ、そんな・・・死ぬと分かってて、何で契約を破棄するんだよっ!あんただって、反男君や他のひとたちみたいに、他の何かになれる可能性があったのに!

何でそれを捨てて、死のうとするんだよっ!」


「ん?どういうことだ?」

重清の叫びに、恒久は小さく呟いていた。


「あんた、分かっていなかったのね」

そんな恒久に呆れた声をかける茜に、


「なんだよ。お前は分かってたのかよ?」

恒久は若干恥ずかしそうに茜へと返していた。


「シゲはね、黒い忍力を持つ人達に、別の選択肢を用意したんだ」

聡太がそっと、恒久へと語りかけた。


「選択肢?」

「そう。シゲの言うとおりこの世界には、忍力の元になったこの力で、別の何かになっている人達がいる可能性は否定できない。それこそ魔法使いとかね。

シゲは、黒い忍力を持つ人達は、本来その別の何かになる可能性を秘めていると考えたんだと思うんだ。


だから敢えて、その人達が契約を破棄しても、忍者としての記憶を失うことがないようにした。

彼らが、別の可能性を探すことができるように。

記憶を失くしちゃったら、可能性があることすらも忘れちゃうでしょ?」

允行へと目を向けて悲しげに笑いなら聡太は、


「契約を破棄した允行さんがこうなることは、シゲも予想外だったと思うけどね」

そう、付け加えていた。


「なるほどな。シゲの奴、たまにクリティカルなアイデア出しやがるな」

「あんたは全然だけどね」


「うるせぇな。俺は、クリティカルなつっこみ専門なんだよ」

嫌味を返す茜も、口を尖らせながらもそれに返す恒久もまた、消えゆく允行を複雑な面持ちで見つめていた。


重清達一同のそんな視線を集めていた允行は、少し困ったように笑って重清を見つめていた。


「逃げるような形になって、あの娘には申し訳ないと思っている。お主の方から謝っておいてくれ。父を死に至らしめたことを」


「それでも、私は後悔してはいないがな」そう付け加えながら言う允行に、重清は小さく首を振った。


「最後のは余計だよ。それにそこまで言うなら、自分で言えばいいのに」

もはや允行の死を止めることが出来ないと覚悟した重清は、それでもなお允行に嫌味を言う事しか出来なかった。


「だから、申し訳ないと言っておるのだ」

そう重清へと返した允行は、始祖の方へと目を向ける。


「父上。短い時間でしたが、あなたに、そして皆に会えて良かった。

忍者の未来は、彼らに託し、私は先に逝かせていただきます。

皆も、息災でな」

そう言いながら向けられる允行の視線に、弟弟子達は微妙な顔を向けていた。


そしてそれは、始祖もまた同じであった。


死を迎えるというのに、涙すらない父や友の姿に、允行は嘲笑的な笑みを浮かべていた。


「ふっ。私には相応しい最期のようだ。

自身の目的のためだけに、人を殺め、陥れようとした私は、最後まで独りなのだな・・・・

これが、その報いか」

悲しい笑みを浮かべる允行の体が、更に薄くぼやけ、それは今にも消えそうなほどになっていた。


「では、さらばだ」


その言葉と共に、允行の体は光に包まれて辺りをまばゆく照らした。


あまりの眩さに目を覆った重清達が目を開くと、允行のいた場には・・・・


まだ允行がポツンと突っ立っていた。

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