第465話:そして数カ月

允行との死闘?を終えて数ヶ月。


その間重清達は、バタバタと忙しい日々を送ることとなった。


突然の『始祖の契約書』書き換え。

それと同時に判明した、契約書書き換え選挙。


あの洞窟から帰った重清達は、忍者協会長である雑賀六兵衛を筆頭に、協会幹部たちから質問攻めにあった。


更にその中で明るみになった、血の契約者に選挙権が無いという事実。


そのことで彼らは、一部の協会幹部(血の契約者)達からの叱責を受けることとなった。


しかしそれは、


「あたしの孫が決めたことに、何か文句があるのかい?」

と言う雅の一言で一瞬にして半ば無理矢理に抑え込まれていた。


それと同時に、『始祖の契約書』を書き換えた者達は、協会においてトップ中のトップシークレットとして扱われることとなった。


そんな『始祖の契約書』に関するゴタゴタがある程度落ち着くと、重清は正式に雑賀末席の当主へと就任し、更には聡太も、風魔本家の当主となった。


2人の唯一の違いは、重清が当主就任と同時に、自身が当主を務める雑賀末席の解体を宣言したことであった。


元々特に雑賀末席の座を守りたいとも思っていなかった雅はそれに同意し、雑賀本家当主である雑賀六兵衛もまた、渋々ながら雅に脅されつつそれを承認し、雑賀末席は重清の代で、解体されることとなった。


六兵衛の唯一の願いとして、雑賀の名だけは今度も名乗ることとなった元雑賀末席一同であったが、基本的にやる気のないこの家系、誰もそれを気にすることなく受け入れたのであった。


茜は、甲賀都との約束通り、彼女の弟子となった。

元々、天才忍者と呼ばれる半ば伝説的な存在であった雑賀雅の弟子であった茜は、雑賀平八の師である甲賀都にも弟子入りしたことにより、その存在は女子忍者達の憧れの象徴となりつつあった。

愛の戦士ヴァルキリー』の名は、2中だけでなく忍者界隈の女子たちの間でも、広がりつつあることを茜はまだ知らない。


恒久は、つっこみの弟子としていた雑賀六兵衛へと、忍者として弟子入りすることとなった。

それと同時に恒久は、六兵衛から忍者協会の運営についても学ぶようになっており、今も忍者協会長の座を目指して日々修行と勉強に明け暮れていた。

結局2中忍者部の次の部長が聡太に決定したことが、彼の本気を引き出すこととなったのだ。

果たして、彼は忍者協会の会長となることができるのか。

それはまだ、誰にもわからないことなのである。



そしてそんな彼らは今、忍ヶ丘市内のとある結婚式場に集まっていた。


「まさか、あの人が結婚するなんてね」

茜が、ヴァージンロードの先に立つ新郎に目を向けていると、


「ぼくも驚いた。でも、あの人もずっと結婚したかったみたいだから」

そう言いながら、聡太はヴァージンロードを進む新婦を見つめていた。


そして、何故か神父のいるべき場に立つ甲賀オウを前に見つめ合う新郎新婦をじっと見つめていた恒久は、おごそかな雰囲気に負けて小声で2人につっこんだ。


(いや誰だよ!)

見知らぬ新郎新婦の結婚式にほとんど強引に参加させられていた恒久の、満を持しての小声のつっこみである。


「新郎は甲賀本家当主、甲賀以蔵いぞうさんよ」

「新婦は風魔本家元当主で、ぼくの伯母、風魔紅葉もみじさんだね」

茜と聡太は、それぞれ小声で恒久へと冷静に返していた。


以蔵「いや、口付けは、口付けはまだ早いですからっ!!」

紅葉「おい待てコラ!その唇寄こさんかぁーーーいっ!!」

彼らの目の前では、逃げ惑う新郎と、忍術を駆使してそれを捕まえようとする新婦の鬼ごっこが始まっていた。


なおこの結婚式、出席者は全員が忍者である。

しかも、出席者の殆どは忍者協会においても立場の高い者たちである。

甲賀本家当主と、元とはいえ風魔本家当主の結婚という前代未聞のこの事態に、出席者達は目の前で繰り広げられる良い年をした男女の鬼ごっこを、苦々しい顔で見つめていた。


これまで、本家同士での結婚などというものは一度も無かったのだ。

それが現実のものとなったのは、『始祖の契約書』書き換えが大きな要因となっていた。


書き換え投票の権利が血の契約者に無いと判明したことにより、各家系本家の一部では既に、新たな契約の模索が始まっていた。

とはいえそれもまだごく一部のことであった。


それを加速させるための手段として、雑賀雅と甲賀都という最強のコンビに、参謀として聡太が加わり、以蔵と紅葉の結婚が実現したのである。


周囲に決められた結婚とはいえ、元々結婚を熱望していた2人にとってもこの話は悪いものではなく、この話はすぐに決定されたのである。


もちろん、それに反対する忍者もいたが、それらは全て雅が簡単な話し合い実力行使で解決しているのである。



結局紅葉に捕まって熱烈なキスをされた以蔵が気絶して担架で運び出され、それを紅葉が、


「あ〜ん。大丈夫?〜」

と縋るように以蔵に付き添うのを見つめていた聡太達は、不意に視線を交わし、苦笑いを浮かべた。


「シゲも、ここに居たら良かったのにね」

聡太が寂しそうに呟くと、恒久と茜もまた小さく笑っていた。


そう。この場に、重清は来てはいなかった。

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