第466話:雑賀重清の目標

「おれ、やりたいことが見つかった!だから、旅に出てくるっ!!」

春休みに入る直前、重清はそう聡太達に宣言して旅立った。


彼の言う目標が何であるかを告げることもなく。



「ほんと、突然だもんな。あいつはイノシシかってんだよ」

バタバタした結婚式を終え、次の披露宴会場へと向かうべく立ち上がりながら、恒久は苦笑いを浮かべた。


「ほんとよねぇ。行き先も何も言わずに行っちゃうなんてね」

恒久の言葉に頷きながら、茜もこの日のためにあつらえたドレスを直して、立ち上がった。


「・・・・・・」

「ちょっとツネ。ジロジロと見ないでよ、イヤらしい」

そんな茜を見つめていた恒久の視線を遮るように手で必死に体を覆いながら、茜は恒久へと言った。


「イヤらしいっておい!俺はただ、馬子にも衣装だなぁとか思ってただけで―――」

「はぁ!?人のことジロジロ見ておいて、その言い方はないんじゃないの!?」


(はぁ。ツネ、素直じゃないなぁ)

式場を出ながら言い合う2人の背を見つめながら、聡太は心の中で呟き、会話を戻すべくその背に声をかけた。


「あの〜、シゲのことなんだけどね・・・」

「ん?ソウ、呼んだ?」


そんな聡太の言葉を遮るように、彼らの目の前から声が聞こえてきた。


聡太達がその声の先に目を向けると、そこにはワイングラス入ったアイスコーヒーを優雅に飲む、重清の姿があった。


「ちょっ、シゲ!お前何してんだよっ!?」

「何って。ちょっと遅刻しちゃったから、ここで披露宴待ってるんじゃん。見て、このワイングラス持ってたら、大魔王みたいじゃない?

我こそは、大魔王の孫、ヘハマゴだ!な〜んて―――」


「いやそこじゃねぇよっ!久々に会った途端に脱線かましてんじゃねぇよっ!」

「おぉ〜。ツネのつっこみは相変わらず、冴えてるね〜」


重清はアイスコーヒーをひと飲みしてテーブルにワイングラスを置き、いつものように呑気に笑っていた。


「シゲ、あんた旅してるんじゃなかったの?」

「え?してるよ?現在絶賛旅の途中でございます」

そんな重清に、茜が声をかけた。


「もしかして、このためにわざわざ帰ってきたの?」

「っていうかおれ、毎日夜はウチに帰ってるし」


「いやそれ、どこが旅なんだよっ!」

すかさずつっこみをいれる恒久に、重清はチッチッチと指を横にふった。


「ツネ、分かってないなぁ。おれ、まだ中学生だよ?夜に出歩いてたら、補導されちゃうじゃん。

ホテル代だってバカにならないし」

「ぐっ。めちゃくちゃ正論で腹立つけど・・・それだとそんなに遠くに行けねぇじゃねぇかよ。

それのどこが旅なんだよ?」


「ツネ、分かってないなぁその2。おれは、中学生であると同時に、忍者なんだよ?

おれには、ばあちゃんから借りた術がある。忍者部の部室に移動する術と同じやつね。

それがあれば、どこまで行ってもすぐに家に帰ることができるんだよ?」

「それがあったか!じゃねぇ!お前に論破されると、すげぇムカつくっ!!」

ことごとく重清に言い返された恒久は、悔しそうに叫んでいた。


「もしかして、ソウは知ってたの?」

「そうなんだ茜。ぼくの家、シゲの家の隣だからさ。シゲが帰ってきたら、騒がしくてすぐにわかっちゃうし」


「だったら先に言ってくれよ」

恨みがましく聡太に目を向けていいう恒久に、聡太はニヤリと笑みを浮かべる。


「いやだって、言おうとしたら2人がイチャイチャしてたから・・・」


「「イチャイチャはしてない!断じてっ!!」」

恒久と茜は声を揃えてそれに反論した。


ちなみに、現在この2人は付き合ってなどいない。

今もまだ、恒久の絶賛片思い中である。


「そんなことよりシゲ、おかえり」

「あぁ、うん。ただいま」

恒久と茜と抗議を無視して重清へと笑いかける聡太に、重清も頷いてそう返した。


「ところであんた、何で旅なんかしてるのよ?」

(茜は全然俺のこの意識してねぇ・・・)

聡太への反論を無視されたことを気にも止めずに重清へと話しかける茜に、恒久は心の中でショックを受けつつも、同じ疑問を抱いていたこともあり重清の答えを待つべく視線を向けた。


「あれ?言ってなかったっけ?」

重清は首を傾げながらも、話し始めた。


「今回のゴタゴタのお陰で、おれ思ったんだ。

允行さんや反男君のような、もしかしたら忍者以外の何かになれる可能性がある人達が忍者にいるみたいに、忍者じゃなくて他の何かになっている人達の中にも、忍者の方が合っている人達がいるかもしれないって。


もしかしたらその人達も、忍者みたいに虐げられているかもしれない。

だからおれ、そういう人達を探してみようと思ってさ。おれでもそういう人を救えるかもしれないし。

忍者だとかそうじゃないとか関係なく、この力に振り回される人達を助けたい。それが、おれの新しい目標なんだよね」


「なるほど。シゲらしいね」

「そうね。元々『全てを守る』なんて漠然とした目標から、よくもそんな所に辿り着いたと感心したわ」

聡太と茜がそう言って頷いていると、


「でもなんつーか、雲を掴むような話だな。そもそも、忍者以外にこの力を使っている奴らが居るって保証もないのによぉ」

恒久が見事なまでにそれに水をさした。


しかし重清は、そんな恒久の言葉にニッと笑顔を浮かべた。


「それが、そうでもないんだなぁ」

「え?何か手掛かりでも見つかったの?」

重清の言葉に、聡太が驚きの表情を向けた。


「まぁ、ちょっとね。まだ確証は無いんだけどさ」

「勿体ぶってないで、教えなさいよ」


「いや、まだ教えられないかな。まずはおれだけで確かめたいしさ」

重清がそう答えると、3人は肩をすくめて視線を合わせた。


「そういえばお前。契約はどうすんだ?」

話の続きを諦めた恒久は、話題を変えるべく重清へ問いかけた。


「あぁ、契約ね。おれは六兵衛さんから、雑賀を名乗って欲しいって言われてるから、この旅でついでに雑賀を名乗る契約忍者を探してるよ。

ツネはどうするの?」

「俺も探してるとこだ。つっこみを大事にする伊賀の名を捨てるのも、なんか嫌だしな。

はぁ。血の契約者同士での契約はダメって条件、厳しすぎないか?」


「そんなの、今更遅いわよ。あんたも、シゲと一緒に旅でもして探したら?」

「旅とか面倒くさい」

本当は茜と離れることが嫌な恒久は、そんなことをおくびにも出さずに、茜へとそう答えていた。


「でも、シゲ、よかったの?あれだけ、『おれは忍者の子孫だ』って言ってたのに、こんな条件にして。

血の契約者じゃなくなったら、忍者の子孫とは言えなくなっちゃうんじゃない?」

聡太は重清の顔を覗き込んで、心配そうに声をかけていた。


「ま、それこそ今更じゃん。それに、やっぱり血の契約者の存在は、もう古いしさ。

っていうかそもそも、そんなにおれ忍者の子孫だってことアピールしてないからね?」


「「「入学式以外ではね」」」

「もうそのエピソード忘れさせてっ!」


声を揃えた聡太達に涙ながらに叫んだ重清であったが、その顔には躊躇いなどは一切無かった。


「おれはもう、忍者の子孫であることには全然誇りとかないからね。

どっちかっていうと、じいちゃんの孫ってことの方が、嬉しいかな。


だからこれからのおれは、『忍者の子孫』じゃなくて、『忍者の孫』だっ!」

「いやそれっぽい締め方してんじゃねぇよっ!」


新郎が気絶してあわただしい式場に、ドヤ顔を浮かべて言い切る重清へとつっこむ恒久の声が、大きく響くのであった。




---------------

あとがき


本編は、ひとまずこれにて終了です。

明日から数話だけエピローグを掲載し、『おれは忍者の子孫』は終わりとなります。

エピローグではこれまでの登場人物たちの現在を描きたいと思ってはおりますが、「この人はその後どうなった!?」等ありましたら、感想にご要望ください。

先に考えている人もいるので、全てにお応えできるかはわかりませんが・・・


あと少しですが、よろしければ最後までお付き合いいただけますと幸いです。

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