第54話:古賀の想い

重清が決心していると、ソウが再び口を開く。

「先生、戦力の話が出てきたので、そろそろ・・・」


「・・・あぁ、属性の相性の話だね。ソウ、きみはどう考えているんだい?」

「あ、あの、ぼくはまず、ショウさんのご意見を伺いたいです。」

そう言ってソウは、ショウに視線を送る。

「だそうだけど?」

古賀が、ショウに目を向ける。


「んー、ソウの方が詳しいと思うんだけどなぁ。」

そう呟いて、ショウが話し出す。


「僕のこれまでの経験で何となく気付いたのは、水は火に、火は金に、金は木に、木は土に、土は水に強いってことですかね。じゃんけんみたいに。

それとは別に、水は木を、木は火を、火は土を、土は金を、金は水を吸収して力を増すようにも感じていますよ?

ソウ、これでいい?」


ショウの言葉にソウが頷く。

「ぼくもそう思います。あくまでもぼくは、ショウさんみたいに経験からってわけじゃないですけど。何かの漫画で見たのは、その関係でした。」


ソウの言葉を聞いた一同の視線は、古賀に集中する。

古賀の反応を待っていると、古賀はため息混じりに話し始める。

「私は今、迷っているんだよ。この話を細かくすべきかどうか。」


「それは、なぜですかい?」

そう口にしたのは、ノブだった。

属性の相性を知らないがために、後輩であるアカから少ないとはいえダメージを受けていたノブは、古賀の反応に若干ながらも怒りを感じていた。


「これはね、本来高校生のカリキュラムなんだ。」

「じゃぁもしかしておれたち、他の中学の奴らが知らないことに気付いちゃったってことですか?」

恒久が嬉しそうに言う。

気付いたのはショウであり、恒久は何の貢献もしてはいないのだが。


それに対して古賀は、首を振って否定する。

「いや、ほとんどの顧問は、中学で既にこのことをしっかりと教えていると思う。」

「は?」

全員の声が揃う。


「じゃぁ先生は、他の中学生が知っていることを、敢えて教えていなかってっていうんですか!?」

シンが声を荒げる。


「・・・その通りだ。」

ただそれだけを答え、古賀は黙り込む。


「そんな・・・古賀先生は、おれたちが中忍体で負けてもいいっていうんですか!?」

恒久が叫ぶ。


「そんなことはない。でも、私は以前も言ったよね。中忍体はあくまで中学生のレベルに合わせた大会だって。中忍体は、忍者としての能力を高めるうえでの過程でしかなく、目標とすべきではない。私は、きみたちを中忍体で勝たせるために師となっているつもりはない。あくまでも、立派な忍者になってもらうためにここにいるんだ。」


「でも、力を高めるうえで、その時その時の目標って、必要じゃないですか?」

ショウが、古賀に微笑みかける。

「・・・それはそうだが・・・」


「確かに僕たちは、中忍体を目標としています。でも、それが過程でしかないことも、ちゃんとわかっているつもりです!」

ソウが、強いまなざしで古賀を見る。


「当たり前だよな、プレッソ!!おれらの目標は、中忍体優勝のその先にあるんだから!」

「重清、なんか言ってることずれてる気がするぞ。」

「シゲ、プレッソにつっこまれてんかねーかよ!」

「ツネ、そこは言わないであげなさいよ。バカが必死にフォローしようとしてるんだから。」

「まったく、きみたちは相変わらず騒がしいねぇ。」

「がっはっは~!中忍体だろうが何だろうが、全部打ち砕けばいいんじゃー!」

「・・・ノブ、お前も言ってることずれてる。」


相変わらず騒がしくなる忍者部一同に、古賀が笑いだす。

ひとしきり笑ったあと、古賀の顔は晴れやかな顔で、

「みんな、ありがとう。そして、すまなかった。もっときみたちを信用するべきだったよ。」

そう言って笑顔を向ける。


「私はね、この忍者教育のカリキュラムを作った人を心の底から尊敬している。だからこそ、このカリキュラムをしっかりと守っていきたいと思っているんだ。だから、これまで属性の相性について触れることは無かった。本当にすまない。」


そう言って頭を下げる古賀に、重清顔には笑みがこぼれていた。

「カリキュラムを作った人を心の底から尊敬している」という古賀の言葉が、嬉しかったのだ。


それはつまり、古賀が自身の祖父を尊敬しているということ。

古賀から尊敬されている祖父を、重清は誇りに思い、つい顔がほころんでしまったのであった。


頭を上げた古賀は続ける。

「去年1年間、人数が少ないこともあってうちは中忍体に出ることもできず、対外的な試合はやっていなかった。そんな中で、きみたちの模擬戦を見ていて、私は思っていたんだよ。『やっぱり、このカリキュラムは間違っていない』って。」

そう言って古賀は、シン、ケン、ノブを見る。


「どういうことですか?」

ノブが首を傾げる。


「ノブ、きみは本来、属性的にはシンに負けている。しかしノブは、そんな相性に関係なく、いつもシンに勝っていた。ケンだってそうだ。本当ならノブに属性で劣っているにも関わらず、いつも勝っていた。シンは、まぁ、あれだけど。」


「あれて。いい場面が台無しですよ!」

シンの悲痛なつっこみが響く。


「失礼。でもね、きみたちは、属性の相性なんか関係なく、心・技・体の力と忍術の使い方だけで、それを凌駕していた。私は、それが嬉しかった。」

そう言われたシンたちは、どこか照れくさそうにしていた。

ノブに至っては、先程までの怒りも忘れ、

「がっはっはー!すげーだろ!」

と、後輩たちに分厚い胸を張っていた。


「だからこそ、今のカリキュラムにさらに固執してしまったのかもしれない。でもね。」

そんな3人の様子に安心した笑顔をこぼしながら、古賀が続ける。

「今日の模擬戦を見ていて、改めて痛感したよ。属性の相性を知っているのと知らないとでは、実力に差が出すぎる。これは、私のミスだ。教育者として、恥ずかしく思うよ。

でも、これだけは信じてくれ。このカリキュラムは本当に素晴らしいものなんだ!ただ、それを我々教育者が、しっかりと守ることが出来なかった。だからこそ、中学ごとに実力がまちまちになってしまう。

・・・決めたよ。私は、カリキュラムの見直しを、上に掛け合ってみるよ。」

古賀は、決意に満ちた表情で一同に目を向ける。


「平八先生も、きっと、わかってくれるはずだよね。」

最後に、少し悲しみを帯びた笑顔で、重清にだけ聞こえるように古賀はそう漏らしていた。

重清はそれに笑顔で頷き、古賀も頷き返すのであった。

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