第136話:チーノがちっちゃい訳

「ピンポーン」

聡太が家で昼食の準備をしようとソファから立ち上がると、呼び出しのベルが鳴った。


聡太が玄関の飛びらを開けるとそこには重清、と、見知らぬ少年と少女。


「ソウ、おはよう!」

「おはようって。もう昼だよ?それで、その子達は、親戚の子?」

聡太が呆れながら言うと、


「その話は、『中央公園』でしない?朝飯も食べたいし。」

「いや、だからもう昼なんだって。僕は、今まさに昼ご飯食べようとしてたのに。」


「じゃあ、おれは朝飯兼昼飯、ソウは昼飯ってことで。な、いいだろ?あそこなら、話聞かれる心配もないし。」

「ってことは、そっち系の話?」

そう言って聡太は2人を見つめていた。


「そういうこと。じゃ、出発〜」

こうして4人は、『中央公園』へと向かうのであった。

少年の歩き方がぎこちないのを、聡太が気にしながら。



「この2人、プレッソとチーノなの!?」

手にしたホットサンドを口に運ぶのも忘れて、聡太が驚いて2人を見ていると、

「へっへっへ〜、スゲーだろう!」

と、プレッソと思われる少年が笑っていた。


聡太はホットサンドを皿へと戻し、ポケットに手をつっこんでレーダーを具現化して『同期』アイコンをタップした。


「ホントだ。プレッソとチーノだ。」

そう呟いて、聡太は改めて2人をまじまじと見つめる。


「ってことは、この姿が、シゲの言ってたエロ姉ちゃん?シゲ、こんなちっちゃい子にエロさを感じてたの?

もしかしてシゲってロリ―――」

「いや、違うからね!?」

重清が、それはもう必死に聡太の言葉を遮る。


「ふふふ。残念だけど、今の私の力では、この姿が限界なのよ。」

チーノが、その姿に似つかわしくない笑みでそう答えるのを見た聡太は、ある事に気付く。


「あれ、でもチーノ、何ていうかその、エロくないね?」

「ぶふぉっ!」

聡太の言葉に、プレッソが飲みかけのミルクを吹き出した。


「うわっ!プレッソっ!きたねーよっ!!」

全身にミルクを浴びた重清が、ミルクを滴らせながら怒鳴っていた。

「あ、わりぃ、重清。」

「いきなり笑うなよぁ。あけみ姉さーん、タオル貸してー!!」

「はいはぁ〜い。」


あけみ姉さんからタオルを受け取った聡太は、それを重清に渡しながら尋ねる。


「それでプレッソ、何で急に笑ったの?」

笑いをこらえていたプレッソは、チラッとチーノを見て口を開く。


「その前に2人とも、オイラとチーノ見て、気付くことないか?」

その言葉に、2人はプレッソとチーノを見比べる。


「チーノの方が、ちっちゃい、ね。」

「聡太、正解!おかしいと思わないか?オイラとチーノは、普段同じ大きさなのに。」


「言われてみれば・・・」

聡太が呟いてチーノを見ると、チーノは不貞腐れたようにコップでミルクを飲んでいた。


「チーノのやつ、変化の術を使うときに、自分の色気を消そうとしたんだよ。」

笑いながらプレッソが言うと、


「色気を消そうと?なんでまた・・・あ。」

聡太は言いながら気付く。


もし仮に、チーノがプレッソと同じ年の少女に変化したとしても、せいぜい6歳前後。

その少女に色気があれば・・・世の少女好き達が黙ってはいないだろう。


「うん。チーノのやったことは、間違いじゃないと思う。」

聡太は納得して頷いた。


「そうでしょう?聡太、もっと言ってやってよ。私はこの身を犠牲にして、犯罪者の発生を抑えたのよ?

それなのにプレッソは、こうやって笑うのよ!」

チーノがプンプン怒っていた。


(なんかチーノ、凄く子どもっぽい。)

聡太は、チーノのその姿に微笑ましそうに笑って、


「それで、プレッソよりちっちゃくなっちゃったんだね。それで、ずっとその姿なの?」

重清の言うエロ姉ちゃんバージョンを見たいという想いを抱きながら、聡太がチーノに尋ねる。


「聡太。あなたも男の子なのね。ちょっと、残念だわ。」

「なははは。健全な中学生ってことで・・・」

想いを見透かされた聡太が、笑ってそう答えると、チーノは呆れたようにため息をつく。


「まったく。まぁいいわ。そもそも私達具現獣は、具現者の忍力を貯めておくことができるの。その許容量が多ければ多いほど、色んな術も使えるのよ。」


「そういえば、前にそんな事言ってたな。」

ミルクを拭き終わった重清が、頷く。


「今、私とプレッソの体を作り上げているのは、その忍力なの。今は忍力の許容量がそんなに多くないからこんな小さな体だけど、いずれは以前のような姿になることもできるはずよ。」


「なるほどねぇ〜」

「重清、あなたにとっても他人事ではないのよ?」

「へ?」


「あなた、中忍体で忍力切れしたでしょう?

もし私達の忍力許容量がもっと多ければ、私達からもっと多くの忍力をあなたに返せたはずなのよ。」

「あ、そっか!じゃぁさ、どうすれば2人の忍力の許容量ってやつ、増やせるんだ?」


「そりゃあれだろ。オイラ達に、たっぷり忍力食わせてくれればいいんじゃないのか?」

ミルクを飲み終わったプレッソが、口の周りを白くして言うと、チーノはそれに頷いて続けた。


「まぁ、分かりやすく言えばそういうことね。これからは、寝る前に重清の忍力を限界直前まで頂きましょう。そうすれば、私達の許容量も少しずつ増えていくはずだわ。」

「え〜、あれ、結構キツイんだぞ?」

重清が嫌そうに言うと、


「これはね、あなたのためでもあるのよ。」

「もしかして、ぼくらも忍力の許容量を増やせるの?」


「えぇ。流石は聡太ね。重清も、少しは聡太を見習って欲しいわ。」

「いいんだよ。聡太はおれの右腕なんだから。」

「いやだから、それだとぼくの方が下みたいになっちゃうじゃんか!」


「はい、その話はそこまで。」

言い争いそうになる2人をチーノが止めに入ると、2人は仕方なさそうにそのまま揃って押し黙る。

仲の良いことである。


「続けるわよ?さっき聡太が言ったように、あなた達忍者も、忍力を増やすことができるのよ。

聡太は許容量って言ったけど、どちらかというとスタミナに近いわね。

私達具現獣と違って、忍者であるあなた達は、忍力が自然に回復するのだから。」


「で、その増やす方法ってのが寝る前限界作戦ってわけか。」

「まぁ、作戦名はダッサダサだけどね。」

「うるせいやいっ!!」

「はいはい、言い争いはしないの!」


またしても、チーノに怒られる2人。

傍から見たら、幼児に怒られる中学生なのであった。



---あとがき---


次回更新は明日16時です!

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