第104話:控室にて
「ほっほっほ。今年の1年生は元気だのう。」
林道が重清達の様子を見ている。
「しかしノリよ、今日はゆっくりしてもおれんだろう?他の参加校は、既に向こうへ行っておるぞ?」
「早いんですね。ちなみに今回の参加校は?」
「ワシの立場で、それを言えるとでも??」
「失礼しました。では早速、お願いします。」
「ホレ、アケ。後は頼んだぞ。」
「はぁ〜い。」
あけみ姉さんが気怠そうにそう言って、重清達のいつもの席の近くに掛かった、一軒家の描かれた絵に手を向ける。
すると、いつも部室で付かう掛け軸と同じように輝きだし、描かれた家の扉がひとりでに開き始める。
「いつも浸かってた積のすぐ近くに、こんな仕掛けがあったんですね。」
それを見た茜が、そう言葉を漏らす。
「ま、扉を開けるのは決められた者だけなんだけどね。」
あけみ姉さんが、得意そうにそう返して続ける。
「そもそも、この奥の席は忍者専用だからね。」
「え、そうなの!?」
重清が驚いて声を出すと、
「そうだよ。忍者じゃない人は、こっちの席には『なんとなく行きたくなくなる』ようになっているし、ある程度の言葉なら漏れないようになってるからね。特に平八様は、好んであの席を使ってらっしゃったのよ。」
そう言ってあけみ姉さんは、いつも重清達が使う席を懐かしそうに見る。
「じゃぁ、時々この辺りに座っている人達って、忍者なんですか?」
聡太が居うと、
「まぁ、そうなるね。時々言われたもんだよ。『なんであのガキ共があの席に座っているんだー』ってね。みんな、あそこが平八様の特等席だって知ってるから、そりゃもう怒ってたよ。」
「えっと、それ、大丈夫なんですか?」
茜が不安そうに言う。
「気にしなくていいよ。そう言う人達には、『あの子が平八様のお孫さんだ』って言えば、みんな納得してたからね。」
そう言って重清を見るあけみ姉さん。
「じいちゃんって、ホントに凄い人だったんだね。」
「ほっほっほ。あの方の素晴らしさは、そう簡単には説明できませんからのぉ。っと、その話はまた今度にしましょう。」
そう言って重清に微笑みかけた林道は、
「あの扉に触れれば、会場まで行けるからのぉ。皆、健闘を祈っておるぞ。」
そう言ってノリに目を向ける。
それにノリは頷き返し、
「じゃぁみんな、行くぞ。オウさん、アケさん。行って参ります。」
そう言って絵に触れ、その先へと消えていく。
そしてショウ達が林道とあけみ姉さんに会釈をし、ノリへと続いて行った。
「えっと、じゃぁ、オウさん、あけみ姉さん、行ってきます!」
「えぇ。またコーヒー飲みにいらっしゃい。」
「いつか、平八様のお話をゆっくりいたしましょう。」
重清は2人に笑いかけて、そのまま絵の先へと消えていき、ソウ達もまたオウとあけみ姉さんに頭を下げて会場へと向かうのであった。
「ここって・・・・」
目の眩む光から開放されたアカが周りを見て、そんな声を漏らしていた。
「いつもの部室じゃねーか。」
それに続くように、恒久が呟く。
「そう思うのも無理はないか。一応、ここが会場だよ。正確には、あの扉の先が会場で、ここは控室みたいなもんだがな。控室は、各中学の部室が真似られているんだ。お前等が緊張しないように、ってな。」
そう言って、ノリは目の前の扉を指す。
社会科研究部の部室であれば図書館に、そして忍者部の部室であればいつも修行を行う場へとつながるはずのその扉は、今は固く閉ざされているようであった。
重清達がその扉を見つめていると、
「ひとまず、お前ら座れ。もう少ししたら始まるはずたから、今のうちに今日の出場者を伝えておく。」
ノリがそう言って扉の前に立つ。
それぞれが適当に座ったところで、ノリが口を開く。
「まずはショウ。お前がリーダーだ。」
「はーい。」
ショウが頷く。
「そして、2年の3人。」
「発表が雑っ!」
シンがつっこむ。
「最後に、1年からはソウと重清に出てもらう。もちろん、プレッソとチーノにもな。」
「「はいっ!」」
「おぅ!」
「えぇ。」
それぞれが返事をすると、
「重清、お前に言っておくことがある。」
「へい?」
重清が間の抜けた声を出すと、
「今回お前が出られるのは、プレッソとチーノがいるからこそ、だ。確かにお前の銃が強力なのは認めるが、プレッソ達がいなければ、恒久やアカを選んだ可能性も十分にある。
くれぐれも、調子に乗らないようにな。」
「わかってますって!おれ、そんなに調子に乗るようにみえます!?」
「シゲは、調子に乗りやすいんじゃなくて、気持ちの浮き沈みが意外と激しいだけだよね?」
ソウがフォローにならないフォローを入れる。
「シン、ケン、ノブ、それにソウ。お前らも出場は初めてなんだ。油断せず、慎重に全力でいけ!」
「「「「はい(うっす)!」」」」
(慎重に全力でって。)
恒久が密かに心の中でつっこむ。
いい感じの流れを止めないように。
「ショウ、お前が唯一の中忍体経験者だ。しっかりとこいつらを引っ張ってやれ!」
「はーい。」
「それから恒久、アカ。悪いが今回は応援だ。さっき重清に言ったように、お前らが出る可能性も十分にあったんだ。
これで腐らず、しっかりと見ていろ!」
「「はい。」」
「キーンコーンカーンコーン」
その時、部屋の中にチャイムが鳴り響く。
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