第105話:開始の前に

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。」

そんな、事務的な声が控室の中に響き渡る。


「本日の参加校は3校。忍が丘第1中学校、第2中学校、そして第3中学校です。」


「お、やったな。」

シンが、ノブにそう囁いているのを耳にしながら、重清は再び流れてくる声に集中する。


「中忍体はこれより20分後に開始いたします。顧問の先生方は、出場者の登録にお越しください。」

その声を最後に、控室に響いた声は途絶えてしまう。


「じゃ、おれはちょっと行ってくる。さっき言った6人は、それ来て待ってろ。」

そう言って控室の端に準備された中忍体用のスーツを指し、ノリは扉を開けてその先へと進んで行った。


「え?」

ノリが開けた扉の先を見ていた恒久が、そんな声を出す。


「おい、ソウ。今、扉の先に昨日のヤツいなかったか?」

「え?ごめん、これ着るのに集中しててみてなかった。」

そう言ってスーツを着ているソウに、


「そっか。悪ぃ、邪魔したな。」

そう返して、恒久は引き下がる。


(さっきの、昨日公園であったヤツに見えたんだけどな・・・)

恒久はそう思いながらも、

「でもまぁ、あんなチャラいヤツが忍者なわけない、か。」

そう呟いて自分を納得させていた。


「ん?何か言った?」

恒久と同じくスーツを着る必要のないアカが、恒久の独り言にそう返すも、

「あ、いや、なんでもねぇ。」

「ふぅん。」

恒久の言葉に、アカは再びショウの着替えシーンに集中するのであった。

とはいっても、ただ制服の上にスーツを着るだけのシーンなのだが。



スーツを制服の上に着た重清は、プレッソのチーノをその場に残してシンの方へと近づいた。

「シンさん。さっき参加校が発表されたとき、『やったな』って言ってたけど、あれって何なんですか??」

同じく既に準備を終えていたシンは、重清の言葉に振り返る。


「ん?あぁ、あれな。参加校に3中がいただろ?3中って、いっつも弱いって話なんだよ。実際、去年向こうから4対4で模擬戦の申し出があってな。そこでも、こっちの圧勝だったんだよ。」


「あー、そういうことですか。」

「こらシン。そんなこと言うもんじゃないよー。やる前から油断なんて、しちゃ駄目だよー。」

やっとスーツを着たショウが、そう言ってシンを窘めるのであった。



そうこうしていると、ノリが再び扉から入ってくる。

(ダメか。)

それを待って扉を見続けていた恒久は、扉の先に先程見えた男を探すも、見つける事ができず、そう思っていると。


「ちっ。」

控室に入ったノリは忌々しそうに、閉めた扉を睨んでて舌打ちしていた。


「ノリさん、何かあったんですか?」

ショウが尋ねると、


「ん?あぁ。気にすんな。それより、6人とも準備はできたか?」

そう言って、ノリがショウ達へと目を向けると、6人と2匹はやる気に満ちた目でノリを見返し、頷いていた。


「やる気は十分ってとこか。あの扉はもう、会場に繋がっている。お前ら!行ってこい!!」

「はいっ!!」


6人はそう言って、ショウの開け放った扉を通っていく。


「重清!」

「はい?」

最後尾の重清に声をかけるノリに、重清が振り向く。


「気合入れていけよ。」

「ん?はい!」

重清はそんな返事をして、扉の先へと消えていった。

「おれ、そんなに気合い抜けてるようにみえたかなー?」

と呟きながら。



「あれ?ここって。」

重清が扉を抜けた先で見たのは、忍が丘第2中学校の校門、今朝重清達が集合した場所であった。


その時、先程控室で聞こえた声が、辺りに響き渡る。


「今回の会場は、『街』に設定しております。皆様は現在、ご自身の中学校の校門にいるかと思います。その校門の先、中学校の敷地内が各中学の陣地となります。


なお、今回の会場が街であることから、校旗の隠し場所は屋外に限定させていただきます。

説明は以上となります。


開始まで残り5分。しばしお待ちください。」


「よし、この間に作戦を確認しておこうかー。」

ショウが、そう言って5人と2匹を見る。


「僕とソウは、まずこの校旗を隠してくる。隠し場所は、後でソウから伝えるねー。ソウ、みんなとは繋がってるかな?」

「はい、準備できています!」

「基本的な連絡は、模擬戦同様ソウからしてもらうからねー。

シンとケン、そしてノブは、3人で行動して。敵の数を減らして。」


「「「はい(うっす)!!」」」


「ところでチーノ、ここから、他のチームの気配は感じられる?」

「えぇ、問題ないわ。」

「じゃぁ、重清はチーノと校舎の屋上から敵を減らせるか試してみてー?プレッソは、その間2人の護衛。しばらく試して、難しそうだったら3人で動いてね。」


「はいっ!」

「えぇ。」

「おぅっ!」


その後、細かい作戦を話していると、再び事務的な声が辺りに鳴り響く。


「では、時間になりました。忍が丘市中忍体、開始。」


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