第106話:狙撃と罪悪感

「クソッ!何かどうなっているんだ!?」

3中忍者部の部長である根来(ねごろ)アツが、そう叫びながら見慣れた町並みを走っている。


「リキ!スムの様子はどうだ!?」

「駄目です!完全に気絶しちゃってます!」

リキと呼ばれた少年が、泣きそうな顔でそう叫び返していた。


(スムはリタイアか。しかし、どこから攻撃が・・・

女子組は大丈夫なのか!?)


3中は毎年コンスタントに男女1名ずつを入部させており、この中忍体では男女それぞれ3名の2チームに別れて行動していた。


もう一方のチームである女子達を心配しながら、アツはリキに声をかける。


「リキ!スムはもうリタイアだ!諦めて、逃げる――――」

アツがそう言っていると、突然何かが自身に向かってくる気配を感じ、咄嗟にその場を避ける。


直後、先程までアツのいた背後の壁に小さな穴が開いた。

それは、テレビで見るような銃弾に撃ち抜かれたような跡であった。

(銃!?狙撃か!)

そう考えたアツは、

「リキ!狙撃されている可能性が高い!一旦建物に隠れるぞ!」

そう言ってリキと2人、建物へと身を隠すのであった。


「はぁ、はぁ。ま、まさか、スム先輩がこんなに早くやられちゃうなんて・・・」

1年生である根来リキが、青ざめた顔でそう言っていた。


「さすがに、開始直後で油断していた。でも、集中すればなんとかあの弾がくるのはわかるはずだ!

今はスムのことは忘れて、集中するぞ!」

部長である集まるの言葉に、リキはなんとか自分を奮い立たせて頷く。


「このまま終わってたまるか!もう少し息を整えたら、反撃だ!」

「はいっ!」



「2人、建物の中に入ったみたいだ。」

3中の生徒2人が建物の中に入ったのを確認して、重清が呟いた。


「そうみたいね。さすがに、今の重清では、この状況で当てることは難しそうね。」

サイフォンから、そんな声がする。


「やるじゃねーか重清!この調子で、ガンガン敵の数減らしちまうか?」

チーノが離れた場所からそう声をかけてくる。


「・・・あのさ、チーノ、プレッソ。お願いがあるんだけど。」

「おう、どうした?」

プレッソが重清の元へと近づく。


「狙撃やめて、おれらも街の方に行かない?」


「あら、それはまたどうしたの?」

マキネッタから姿を戻し、チーノがそう言うと、


「いや、なんていうかさ。今スゲー罪悪感しかないんだよ。

模擬戦の時はさ、みんなおれの力知ってて、リタイアさせたら悔しがってたじゃん?

その時は、スゲー嬉しかったんだけどさ。

今の人達みてたらさ。みんなただ怯えてたじゃん?

わけもわからず仲間がリタイアさせられて。

もしかしたら、さっきリタイアした人も、このあと誰かに告白するつもりだったかもしれないのに。

そんな中で訳も分からずリタイアなんてさせられたらと思ったら・・・」


「いたたまれなくなっちゃったのね?」


「そんな感じ。」

「なんつーか、重清らしいな。」

「ふふふ。いいんじゃない?1人倒せたし、ノルマ達成ってことで。」

「チーノいい事言うな。オイラも、暇すぎて寝ちまいそうだったんだよ!」


「い、いいの?おれが言うのもなんだけど、おれ今、スゲーわがまま言ってるぞ?」

「気にすんな!実際、重清の言いたいこともわかるぜ!男なら、直接ぶっ飛ばしてやりたくなるよな!」


「まったく、物騒な発想ね。ここには女もいるんだけど?」

「じゃぁチーノ、お前はどう思うんだよ?」

「いいわ、重清の意思に従いましょう。」

「そうこなくっちゃ!」


「じ、じゃぁ。」


「おう!オイラ達も、街に繰り出そう!!」

「なんか、遊びに行くみたいになってるわよ。」

「2人とも、ありがとう!じゃぁおれたちも、行こう!チーノはいつも通り、離れて偵察よろしく!」


「その前に、ちゃんとみんなに説明しときなさいよ?」

「わかってますっ!」


こうして、重清達は狙撃をやめ、街へと入るのであった。



ところ変わって1中の陣地の近く。


「ちょっとカツ!あの女はどこに行ったのよ!?」

性格の悪そうな女がそう叫び、カツと呼ばれた男を踏みつけていた。


「ちょ、ヒロさん!もっと!!じゃない!勘弁してくださいよ!!部長の行先なんて知りませんよ!『アイツぶっ倒しに行く』とか言ってたから、2中の方にいったんじゃないですか!?」


「はぁ!?あの女にはあのこと言ってないんでしょ!?邪魔されたらどうするのよ!!」

「イチさんが着いて行っているから、大丈夫でしょ!それよりも、いい加減足どけてくださいよ!!」


「イチなんて着いて行かせてるの!?あいつ、あの女しか見えてないバカじゃない!」

「でも、イチさんは部長に次いでの実力者じゃないですか!っていうか、足どけてって言ってるの聞いてます!?」


「実力があっても、頭が悪けりゃ意味ないでしょ!!この私みたいに、良妻賢母じゃないと!」

「いや、ここでその言葉チョイスしている時点で、ヒロさんもたいがいですよ。っていい加減、足どけろっつってんだろ!?」


「私にそんな口をきいていいと思ってるの!?ってなんなのよこの時間は!さっさと行くわよ!」

「このお姫様は・・・誰のせいで時間使ってると思ってるんだよ。」

「カツ!なんか言った!?」

「いえいえ、ヒロさん!今日も大好きですよ!!」

「わかってるわよ、気持ち悪いわね!私に振り向いてほしかったら、さっさと動きなさい!」

「へ~~~い。」


1中3年の風魔ヒロと、1年の風魔カツはそんな会話をしながら町の中を進んでいく。

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