第142話:不味いお茶を出されたら

「「うぉーーーーーーっ!!!」」


重清と恒久が、後ろから追ってくる人型の木から逃げるように、洞窟の中を走っていた。


「なんだってんだよっ!なんでこんなことにっ!!」

恒久が追ってくる木を見ながら叫んだ。


その恒久の疑問にお答えするためにも、時間を少し遡ることにする。


麻耶が2中忍者部へとやって来てから数日後のある日。


「私に、雷の術を教えてほしい?」

目の前で頭を下げる重清を見ながら、麻耶が言う。


「うん。麻耶姉ちゃん、中忍体で使ってたでしょ?

おれも、使えるようになりたいんだよっ!」


チーノからの指摘により、金の属性の中でも雷を使用する術を覚えたい重清は、そう言って麻耶に深々と頭を下げていた。


「・・・嫌よ。」

「なんでっ!!」

麻耶が冷たく言い放つと、重清はガバっと顔を上げて麻耶の顔を見る。


「だって、私が教えるってことは、重清も雷脚の術を覚えるってことでしょ?

あんたとお揃いなんて、なんか嫌なのよ。」

「理由それだけ!?」


「それだけとは何よ、それだけとは。立派な理由でしょ?

私、ペアルックはしない主義なの。」

「いやペアルックじゃないしっ!」


「五月蝿い!この話はこれでお終いっ!」

バッサリと重清を切り捨てて、麻耶は重清に背を向けてふと立ち止まり、振り返る。


「あんたに覚悟があるのなら、術を指導してくれそうな人の居場所、教えてあげてもいいけど・・・」

「お願いしますっ!!」


間髪入れずに重清が答えていると、


「その話、俺にも聞かせてください。」

恒久が話に入ってきた。


この数日で麻耶にたっぷり教育された恒久の麻耶に対する敬語は、しっかりとその身に染み込んでいるのであった。


「あら、恒久。あなたも属性は金なの?」

「元々は土なんですけど、一応金も。ただ、まだ術は覚えてなくて。」


「で、雷の術を覚えたい、と。先に金の術を覚えればいいじゃない。」

「そうなると、こいつかノブさんに聞かなきゃいけないんですよ。ノブさんは感覚派で分かりにくいし、こいつには聞きたくないし。」


「それなら納得。」

「いや、今のどこに納得する要素があったの!?」


叫ぶ重清を黙殺して、麻耶は2人にある場所を教えて続けた。

「一応、行く前にノリさんに許可を取っておきなさい。気をつけてね。」


麻耶の言葉に頷いた2人は、そのままノリの元へと赴いた。


「あぁ、あそこか。それならまぁ、安心、か?

とりあえず、今日は修行はいいから、そのままそっちに行っていいぞ。気をつけろよ。」


2人は、ノリの言葉に若干の不安を感じつつ、麻耶の言う場所へと向かうのであった。



そして2人は、1中校区にある森へとやって来た。

そしてそのまま麻耶の言うとおりに進んでいくと、開けた場所に一軒の小屋があった。


「すみませーん!誰かいますかーー?」

重清が、とりあえず小屋の中へ声をかけるも特に反応はなく、ただ重清の声だけが辺りに響いていた。


「あのー!怪しい者じゃないですよー!おれ、雑賀重清といいまして―――」


「雑賀ぁ!?」


突然、そんな声が聞こえるのと同時に、重清と恒久の足元に現れたロープが2人足に絡みつき、そのまま近くの木へと引きずり込んでそのまま2人は木に宙釣りとなった。


「な、なんだよこれっ!!」

2人が宙釣りのまま暴れていると、小屋から老婆が姿を現した。


「雑賀、って言ったね。あんた達、あの雅のばばぁの差し金かい?」

雅と変わらないくらいのばばぁ、もとい老婆がそう言って2人に鋭い視線を送る。


「いや、あんただって十分ばばぁ―――のぉぉーー!」

老婆につっこもうとした恒久の足に絡みつくロープから電流が流れ、恒久は叫び声をあげる。


「で、どうなんだい!?」

叫ぶ恒久を無視して、老婆が重清を見つめる。


「たっ、確かにおれは、ばあちゃんの、雑賀雅の孫だけどっ!ここに来たのは麻耶姉ちゃんの、雑賀麻耶の紹介なんです!」


「なんだい、麻耶ちゃんの知り合いかい。」


老婆の険しい顔がふっと優しさを帯びた瞬間、重清達を拘束していたロープが消滅し、2人はそのまま地面に叩きつけられる。


「「痛ってぇ。」」


「ほら、ぼさっとしてないでこっちに来なさい。久々の客なんだし、茶くらい出すよ。」


((誰のせいだよっ!!))

2人は心の中でつっこみつつ、互いに視線を交わし、諦めたように老婆について小屋へと入っていった。



「なるほどねぇ。で、私に術を習いに来たってわけか。」

経緯を話した2人に、老婆はそう言って頷いていた。


「(このお茶不味っ!)はい。それで、教えてもらえますか?」

お茶を啜った恒久が、老婆の様子を伺うように言うと、


「まぁ、教えてやらんこともないが・・・ところで、麻耶ちゃんは元気かい?」

そう言って老婆は重清に目を向ける。


「(このお茶不味っ!)はい、元気すぎるほど。」

「そうかい。麻耶ちゃんは、あのばばぁの孫とは思えないくらいに良い子だからねぇ。また遊びに来てくれと伝えておくれ。」


((絶対に、猫被ってたな。それにしても、このお茶不味っ!!))

2人の意見は、一致した。


「まぁいずれにしても、まずはあんた達の力を見てみないとねぇ。」


老婆の言葉と同時に、2人座っていた床が抜け、そのまま2人は奈落へと落ちていく。


「こんのクソババアーー」


恒久の叫びを最後に、辺りは静寂に包まれる。


「伊賀家の坊主、少し口が悪いねぇ。」

そう呆れたように呟いた老婆は、手に持つ湯呑から茶を啜り、突然叫んだ。


「このお茶不味っ!!!!」



「あー、死ぬかと思った!!」

水の中から出た重清が、その場にへたり込みながら言うと、


「まぁ、実際死にかけたけどな。あのばばぁ、ここから出たら、ただじゃおかねぇ!」

そう言って近くの木を蹴って辺りを見渡した。


「こりゃ、洞窟か?おいシゲ、どう思う?シゲ?」

振り向いてそう言う恒久であったが、重清は口をあんぐりと開けて、恒久の背後を見つめていた。


「に、にげ―――」

「にげ?」

重清の謎の言葉に恒久が後ろを振り向くと、先程恒久が蹴った木が大きな人の形になってクラウチングスタートの姿勢をとっていた。


「逃げろーーーっ!!」


重清の言葉に2人が走り出すと、木もまた、2人を追うように走り出した。


「「うぉーーーーーーっ!!!」」


重清と恒久は、後ろから追ってくる人型の木から逃げるように、洞窟の中を走る。


「なんだってんだよっ!なんでこんなことにっ!!」

追ってくる木を見ながら叫ぶ恒久に、重清が叫び返す。


「お前のせいだろぉーーーーっ!!!」

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