第220話:1年3組野郎裁判 開廷

女子プラス長宗我部君に囲まれる充希については触れない方向でいこうと、無言のもとに合意した重清達は、何事もなかったかのようにその場を離れた。


そのまま2中を目指す一行に、芦田優大が合流する。


以前、元忍者部の近藤にいじめられ、それを本人の知らぬまま重清達に助けられた芦田は何故かいじめられた記憶を一切無くしており、その後偶然仲良くなった重清達と連れ立って登校するようになっていた。


そんな芦田は、いつもの変わらぬ登校に突如現れた美少女に困惑する。


「あー・・・」

ただあんぐりと口を開けて美影を見つめる芦田に、聡太は言葉を詰まらせながら苦笑いを向けた。


そんな聡太の想いは1つであった。


(説明するのも面倒くさい)


少し考えてから聡太は、美影を重清の親戚と説明し、そのままナチュラルに重清達から離れることに成功した。


結果として一行は、


ラブラブカップル(美影目線)、猫2匹、地味な3人というグループに別れ、登校することとなるのであった。


(ソウ、覚えとけよっ!!)


重清はそんな思いを込めて聡太をひと睨みし、諦めたように美影と2人、明確に話のかみ合わない会話を繰り広げながら2中へと到着するのであった。


(はぁ〜、これ毎日やるのかなー。プレッソ、チーノ、助けてくれよー!)

構内に入り、既に別れたプレッソとチーノに、重清は助けを求めた。


(いや、オイラ達にはどうすることもできねーだろ)

(そうよ。あなた自身でなんとかしなさい。これは、愛の試練なのプッ!!)


(いやチーノ、途中で笑っちゃったよ!そこはせめて最後まで言い切ってよ!)

(あら、重清つっこみが鋭くなったじゃないの。もしかして美影のおかげかしら。あなた達、意外とお似合いなんじゃない?これは、次の女子会が楽しみだわ)


(美影のだけどな!っていうかその女子会に、美影を送り込んでやるっ!)

(あら、それがあなたに有利に働くと思っているの?)


・・・・・


「くぅっ!!!」

年の功に勝てなかった重清は、ついそんな声を漏らしてしまう。


「どうしたのよ重清、変な声出して。それよりも、教室についたわよ?」

不思議そうに重清を見つめる美影の声に、いつの間にか教室へとついていたことに、重清は初めて気づいたのであった。


「はぁ、これから先が思いやられるなぁ。みんなー、おはよーー」

ため息を付きながらも、重清はいつもの様に元気よく教室へと入っていった。


「おう、おはよ―――」

いつもの重清の声に反応したクラスメイトの後藤が、そう返事をしながら重清へと目を向けた。


そして、後藤の視界に飛び込んできたのは、重清と共にやってきた美影の姿であった。


(一緒に来た?え、もしかして一緒に登校してきた?え?もう美影ちゃんとお近づきに?

なーーーーーにぃーーーーーー!?)

一瞬のうちに思考を巡らせた後藤は、クラスを見渡して声を上げた。


「おい!男子集合!!シゲを囲むんだ!」

後藤の声に、男子達は一瞬何が起きたのかと後藤に目を向け、そして後藤の視線を追い、瞬時の内に状況を理解して重清を囲った。


「藤田、朝のホームルームまで時間はあるか!?」

「まだ15分はある!」


「原田、田中先生はまだ来ないか!?」

「田中先生はこの時間、朝飯代わりに柿の種食ってるからホームルームまでは絶対に来ない!」


後藤が友人の藤田と原田に声をかけると、まるで上官からの質問に答えるかのように、2人は的確に後藤へと答えていった。


「よし、ではこれより、1年3組野郎裁判を開廷する。被告人、鈴木重清、前に」

「いや前に、って言われても、前も後ろも野郎ばっかりなんだけど」


「私語は慎みなさい被告人。それよりもシゲ、これはどういうことだ?」

「これって、なんのことだよ正」

重清は、内心焦りつつも後藤を見据えた。


「裁判長と呼びなさい」

「な、なんのことですか裁判長」


「知らばっくれるんじゃありません!何故、美影ちゃんと仲良く登校してるんだって聞いてんだよ!」

「いや情緒!もう不安定過ぎんだろ!」


「私語は慎みなさいと言ったはずです!」

「あぁーもう!!」

最近抱えなれてきた頭を抱えた重清は、ふと自身を囲む野郎共の中の一点に視線が向いた。


「ソウ、なんでそっち側なのさ?ソウは事情分かってるだろ!?」

「なに、それは本当か、ソウ?」


「はい、裁判長!」

聡太は、躊躇いも無く後藤へと答えた。


「では証人、風間聡太、前へ」

後藤裁判長の言葉に、聡太は一歩前へ、出られるほどのスペースは無いため小さく作手を挙げて答える。


「証人、君の知っている事を洗いざらい話しなさい」

「はい、裁判長。シゲと雑賀さんは、親戚なのだそうです。まだこの辺りのことをよく知らない雑賀さんは、シゲを頼って来たようでした」


「被告人、証人の言ったことに違いないか?」

「は、はい、裁判長!」


「親戚か・・・それならば、仕方ない、か。被告人に判決を言い渡す。今回の件、被告人は無罪と―――」


「ちょっとその判決、待った、でっせ」

裁判長の言葉を遮る声に、一同が目を向ける。


野郎共の視線を一身に集めた長宗我部 太郎左衛門は、不敵に笑っていた。


そんな中重清は、


(最近長曾我部君よく出てくるな~)


と、ひとり脱線していた。

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