第221話:1年3組野郎裁判 再審?

「「「「ちょ、長曾我部氏!」」」」


(あ、長曾我部君、長曾我部氏って呼ばれてんだ)

自身を除く野郎共の声に、被告人重清はぼ~っとそんなことを考えていた。


もはやこれは脱線ではない。現実逃避である。


一方、突然自身に異議を申し立ててきた長曾我部氏の出現に一瞬だけ狼狽えた後藤裁判長は、それでも気を取り直して長宗我部を見据えた。


「で、長宗我部氏。何か異議があるのかね?」

「デュフフフ。その前に被告人鈴木氏に質問や〜。美影たんとは、どういった親戚なんでっか?」


「どうって・・・おれのばあちゃんとあっちのおじいさんが姉弟らしいけど・・・」

「やはり、そうでっか〜。皆の衆、騙されてはいけませぬぞ!!それだけ離れていれば、法律上結婚も可能ということ!!

であれば、無罪放免はいささか軽すぎるのではないでしょうか!?」


「なにっ!?それは誠か長宗我部氏!!おいシゲ、そこんとこどうなんだよ!?」

「いやどうもなにも、大体の年の近い親戚は4親等以上離れてんだろ」

重清はため息交じりに後藤裁判長へと返す。


「聞きましたか皆の衆!今鈴木氏を無罪放免にしてしまうと、美影たんとの距離をさらに詰められる恐れがありますぞ!ここは、鈴木氏を保護観察処分とし、我々で鈴木氏を見張る必要があるのではないでしょうか!?」


「「「「異議なし!!」」」」


「結論が出たな。では、被告人鈴木重清を保護観察処分とし、我々が交代でコイツのことを監視するぞ!!」


「「「「がってん!!」」」」


「いや、なんなのこの連帯感・・・」


興奮するクラスメイトに、重清がため息をつく。

ちなみに、聡太は巻き込まれたくないがために、後藤達側である。


そんな時―――


「重清、これは何の騒ぎなの?」

美影が、不思議そうに近付いてきた。


「あぁ、美影。別に何でもないよ」

重清は、何も考えずにそう答えて苦笑いを浮かべた。


「「「「「「「重清!?美影!?」」」」」」

男子一同が、にわかに殺気立つ。


「あ・・・・・・」

重清が、自身の軽率な発言を後悔していると。


「「「「「「「再審じゃぁーーーーーー!」」」」」」」


「うるせぇーーー!」

男子一同が騒ぎ出すのと同時に教室の扉が開け放たれ、担任の田中が怒りの形相で入ってきた。


「お前ら何を騒いでんだ!?職員室まで聞こえてきたぞ!!!」

普段比較的優しい口調の田中が、声を荒げて男子一同を睨みつけていた。


彼は、朝の至福のひととき柿の種タイムを邪魔されたことに、ご立腹なのである。


ヘビ田中に睨まれたカエル達男子一同は、一斉に重清に視線を向けた。


「またお前か、鈴木」

田中は、呆れ顔で重清を見ていた。


「またって。おれそんなに問題起こしたことないですよ!」

重清が不服そうに言い返すと、


「あぁ、もういい。ホームルーム始めるから、みんな席に着いて!鈴木!お前は後で職員室な」

「そんなぁ~~~」


「はーい、この話終わり~。みんな着席~」

重清の言葉を無視する田中の言葉に従い、各々が席へと向かっていると・・・


「キャァーー!充希君、こっち見てー!」

「充希君のご尊顔を待ち受けにしました!」

「充希様、髪の毛を、いや、爪でいいからちょうだーい!」

「み、みつきたん!かわゆおすなぁ〜」


「あっはっは~、みんな、もう静かにしないと周りの迷惑になっちゃうよ~。あっ、姉上~、今日もお美しい!」


廊下から美影に手を振りつつ重清を睨む充希と、それを囲む女子たち+長曾我部氏の一団が廊下を通り過ぎていった。


「いや、長曾我部氏いつの間に・・・」

いつの間にか充希を囲む輪に入り込んでいた長曾我部に驚きつつ重清が廊下の方を見つめていると・・・


「いよっ!今世紀最大のモテ男っ!茜さんと良くお似合いでっ!」

隣のクラスから隠の声が聞こえてきた。


((隠君、恋の応援のバリエーションが絶望的に少ないな))

重清と聡太は、そんなことを考えていた。


その時、重清が再び廊下の方へ眼をやると、黄色い忍装束を身に纏った日立が、悠然と廊下を歩いていた。


「はぁ!?」

重清は、声を出して立ち上がっていた。


「ん?どうした鈴木。また何か騒ぐ気か?」

担任の田中が、怪訝な顔で重清を見ていた。


「え、えーっと・・・」

「重清」

重清が田中にどう返事をするか迷っていると、後ろの席から美影の小さな声が聞こえてきた。


重清が振り向くと、美影は黙って、首を横に振っていた。


「あー、なんでもありません。すみませんでした」

重清は、田中に頭を下げて席へと座り、美影に声をかけた。


「今の、日立さんだよね?」

「えぇ。あれは日立の術を使っているの。普通の人には、日立の存在を認識できなくなっているの」


「な、なるほど・・・でも何でここに?」

「それは私にもわからないわ」


美影の返事を聞いた重清は、同じく日立の姿を目撃していた聡太に『あとで話す』と目配せをして、一息つこうとした。その時。


「いや目立ってんなおい!あんた日立じゃねーよ、目立ちだよ!!」

1組の方から、恒久のつっこみが聞こえてきた。


朝から雑賀本家に散々振り回されてきた重清は、何もかもが面倒くさくなり、


(うん。ツネは今日も元気!)


と、割とどうでも良いことを考えながら、教壇に立つ田中の話を聞き流すのであった。


ちなみに、日立は美影と充希の警護のため、ではなく、隠の授業参観に勝手に来ていたのである。

ただ、息子の学校生活風景を見たいがために、陰山家の先祖が作った忍者以外の者の意識から自身の存在を消す術、『忍隠しのびかくしの術』を使ってまで。


彼はここにきて、親バカへと覚醒したのであった。

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