第222話:雑賀本家ご一行と

朝から雑賀本家とそこに仕える面々に翻弄され、友人であるはずのクラスメイト達からは裁判にかけられ、さらには生徒を守るはずの担任からは職員室でこっぴどく叱られた(ただし、重清はそんなに悪くない)日の放課後。


重清は、街を歩いていた。


重清の前には、仲良さそうに話すショウとアカがいる。


重清がチラリと後ろに視線を向けると、そこには不機嫌そうな顔でアカの様子を見ている充希、その後ろをゴロウを抱いた隠がついてきていた。


更にその後方には、黄色い忍装束というどこからどう見ても目立つスタイルにも関わらず、一切街ゆく人々の視線を受けない日立が、一行を見守るかのごとく悠然と歩いていた。


ちなみに、一行の横に立つ塀の上ではプレッソがその光景を興味なさそうに眺めながらトコトコと歩いており、チーノは今回、雅、麻耶との女子会のため不参加である。


自身の後ろの異様な光景にため息をつきつつ、重清は隣を歩く少女に目を向ける。


重清に見つめられた(と、本人は思っている)ことで顔を赤らめながら、美影は首を傾げて重清を見つめ返していた。


(あーもう!可愛いなおい!じゃなくて!!)


一瞬美影の仕草に惹き込まれそうになった重清は、自身を取り戻すべく頭を振った。


可愛いと思っているならば付き合ってしまえば良いのだが、重清の中ではそれは『無い』ということになっている。


初対面で、ただ『分家の末席である』という理由だけで殴られ、その後も散々末席であると見下されていた重清は、ただ『雑賀雅の孫である』という理由だけで手の平を返されるように美影から好意を向けられるようになった。


それははつまり、重清が雅の孫でなければ、今もなお以前の様に見下され続けていたということであり、それは美影自身も言っていたことであった。


デフォルトで人を見下すような人間を好きになれるわけがない、という理由から、重清は美影を受け入れられないでいると重清は思っているのである。


しかし、彼は気付いていなかった。


その想いの根底に、別の理由があることを。

その事に、重清はまだ気付いていないのであった。


それはさておき。


何故このメンバーが街を歩いているかというと、それはもちろん依頼のためであった。


元々今回の依頼は、シン、ケン、ソウ、恒久のメンバーに、麻耶が付き添う形で当たる予定であった。


しかし日立が、「経験のために美影様と充希様、そして隠にも参加させろ」と言い出し、それに乗っかる様に美影と充希がそれぞれ、重清とアカの同行を希望し始めた。


結局、断るのも面倒だと判断したノリはシン達への依頼を諦め、雑賀本家一同と重清、アカに加えて忍者部から最も信頼の置けるショウを付けることを条件に、日立達の要望を受けいれ、現在に至るのであった。


「ショウさん」

ひとまず雑賀本家の面々の事は気にしないことにした重清が、前を歩くショウへと声をかけた。


「『姉が彼氏からDV受けてるかも』なんて依頼、中学生でどうにかできるんですかね?」

依頼を聞いた際に湧いた疑問を、重清はショウへとぶつけた。


今回の依頼とは、


『姉が彼氏からDVを受けているかもしれないので、調査し、必要に応じて姉を救ってほしい』


というものであった。

普通に考えたら、中学生がどうにか出来る問題ではなく、重清の疑問も最もなのであった。


「んー」

ショウは、そんな重清の疑問に少し考えて、ショウスマイルを浮べて口を開いた。


「まぁ、普通の中学生だったら、無理かもしれないねー。でも、僕らは違うでしょ?最低でも調査はできるから。後のことは、その時に話し合おうねー」

そう言って笑うショウに、目をハートにして頷くアカと、その光景に舌打ちをする充希。


それだけでも面倒くさい状況にも関わらず、重清の隣では美影が、


「ど、どうやったらあんなに目をハートに・・・

こうかしら?」

そう呟きながら、重清を睨みつける。


「いや、それ睨んでるだけだからね?」

呆れるように重清がつっこんでいると、


「充希様の方がかっこいいのになーー!

あれ?美影様、目がハートになってます!!」

と、隠がフォローを入れ、そんな息子の健気な様子に、日立が満足そうに頷いていた。


もはやカオスと言っても過言ではない状況の中、ショウは気にすることなく、


「まぁー、とりあえずは2人のデート予定の場所に急ごうかー」

と、呑気な声で足を早めるのであった。

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