第223話:幸せそうな2人?

「あれだねー」

一行が公園についたところで、ショウがベンチに座る一組の男女に目を向けて囁いた。


2人とも高校生であろうか。

制服を着た2人は、ベンチで仲良さそうに話していた。


「なんだ、普通に仲良さそうじゃん」

重清は、離れた所にいる2人を見ながら呟いた。


中学生より少し大人っぽいショートヘアの少女が、眼鏡をかけた理知的で優しそうな少年と楽しそうに会話している。


ここに恒久がいたら、きっと彼らに鳩の餌を投げかけていたであろう、そんな幸せそうな光景であった。


「んー、ここからだとよく分からないねー。せめて2人の会話が聞こえるといいんだけどねー」

「にゃぁ!」

ショウの言葉に、プレッソが鳴き声をあげた。


「プレッソが、近付いて聞いてくるって言ってます。1人だと大変だから、爺さんにも手伝ってほしいって。爺さんって、隠君が抱いてるゴロウのことかな?」

そう言って重清がプレッソの言葉を代弁して隠が抱えているゴロウに目を向ける。


「それは無理よ」

そんな重清に、美影はキッパリと言い切った。


「え?なんで??あ、ゴロウと契約してるのは美影のおじいさんなんだっけ。話せない具現獣は、契約者としか意思疎通できないんだもんな」

重清は納得したように、ゴロウに笑いかけた。


「いいえ、おじい様も、ゴロウとは話せないわ。もう何十年も、ゴロウは話していないらしいのよ。もう年で、話せないんでしょ。まぁ、具現獣なんかと話せても、そんなに意味はないけどね」

そう冷たく言い放った美影に重清は、


(またそういう事を言う)


と、呆れた様ため息をついて頷いた。


(だってさ、プレッソ)

(・・・・)


(ん?プレッソ、どうした?)

(オイラ、あの爺さんと話したぞ?)


(え?そうなの!?)

(あぁ。ま、あの爺さんにも何か理由があんだろ?いいよ、オイラ1人で行ってくるから)


そう重清にだけ答え、プレッソはベンチで話す2人の元へと掛けていった。


(爺さん、いつか理由、教えてくれよ?)

(ふんっ。うるさいわ、童が)


(なんだよ、やっぱ話せるんじゃねーか)

(・・・・・・)


(なんだ爺さん、スネたのか?)

(スネてなどおらんわ。さっさと行かんか!)


(へいへい)

プレッソは、ゴロウにそう返事をして2人の掛けるベンチの後ろへと座った。



ここからの2人の会話は、プレッソが重清に伝え、それを重清が代弁したものである。


「―――それでね、今度の休みの日に、皆でカラオケに行こうって話になったの」

「へぇ、いいね。楽しんでおいでよ」


「うん。それでね、一緒に行く人の中に、男の子もいて・・・」

「・・・ふぅ〜ん。キミは、他の男と遊びたいんだ」


「ち、違う、そうじゃなくて・・・」

「何が違うの?じゃぁ、そのカラオケには行かないってこと?」


「いや、えっと・・・」

「行くんだろ?それで、他の男と仲良くなりたいんだろ?」


「そんなんじゃないの!ただ私は、友達と遊びたいだけなの!」

「別に友達なんて、女だけでいいじゃん。なんで男とも遊びたいんだよ?」


「だって、クラスメイトだし・・・」

「・・・わかったよ!勝手にすればいいだろ!!その代わり、俺は、お前と別れる!お前は、そのクラスメイトとやらと、存分に仲良くすればいいだろ!」


「そ、そんなに怒らないでよ!」

「うるさい!女のくせに、いちいち俺に反論するなっ!!」


「わ、わかったから!私、カラオケには行かないから!ずっとあなたといるからっ!!」

「・・・・それでいいんだ。君は、ただ僕の言うことを聞いていればいい。僕が必ず、君を幸せにしてあげるから」


「う、うん。ヤマト、大好きだよ」

「僕も、君の事が大好きだよ」



「うわっ、ちょ、あの2人キスしてるっ!!」

2人の様子を陰ながら見つつ会話を代弁していた重清が、2人から目を逸らして一同を見た。


「途中ちょっと怒鳴ってたみたいだけど、最終的にハッピーエンドだったし、特に問題ないんじゃない?」

顔を赤らめながらそう言った重清に、


「アンタ馬鹿じゃないの!?」

アカが反論した。


「今のは明らかにデートDVってやつよ。友達付き合いのことまで口出されて、あの人凄く可哀想・・・それに、『女のくせに』なんて、今どきそんなこと言うなんて!あなたもそう思うでしょ!?」

そう言ってアカは、重清の隣にいる美影へと目を向け―――


「ちょっとあなた!!何を言っているの!?」

その時、離れた所から重清の隣にいたはずの美影の怒鳴り声が聞こえてきた。


「「「うわぁ・・・」」」


いつの間にか高校生カップルの前に立ちはだかる美影の姿に、重清とアカ、そしてショウが言葉を漏らすのであった。

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