第219話:はっちゃけます
「いってきまーす!」
学校へ向かうべく、重清は両親に声をかけ、いつものようにプレッソとチーノを伴って玄関の扉を開けた。
「お、おはよう、重清」
その扉の先では、美影がはにかんだ笑顔で重清を迎えた。
その後ろでは、隠が申し訳無さそうな顔を重清に向けつつ、慈愛に満ちた表情で美影を見守っていた。
「ふぇっ!?」
突然の出来事に重清が変な声をあげていると、
「な、なによ朝から変な声出して。あっ、少しここで待っていなさい」
そう言った美影は、重清の出てきた扉から鈴木家へと入っていった。
「あ、隠君おはよう!あれ、シゲ、こんなところでどうしたの?」
何も知らない聡太が、首を傾げながら重清を見ていると・・・
「お義父様、お義母様、昨日は失礼な態度をとって申し訳ありませんでした!この度、重清君とお付き合いすることになりました!今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします!!」
「お義父様!?」
「お義母様!?」
「「お付き合い!?」」
鈴木家から美影の元気な声と共に、重清の両親の叫びを聞いた聡太は大体の状況を理解し、
「お、おめでとう」
と、言葉を絞り出した。
「いやソウ、分かって言ってるよね!?」
重清が頭を抱えながらつっこんでいると、スッキリとした顔の美影が家から出てきて聡太に目を向けた。
「あら、あなたは確か・・・」
「あ、ぼくシゲの友達の、風間聡太です」
「ええ、甲賀ソウね。昨日クルと手合わせをして、コテンパンにやられたみたいね」
「あはははは。まぁ、そうですね」
聡太は、苦笑いを浮かべ、チラリと隠に視線を送った。
その視線の先では隠が『手合わせの詳細はくれぐれも内密に!!』とでも言うように、器用にゴロウを抱きながら聡太に拝み倒していた。
(隠君、何かキャラ変わってない?まぁ、それ言うならこの人もそうだけど)
そんな隠から目を逸らした聡太は、美影を見つめながらそんなことを考えていた。
「あら、私をそんなに見つめても、私は重清の恋人よ?それに、敬語は使わなくていいわ。未来の旦那様の親友のあなたも、私に敬語を使わないことを特別に許可してあげる」
「いやもうどこからつっこんでいいのやら!!」
重清が、またしても頭を抱えてつっこんでいた。
「あら重清、何か言いたいことでもあるの?」
美影が、不服そうに重清を見つめていた。
(そんな顔も可愛いな。じゃなくてっ!!)
心の中でセルフつっこみをいれた重清は、決意のこもった目で美影を見返した。
「言っておくけど、そもそもおれは、美影と付き合うなんて一言も言ってないからね!」
そう言った重清の瞳をじっと見つめていた美影は、
「か、カッコいい・・・」
そう呟いたあと、頭を振って自我を取り戻し、重清を見据えた。
「重清、あなたの言いたいことはよく分かったわ」
「ほっ。じゃぁ――――」
「クラスのみんなに、私と付き合っている事を隠したいのね。わかるわ。中学生によくある、『べ、別にアイツのことなんて好きじゃねーしっ!』っていうあれね。わかったわ、学校にいる間は、私も協力してあげるから。クルも、わかったわね!」
「は、はいっ!あっ、忘れてた。いよっ!今世紀最大のお似合いカップルっ!!」
昨日から必死になって考えていた合いの手を変なタイミングでかましつつ、隠が必死にうなずき返していた。
「いや合いの手のタイミングっ!っていうか隠君、キャラ変わりすぎっ!そして美影、相変わらずポジティブ!あぁもう!おれじゃこの量のつっこみは捌ききれないっ!!」
(あ、隠君へのつっこみカブった)
重清の言葉に聡太が若干ヘコミつつ、一行は学校へと向かうのであった。
しかし鈴木家をあとにして直ぐに、一行は道の端にできた人だかりを見つける。
「キャァーー!充希君、こっち見てー!」
「はぁー。朝からそのご尊顔を拝見できるなんて夢のようだわっ!」
「充希様、視線を、いや、髪の毛一本でいいからこっちにちょうだーい!」
「み、みつきたん!かわゆおすなぁ〜」
「あっはっは〜。君たち、僕はどこにも逃げないよ〜」
「「「「・・・・・」」」」
重清と聡太、そしてプレッソとチーノが、何故かたくさんの女子プラス長宗我部君に囲まれているのを見つめていると、美影がため息交じりに話しだした。
「はぁ。昨日の帰りに、女の子から声を掛けられてから、充希ずっとあの調子なのよ。まぁ、私としてはあの子が私以外の子に目を向けてくれて助かるのだけれど。ちょっとはっちゃけすぎよね」
「美影も大概だけどな」
「まぁ重清、『美影は大概可愛い』だなんて・・・」
「言ってねーよっ!」
(あのシゲにここまでつっこませるなんて・・・雑賀美影、凄いな)
聡太はそんな2人を見て、どうでもいい事を考えていた。
聡太の中で、美影につっこむのはもう、完全に面倒くさくなっているのであった。
そして隠は、
「いよっ!今世紀最高の色男っ!」
またしても思い出したかのように充希に声をかけ、重清のつっこみに物ともせずただ一心に重清へ愛を向ける美影を、従者として、そして友人としてただキラキラとした瞳で見つめながら応援していた。
(なんつーか、また面倒なことになったなぁ)
(あら、恋する乙女の想いを面倒だなんて、プレッソ兄さん、ちょっと酷いんじゃないの?)
プレッソとチーノは、呑気にそう話をしながら、プレッソは哀れみの目で、チーノはただ面白そうに、2人を見つめているのであった。
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