第3話:サンドバックはお友達
古賀少年が甲賀ノリとして、甲賀平八と子弟の契約を結んで、半年が経った。
「今回こそは、負けないんだぜ!!」
ノリと同じく忍者となった甲賀ロキが、そう言って刀を具現化させてノリへと向かって行った。
「ふん。ハチ」
(任せて!)
ノリがロキの言葉を鼻で笑いながらそう言うと、ロキが薙ぐ刀を指で受け止め、そのまま刀ごとロキを放り投げる。
投げられたロキが体勢を整えようと藻掻いていると、上空からハチがロキめがけて急降下してきた。
そのままロキの腹へ嘴ごとハチはつっこみ、
「がっ!」
ロキはその声とともに、そのまま地へ叩きつけられる。
「いい加減諦めろ、ロキ。お前じゃ俺には勝てねーよ」
ノリはそう言って、ロキに背を向けてその場を去ろうとする。
「ノリ~、もう少し手を抜いてくれないと、ロキの修行にならないでしょう?」
ノリ達の師である教師、平八がノリの行く手を阻むように現れ、ノリを非難がましく諭した。
「知るか爺ぃ。ロキが弱いのが悪いんだろ」
ノリはそう言葉を吐いて平八を一瞥し、そのままその場を歩き去っていった。
(ちょっとノリ、待ちなさいよ~)
ハチが、慌てたようにノリの後を追って飛び去って行った。
「まったく。あの子はあれだけ素質もあって有望なのに、どうしてこうも心を開いてくれないかなぁ」
立ち去るノリの背を寂しそうに見つめ、平八はそう言葉を漏らしていた。
「おっと。そんなことより。ロキ~、大丈夫かい??」
平八は、慌てたようにロキへと駆け寄っていった。
(ちっ。これだけの力を得たのに、イライラする)
ノリは、忍者というものに生きがいすら感じ始めていた。自身の力を示すことができる、忍者というものに。
これからずっと、忍者として生きたい、そう、彼は感じ始めていたのだ。
しかしそれでもなお、彼はイライラしていた。
これまで人を怯えさせていたノリの視線が、もともと持っていた忍力のあふれ出たものによるということは、平八を契約をしてすぐに平八から説明を受けていた。
そのため、力を自在に扱えるようになってからは人を怯えさせることはなくなっていた。
更に、忍者となってからは日々修行に明け暮れ、力を発散させることすらできていた。
それでも、ノリはイライラしていた。
原因は、ノリにもわかっていた。
契約をしたノリは、すぐに頭角を現し、先輩たちを含めてその中学で一番の実力者へとなっていた。
そして、当たり前のように彼は、中忍体でも中心になって活躍した。
そのおかげもあり、彼らは全国大会への出場権を獲得していた。
しかし、彼らの中学校は全国大会へ出場することはなかった。
その理由は、先輩達のボイコットであった。
1年生でありながら部イチの実力者となったノリに、先輩たちが反発したのだ。
それは、ノリの普段の態度も大きな要因となっていた。
結果、彼らは全国大会への出場を諦めることとなった。
そして、それ以降先輩たちは忍者部の部室へ来ることはなく、残ったのはノリとロキのみとなった。
平八の言うところでは、まだ契約を破棄したわけではなく、現在もまだ彼らを説得しているところだという。
しかし、そんなことはノリにとってはどうでもよかった。
ただ、自身の力を示すことのできる場を失ったことに、憤りを感じていた。
そしてその想いは、その原因となった先輩たちに対しても同じであった。
そもそもの原因が自身の態度であることもわかってはいたが、それすらもノリは、彼らのせいであると思っていた。
力のないアイツらが悪いのだ、と。
そのままノリは忍者部の部室へと戻り、隣でわめいているハチを自身の中に戻し、そのまま掛け軸を通って社会化研究部の部室へと戻った。
(クソ、イライラする)
そのまま学校を後にしたノリは、帰りたくもない家へと帰るのを避け、ただ街を歩いていた。
そのまま1時間ほどブラブラ街中を歩いていると。
(ちょっとノリ!聞いてるの!?)
(黙れハチ。うるさいんだよ)
頭の中で喚くハチに冷たくノリが答えると、
(違うのよノリ!あっちの方で、ロキが誰かにやられてるのよ!)
(は?)
ハチの言葉に、ノリは頭の中でそう答えていた。しかし。
(別に、あいつが誰にやられようと俺には関係ない・・・ん?この感じは・・・)
何か思うところがあったノリは、ロキの気配のする路地裏へと足を向ける。
「ちっ。やっぱりか」
ノリが呟いて目を向けた先では、忍者部の4人の先輩たちがロキを囲んで袋叩きにしていた。
「おいロキ!お前いい加減部室行くのやめろよ!」
「そうだぞロキ!お前、あいつの肩を持つのかよ!」
「お前が行くと、あのクソノリがいつまでも部活に来ちまうじゃねーかよ!」
「そうだそうだ!!」
(ふん。たとえ1人になろうが、俺は辞めねーけどな。ま、ロキが来なくなるのは、鬱陶しい奴が消えてくれるからこっちとしてもありがたいけどな)
陰から様子を見ていたノリは、そう心の中で呟いていた。
(ノリ!助けないの!?)
(何で助ける必要がある。アイツらの好きにやらせとけばいいだろ)
(で、でもっ!!)
ノリがハチに答えていると。
「か、勘弁してほしいんだぜ、先輩方。お、オレは、絶対に行くのをやめないんだぜ!」
4人に袋叩きに会いながら、ロキは強いまなざしで4人を睨んだ。
「な、なんでだよ!!」
「あ、あいつはオレの、友達だからだよっ!!」
「は?」
ロキの言葉に、ノリの口からつい、言葉が漏れた。
「「「「っ!?」」」」
その声に、4人が一斉にノリの隠れている方へ視線を向けた。
「ちっ」
ノリは舌打ちをして、ロキ達5人の前に姿を現した。
「クソが。ロキ!テメーが分けわからねぇこと言ってるから、バレちまったじゃねーか!!」
「な、なにが分けわからないんだぜ?オレはお前を、友達だと言っただけなんだぜ?」
「それが分けわかんねーんだよ!」
「だってお前いっつも、弱い俺の修行に付き合ってくれてるんだぜ?友達じゃなくて、なんだっていうんだぜ?」
「なにって、お前は俺にとって、体のいいサンドバックってだけだよ」
「ははっ。言い返せないんだぜ」
「おいロキ!こんなやつに友達とか言ってんじゃねーよ!!」
先輩の一人が、ロキを蹴り上げた。
その時、ノリの中に感じたことのない感情が沸き上がった。
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