第433話:風魔本家当主

「ふう。やっと到着だ」

重清達一行がしばらく山道を進んでいくと、平桁場所に辿り着き、ノリがため息混じりにそう言った。


「「・・・・・・」」


ノリの後をついてきた重清と聡太は、目の前の光景にただ呆然としていた。


彼らの目の前にあるのは、古びた洋館。


およそ忍者が住むのには相応しくないその建物に、彼らは戸惑っていた。


「いや、忍者が洋館てっ!」

恒久がいたならば必ずそうつっこんてくれていたであろうこの状況で、2人はつっこむこともせずに突っ立っていた。


「お前らが言いたい事は分かるが、絶対に何も言うなよ。ったく。恒久を連れてこなくて正解だったよ」

ノリがそう言いながら進むのを見た重清と聡太は、慌てるようにその後について歩き出した。


「・・・・・・」

洋館を見つめながら深刻そうな顔をする聡太に気が付いた重清は、その顔を覗き込んで笑った。


「確かに、ツネが居たら絶対につっこみそうだもんな」

「あ、う、うん・・・」

聡太は曖昧な笑みを浮かべながら重清にそう返した。


しかし、聡太は別のことに気が取られていた。


(この忍力・・・)

洋館から漏れ出る忍力に、聡太は何かを感じていたのだ。


そんな聡太の様子を気にも止めず、ノリは洋館の入り口に立ち、目の前の呼び鈴を鳴らした。


古びた鈴の音が辺りに響き、すぐに目の前の扉が開け放たれた。


「お待ちしておりました」

執事然とした男が、恭しく頭を下げて一同を出迎えた。


頭を上げた男は、聡太だけに視線を注いだ。


「主がお待ちです」

そう言って踵を返してスタスタと歩き出す男に、重清達は顔を見合わせながらもその後をついて歩き出した。


(違う。あの人じゃない。だけど、あの人も確かに、にいた。っていうかあの人・・・)

聡太は、男の背を見つめながら1人そんなことを考えていた。


そのまま男について行く一行が飾り気のない廊下を進むと、やがて扉の前へと到着した。


「では、お入りください」

男はそう言って扉を開け、恭しく頭を下げた。


(なんかあの人、ソウに頭下げてない?)

部屋へと入りながら聡太の耳元へと囁く重清に、聡太は表情を固くして頷いた。


(確かに、あの男はさっきからソウにばかり話しかけて俺と重清には一切興味を持ってねぇ。こりゃどう言うことだ?)

ノリもまた、怪訝な表情を男に向けながら部屋へと進んでいった。


3人か部屋に入ると、彼らは絶句した。


所狭しと積まれた本の山が床一面にそびえ立ち、ところどころ崩落したその山の上に、さらに本の山が積まれるという、一体どれだけ絶妙なバランスに支えられているのか、もはや素人には分からないほどにその部屋は本で溢れていた。


その本の山に囲まれるように備え付けられたテーブルには、さらに本の山を積まれており、その奥から声が聞こえてきた。


「待っていたわよ、

本の山の向こうから、女のそんな声が聞こえてきた。


その声にどこか懐かしい響きを感じた聡太は、それでも自身の名を呼ばれたことに戸惑い、ノリへと目を向けていた。


「あー、本日はお忙しいところ申し訳ございません。先に雑賀雅から連絡させていただいたとおり、お願いがあって―――」

「黙りなさい」

戸惑う聡太を気遣って本の向こうの人物へと声をかけたノリの言葉を、女は遮った。


「私は聡太に話しているのです。ただの忍者如きが、馴れ馴れしく話しかけないでもらえないかしら―――ってちょっと!この本邪魔なんですけど!?」

「その本は、お嬢様がお積みになったものかと」

女の言葉に、部屋の入り口付近に控える執事らしき男は若干呆れた顔で、本の向こうへと言った。


(間違いない。この忍力・・・あの時、あの場にいたのはこの人だ)


本の山の向こうから溢れる忍力に、聡太がじっと目を向けていると、


「もうっ!うっとおしいわねっ!」

そんな声とともに、本の山が崩されていき、その向こうから女の顔が見えた。


「あっ・・・・」

その顔を見た聡太は声を漏らし、女の顔を見つめていた。


「お、お母さん?」

「「へ?」」

聡太の言葉に、重清のノリが声を揃えて女の方に目を向けた。


「・・・間違えるのも無理はありませんね」

背後の男の声を聞いた女は、不機嫌そうに顔を歪めた。


「ふん。あの女と間違えられるなんて・・・」

そう呟いた女は、聡太を見つめた。


「言っておくけれど、私はあなたの母親ではないわ。

私は風魔本家現当主、風魔紅葉もみじ

「いまだに独身です」

言葉を遮って横からちゃちゃを入れる執事の男を睨みつけた女は、聡太を見つめて言葉を続けた。


「あなたの母、風魔かえでの双子の妹、そして、あなたの伯母よ、聡太」

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