第434話:聡太の母、楓
「「はぁ!?」」
聡太の伯母と名乗る
(ちょっとあんた達、少し黙ってくれない?)
紅葉はそうとでも言いたそうに、2人を睨みつけた。
「伯母さん・・・双子だから、お母さんと似てたんだ・・・」
聡太は驚きながらも、紅葉の顔を見つめていた。
「ちょっと、オバさんとか呼ばないでくれる?」
聡太の言葉に、紅葉は顔を歪ませた。
「お嬢様。今の聡太様のお言葉は、伯母という意味であって、決してお嬢様をオバハンなどとは―――」
「あんたは黙ってなさい!しかもオバハンってなに!?ちょっと色つけてディスってんじゃないわよっ!」
紅葉はそう言って執事らしき男の言葉を遮った。
「まぁ、聡太のお母さんの双子なら、立派なオバさ―――ごめんなさい」
重清は重清で、相変わらず余計なことを言おうとするも、紅葉の無言のプレッシャーに耐えきれず、即座に深々と頭を下げていた。
「えっと・・・」
そんなわちゃわちゃした雰囲気に飲まれつつ、聡太はじっと紅葉の顔を覗き込んだ。
「もしかして、お母さんも、忍者だったの?」
「ちっ。そうよ」
紅葉は舌打ちしながらも、聡太の言葉を肯定し、そのまま口を閉ざした。
そのまま黙りこくる紅葉を見かねた執事の男は、聡太へと笑いかけた。
「聡太様の母、楓様は、この風魔の次期当主として、誰もが認めるほどの立派な忍者でしたよ」
「お母さんが、風魔の当主・・・」
男の言葉に驚いた聡太がそう呟くと、またしても紅葉は舌打ちをした。
「でも、あいつは風魔を裏切った」
「う、裏切った・・・?」
母に対する紅葉の言葉に、聡太の表情は曇る。
母が、一体どんなひどいことをしたのか。
自身を産んですぐに亡くなったと聞かされている聡太に、母の記憶は無い。
それでも、自分を産んでくれた母親が人を裏切ったと聞かされて、聡太の心中は穏やかではなかった。
「ご安心ください、聡太様。聡太様がご想像するようなことは、楓様はなさっておりませんよ」
執事の男は、そんな聡太の心を見透かしたように笑みを浮かべた。
「楓様は、恋をなされたのです」
「こ、恋・・・」
自身も未だまともに経験のないその言葉に、聡太はほんの少し、顔を赤らめた。
男の言う母の恋の相手に予想がついたのも彼の気恥ずかしさの原因を作り上げていた。
「あいつは、忍者ですらない男と駆け落ち同然にこの家を飛び出し、風魔を捨てたのよ。おかげで私は、当主にさせられて、結婚相手と出会うことすらできなかったのよ!?」
「まぁ、お嬢様がご結婚出来ないのはそれだけが理由ではありせんが・・・」
そう呟く執事の男を射殺すばかりの目で睨む紅葉であったが、男はそんな視線も気にすることなく、小声で聡太達へと話しかけた。
「お嬢様は、極度のひきこも―――インドア派でして。
おかげで他の忍者からは、『風魔以外を認めようとしない高慢な家系』などと思われているようですが・・・
まぁそんなお嬢様のひきこもりのせいもあり、出会いなどとてもとても・・・」
「亀太郎!聞こえてるわよっ!!」
紅葉はそう言いながら、亀太郎と呼ばれた男に本を投げつけた。
紅葉の投げた本を華麗にキャッチする男に聡太は目を向けると、申し訳無さそうな表情を浮かべながら話しかけた。
「あの・・・間違っていたらごめんなさい。おじさんは、その・・・」
「おぉ。流石は聡太様、気付いていらっしゃいましたか」
亀太郎はそう言って笑みを浮かべた。
「え、なになに?この変なおじさんがどうかしたの?」
重清が体を乗り出して亀太郎を見つめると、
「変なおじさんとは随分な言われようですね。それにしても聡太様のご友人は、何体も具現獣を従えながら、中々に鈍感なご様子で・・・」
亀太郎は苦笑いを浮かべて重清を見つめていた。
プレ(ん?どういうことだ?)
チー(はぁ。まったく。プレッソと重清くらいなものよ?気が付いていないの)
ロイ(まぁ、この2人には難しいじゃろう。気が付ける聡太が凄いのじゃよ)
「えっと・・・ウチの具現獣も3分の2はわかってるみたいだけど・・・ソウ、この人がどうしたのさ?」
「あのね、シゲ。この人、具現獣だよ」
「あー、そうなんだ」
「リアクションが薄いっ!!」
全く驚いた様子のない重清の言葉に、亀太郎は身をくねらせながらつっこんだ。
(うん。やっぱこのおじさん、変だな)
そんな亀太郎を見て、重清の想いは確信へと変わったのである。
「申し遅れましたな。私は亀太郎。元はこの名の通り、亀の具現獣です。聡太様のお母様、楓様の、ね」
そう言って聡太へとウインクした。
(亀だって。ロイとお揃いじゃん)
(ふむ。まぁ、儂に比べたらまだまだ若いがのぉ)
重清が1人脱線していると、突然亀太郎の頭に、本がヒットした。
「私を無視して話を進めるなぁーーーーっ!!!」
風魔本家当主の叫びが、辺りに響き渡った。
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