第369話:龍の名は

「シゲの言う通り、『ご飯をくれるからママ』っていうのは、古い考えなんだよ?今の時代は、男も女も関係なく、ご飯くらいは作れないとね。だから、ママはやめてくれない?」

ソウは優しく、自身の首に巻き付いている龍へと語りかけた。


「え~。だって、パパは『ご飯は女が作るもの』って考えてたみたいだよ?」

叱られた子どものように、龍はその尖った口を更に尖らせてソウに言い返した。


「パパ?あぁ、あのコモドドラゴンさんか。あの人?は、昔の人だから仕方ないんだ。でも今は、そんな風に考える方がおかしいから。ね?」

「ふぅ〜ん。わかった。じゃぁ、ボクにはパパが2人いることになるんだね!こういうの、BLって言うんでしょ!?」


「いやそういう事は知ってんのかよっ!」

龍の言葉に、恒久はすかさずつっこんだ。


「もー。ツネ、ツッコミのとき声うるさーい」

龍は不機嫌そうにその小さな耳を、更に小さな前足で塞ぎながら返した。


「つっこみってのは勢いが大事なんだよ!」

恒久が龍に返していると、


「でも、ほんとによくそんな言葉知ってたね。ぼく、そんな話、したこと無いと思うんだけどな」

ソウは苦笑いを浮かべながら龍を見つめていた。


「なんかねー、同じキョーシツのジョシが、パパとシゲの事をそんなふうに言ってたよ?」


「「それは聞きたくなかった!!」」


龍の言葉に、重清とソウはその場に崩れ落ちた。


「そういえばその子、名前はどうするの?」

床に崩れ落ちるソウにアカが問いかけると、


「あー、そういえば、どうしよう。シゲ、何か良い案―――むぐっ」

「パパ止めて!シゲに聞かないで!シゲの付ける名前、全部変なんだもん!」

龍は慌てたようにソウの口を小さな尻尾で塞ぎながら懇願した。


「おい。あの新人、オイラたちを遠回しにディスってないか?」

「というか、どストレートに貶してくれているわね」

「ふむ。どうやらあの小童こわっぱ、少し教育が必要なようじゃのぅ」


プレッソとチーノ、そしてロイが、それぞれ立ち上がって龍を睨みつけた。


ロイだけは、亀なので立ち上がっても高さは全然変わらないのだが。


「いや、3人とも大人気ないな。まぁ、プレッソはまだ子どもみたいなもんだけど」

そんなプレッソ達に、重清が笑いかけた。


「あら、重清は悔しくないの?あなたの名付けを貶されているのよ?」

チーノが重清に目を向けると、


「んー。チーノ達は、おれの付けた名前気に入ってくれてるんだろ?だったらいいじゃん。

他所はよそ、ウチはうち、ってやつだよ」

重清は呑気にそう答えた。


「けっ、重清らしいな」

「まぁ、重清がそう言うんなら私達は何も言わないけど・・・」

「ふむ。まぁ、重清に免じて許してやるかのぉ」

プレッソ達は口々にそう言って、再び腰を下ろした。


「ゴメンね、3人とも」

ソウはプレッソ達に頭を下げると、


「ほら、ちゃんと謝りな?みんな、キミより先輩なんだよ?」

龍へと謝罪を促した。


「わかったよ。ゴメンね、プレッソ兄ちゃん、チーノ姉ちゃん、ロイ兄ちゃん」

龍は潤んだ瞳で、プレッソ達に謝罪の言葉を投げかけた。


「兄ちゃん・・・・オイラにもついに、弟が・・・」

「あら、可愛いところあるじゃない」

「ほっほっほ。子どもはそのくらい元気な方がちょうどいいわい」

プレッソ達は、向けられる潤んだ瞳にそれぞれ笑みを返していた。


(パパ、あの3人、結構チョロいね)

(うわぁー、この子いい性格してるな。誰に似たんだろ?)


(もちろん、パパだよ!)

(うん。どっちのパパかは、聞かないことにするね)


ソウと龍が心の中で会話していると、


「それで?名前はどうするんだ?みんなどんどんシゲみたいに脱線してんぞ?」

恒久がソウへと声をかけた。


「う〜ん・・・・」

ソウはそのまましばらく考え込み、


「決めた!キミの名前は、ブルーメだ!」

そう言って、龍の頭を撫でた。


「うん!カッコいい!ボクは今日から、ブルーメだっ!」

ソウの首元から離れた龍、ブルーメは、そう言いながらパタパタと小さな羽で忍者部の部室を飛び回ってその喜びを表現していた。


「ちなみに、名前の由来は?」

意外と名付けにはこだわっている重清が、目を輝かせてソウを見つめた。


ブルーメも、興味津々な目をソウへと向けながら、パタパタとその場に浮かんでいた。


「えっと・・・ぼくって、忍術使うと花が出ることが多いでしょ?ブルーメって確か、ドイツ語で花って意味なんだ。

それに、本来の五行説では、木は青色だったはずなんだ。だから、青っぽい名前ってのも兼ねて、ブルーメにしたんだ」


「わぁ!パパ、カッコいい名前本当にありがとう!」

ブルーメはそう言うと、ソウの頬にすり寄っていた。


そんな可愛らしいブルーメの様子に、ブルーメに思いっきりぶっ飛ばされたノリも含め、その場の全員が微笑ましそうにその様子を見つめていた。


こうして甲賀ソウの術の契約書には、新たな具現獣であり息子であるブルーメの名が記されるのであった。

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