第368話:はい、ごめんなさい

龍の忍力に吹き飛ばされてズタボロになったノリを回収した一同は、ケンとノリをいったん社会科研究部の部室へと運び出し、その傷を癒したのちに再び忍者部の部室へと集まっていた。


お忘れの方も多いだろうが、忍者部が普段修行に利用しているのはかの有名な天才忍者、雑賀雅の作り上げた空間である。


しかも、ただの別空間ではない。

その空間でどれだけ傷つこうとも、そこから出た途端にその傷は全てなかったことになるという、非常に便利な機能を持った空間なのである。


もちろんこれは、この忍者カリキュラムを作り上げた雑賀平八の優しさによるものであった。

忍者となったばかりの中学生に余計な傷を負ってほしくないという、平八の優しさを汲んだ雅が、その想いに応えるべく作り上げたのが、この空間なのである。


ちなみに、その空間での時間が現実世界ではほとんど進んでいないことも、「勉強の時間を確保してあげたい」という、平八の優しさなのである。


それはさておき。



「ほら。さっさとケンさんに謝る!」

忍者部の部室に、龍の攻撃から回復したノリの背中を、ドンと叩きながら言うアカの言葉が響いた。


「痛いな。わかってるよ!アカ、お前どんどん、雅様みたいになっていってるぞ?」

「あら、お褒めの言葉ありがとうございます」


(褒めてねぇってんだよ!)

満面の笑みで返事をするアカに、ノリは心の中で毒づきながらケンへと目を向ける。


「あー、その、なんだ。悪かったな」

「な・に・が!?」


気まずそうに呟くノリの背から、アカの厳しい声が聞こえてくる。


(あー、アカ、ほんとばあちゃんみたいだ。怒ってるとき、ばあちゃんあんな感じだもんなー)

重清は、そんなアカを見ながら1人で脱線していた。


そんななか、ノリは深いため息をついて再びケンへと頭を下げた。


「ケンに彼女が出来たのが悔しくて、殴ってしまいました。すみませんでした!」

若干不貞腐れ気味にそう言ったノリに対して、ケンは首を振った。


「いや。ノリさんが謝る必要、ない。ノリさんの力も計らずに攻めた俺に問題があったから」


「あーあ、やっぱり彼女のいる男は、モテないやつらとは違うわね~」

ケンの言葉に、アカはその場の一部の男たちに目を向けながら、感心したように言った。


主に、ノリとシンと恒久を見ながら。


「え、俺今回関係なくね?なんで俺までモテない認定されてんの?」

「ツネ、アカには逆らっちゃダメ」

「そうだぞツネ!ママの言うとおりだ!アカには逆らっちゃダメなんだぞ!」


アカの視線を受けた恒久がボソリとつっこむと、隣のソウがそれを小さな声で咎め、さらにソウの首に巻き付いていた龍もソウの言葉に同調していた。


「そうそう。もしもノリさんが今後同じ過ちを繰り返そうものなら、またこの子に、ぶっ飛ばしてもらいますからね!」

アカはそう言って、ソウの首に巻き付いた龍の小さな頭を撫でた。


「うん!アカには逆らえないから、ボク頑張るよ!」

龍は元気にそう言って、頷いていた。


「へいへい、わかりましたよ!はい!この話はこれで終わり!」

ノリはそう言うと、龍へと目を向けた。


「それで・・・ソウ、そいつがお前の持っていた卵から生まれた具現獣ってことでいいんだよな?」

そう問いかけるノリに、ソウは小さく頷いた。


「その子、可愛いわね。ちなみに、わたしに逆らえないってどういうことか、ちゃんとソウが説明しなさいよ?」

アカが龍に微笑みつつ、ソウを小さく睨みつけた。


「「うぐっ・・・」」

ソウとともに、龍も小さく呻いていた。


「ママ、ボクのせいで、ごめんね」

「なははは。まぁ仕方ないんだけどね。それよりも、その『ママ』ってやめてくれない?ぼく男の子なんだよ?」


「だって、ママは美味しいご飯をいつもくれたんだもん!だから、ママはママだよ!」

「えー、その考え古くないか~?」

龍の言葉に、重清が口をはさんだ。


「でたなー、シゲ!シゲは黙っててよ!」

龍は、不機嫌そうな顔で重清を見つめていた。


「あれ?おれ名乗ったっけ?」

重清は、龍に名前を呼ばれて不思議そうに首をかしげていた。


「聞かなくてもわかるよ!ボク、卵の中でみんなの話、ずっと聞いてたんだから」

そう得意げに言い返す龍に、ソウは笑いかけた。


「ふふふ。早速シゲと一緒に脱線するほど仲良くなってくれて嬉しいけど、話を戻そうね」

ソウは母のような優しさに包まれた笑顔で、龍を見つめるのであった。

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