第370話:いつもよりも騒がしい登校

ブルーメが卵から孵った翌日の朝。


「おはよう!・・・ん?」

隣の家に住む聡太に玄関先で声をかけた重清は、聡太の首元を見て首を傾げた。


「やっぱり、変かなぁ?」

聡太は気恥ずかしそうに、重清に小さく笑いかけた。


聡太の首には、スポーツネックレスが掛けられており、その先には小さな龍の人形がぶら下がっていた。


「いや、別に変じゃないけどさ。いきなりそんなの着けてるから、少し驚いただけ」

(おいシゲ!そんなのとは失礼だぞ!)


「うぉっ!ビックリした!」

突然頭に響くブルーメの声に、重清は声を上げて驚いていた。


「あー、ごめんね。ブルーメ、いきなり大声出しちゃだめだよ?」

聡太は重清に謝りながら、首元の龍の人形を撫でて言った。


「え、もしかしてそれ、ブルーメなの?」

重清が驚いてその人形に目を向けると、


「よっ、シゲ!」

パチリとウインクしながら、人形は重清へと笑いかけた。


「こら、喋っちゃダメって言ったでしょ?ブルーメ、ぼくの首に巻き付くのが気に入っちゃったみたいなんだよ」

(パパの首、落ち着くんだもん!)


「すっかりパパが板についてるな」

聡太とブルーメの会話に、重清は笑いながら呟いていた。


「それにしても、さっきからブルーメの声が頭に響いてるけど、これってソウの『通信』?」

重清は、小さなブルーメを指で弾きながら、聡太へと問いかけた。


『通信』とは、任意の対象と、頭の中で会話が出来る、聡太のスマホレーダーの便利機能の1つである。


「あ、そうそう。昨日の夜、ウチで少しだけ試してみたんだけど、どうやらブルーメ、ぼくのレーダーを触れずに使えるみたいなんだ」

「おぉ。なんかまた、ソウのチートに磨きがかかったな」


「それ、絶対ツネにも言われると思ってる」

聡太は苦笑いを浮かべながら重清へと返して、ブルーメを撫でる。


「昨日ブルーメとも話したんだけど、これからの部活修行では、基本的にブルーメにはぼくのサポートに徹してもらうことにしたんだ」

「サポート?」


「うん。レーダーを操作するときって、どうしてもそっちに集中しちゃうからね。だから、その操作をブルーメに任せることにしたんだ。それだと、ぼくは頭で考えるだけでレーダーを使えることになるからね。

それに・・・・・」

そこまで言って、聡太は言葉を濁した。


「あー、ソウが言いたいことわかったかも。ブルーメの強さが気になってるんじゃない?」

「やっぱりシゲにはわかっちゃったか。

そうなんだ。ノリさんを倒せるほどの力、みんなに向けるわけには行かないからね。

しばらくの間、ブルーメにはぼくのサポートをしてもらいながら、力の使い方を学んでもらうことにしたんだ。

それで、シゲにお願いがあるんだけど・・・」


「チーノに、力の使い方を教えてほしいんでしょ?」

「そういうこと」


「ま、いいんじゃない?今はプレッソ達とばあちゃん家に行ってるけど、あとでチーノに頼んどくよ。じゃぁブルーメは、おれの弟弟子になるわけだな」

(えー!シゲの弟なんてヤダよー)


「うん。弟じゃなくて弟弟子ね」

重清がブルーメへとそう返しているうちに、2人と1匹は忍ケ丘第2中学校へと到着した。


「じゃ、ブルーメはここね」

聡太はそう言いながら、首にかけたスポーツネックレスをシャツの中へと隠すように入れ込んだ。


「あ、出したままにはしないんだ」

重清は不思議そうにその様子を見つめていた。


「一応、『肩こりのための磁気ネックレス』ってことにするつもりだからね。だからちゃんと、シャツの中に入れとかないと」

「あー、そういう感じね〜」

重清は聡太の言葉に適当に返事をしていると、


(おいシゲ!ちゃんとパパの話聞けよな!)


「はいはい、ちゃんとパパの話聞いてるって〜」

「パパがどうしたんだよ?」


重清が頭に響くブルーメの声に、またしても適当に返していると、その後ろから重清達のクラスメイト、後藤が声をかけてきた。


「おお、正、おはよ〜。別になんでもないよ。あ、そうそう。ソウ、肩こりなんだって」

「いや、意味わかんねえし。ソウ、お前も、朝からこんなバカ相手にして大変だな」


「あははは。もう慣れたよ」

「え?なんでおれ、朝から貶されてんの?」

(シゲはいつもバカだぞ~)


こうして、いつもよりちょっぴり騒がしくなった重清達は、わちゃわちゃと騒ぎながら教室へと向かうのであった。

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