第206話:雑賀重清 対 雑賀美影 その7

「・・・・・・・・・・・・・・」


重清は叫び声を上げながら、両手のひらを前に突き出したまま、しばらく何かを待っていた。


が、その何かが訪れることはなく、ただ無駄な静寂だけが重清を待ち受けていた。


「え、ちょっと何この空気。おれが初めてクラスで自己紹介したとき並に悲しい雰囲気が―――おごっ!!」


居たたまれなくなった重清がそんなことを言っていると、美影の拳が重清の腹に打ち付けられた。


(重清、踏んだり蹴ったりだな)

重清の中から様子を見ていたプレッソの声が、痛みに耐える重清の頭に響いてきた。


「な、何かしようとしていたようだけど、どうやら上手くいかなかったようね」

(また、なんか焦ってないかこの人)

美影の顔に少し焦った表情が浮かんでいると感じた重清の予想は間違ってはいなかった。


これまで何度も見せてきたように、所見の出来事に弱い美影は、重清がまた何か新しいことをすることを恐れ、重清を襲ったのであった。


そして、『重清がやろうとしていた新しいこと』が不発に終わったことに安心した美影は、ニヤリと笑って言った。


「ふん、どうやら手詰まりのようね末席。そろそろ、私にズタボロにされる覚悟はできたかしら?」

「最初からそんな覚悟、してませんけどね!っていうか、手詰まりなのはそっちも同じじゃないですか!」

重清は、美影の言葉に子どものように言い返した。


「なななななな何を言ってるの末席!そそそそそそんなわけないでしょ!!そうよ、私はまだまだやれるはずなのよ・・・・」

分かりやすく焦り、そのまま独り言を言い始めた美影に安心した重清は、そっとチーノへと語りかけた。


(チーノ、今の何で失敗したと思う?)

(今の、『忍力波〜〜』ね)

(いや〜、ありゃカッコよかったな〜)


(・・・・2人とも、ばかにしてるよね?)


((もちろん!))


(声揃えんなよっ!ってそんなことはいいんだよ。あの人が立ち直る前に、何かアドバイスあったらお願いします、

師匠!)


(だからそう呼ばないでって・・・それはいいわ。さっきの術、作るときあなたはどうイメージしていたの?)


(どうって・・・力の配分は、弾丸の術に似てるイメージかな。量は全然多いつもりだけど)

(えぇ、それはこちらからも分かったわ。でもそうじゃなくて、それを発射するイメージのことを聞いているのよ。どう出そうと思っていたの?)


(どうって、そりゃあれだよ。かめは―――)

(いい、分かったわ。皆まで言わないで。あなたのさっきの体勢でわかってたから)


(じゃぁ聞かないでいいじゃん。っていうかチーノ、知ってるんだ)

(何年生きているの思ってるのよ、ってそれはいいの。さっき失敗したのはね、多分そのイメージのせいよ)


(何で!?おれ何回も、漫画とかで見てるんだぞ!?)

(それでも、実際に出したことはないでしょ?あなたきっと、想像力が無いのよ)


(うわ〜。重清、それ致命的じゃねーかよ)

憐れみの声のプレッソが割り込んできた。


(わかってるよ!今ちょっとショック受けてんだから横から茶々いれんなよっ!!)

(もう、2人とも今はそれどころではないでしょ?それよりも重清、想像力の話は、今は脇に置きなさい。それよりもさっきの術の話よ)


(いやそうは言ってもさ、イメージ出来なきゃ、術作れないじゃん)

(何を言っているの重清。今回の術に関しては、わざわざ新しくイメージする必要なんてないじゃない)


(ん??)

(まだ気付かない?あなたいつも、撃っているじゃない?)


「・・・・あ」


チーノの言葉に、重清は声を漏らしてニイッと笑った。


(さんきゅ、チーノ!)

(いえいえ)


「よーしっ!」

「っ!?な、なによ!?また何かやるつもりなの!?」

やる気に満ちた重清の表情に、美影の顔に焦りの色が濃く表れた。


「さぁ、何かやれるかどうかは、お楽しみってことで!」

そう言って重清は、後方へと飛び去って美影から距離を取る。


「くっ。何が来ても、防げばいいんでしょ!?」

対する美影は、忍力を全力で纏い、防御の体勢をとった。


そんな美影に重清は、左手を向ける。

人差し指と中指を前へと突き出し、親指だけが上に向かって伸びる、それは、子どもが手で作る銃のような形をしていた。


その手に右手を添えた重清は、左手に忍力を集中させる。


(よし、忍力十分!次こそは!)

(えぇ、これならきっと、いけるわ!)

(重清、ファイトだ〜)

気の抜けるようなプレッソの応援に苦笑いしつつ、重清は叫んだ。


「今度こそくらえっ!!大忍弾の術だぁーーーっ!」


((うわぁ、名前ダッセぇ〜〜))

プレッソとチーノのそんな声と共に、


「ピロリンッ♪」


久しぶりの着信音が、重清の頭に鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る