第366話:胎動どころではありませんよ

ボクはある日、目が覚めた。


ううん。ずっと、意識だけはあったんだ。


パパの中にいた頃から、ボクはずっと外に出たいと思っていた。


だけどそう簡単に出られるわけもなくってね。


ボクはずっと、待っていたんだ。

ボクを外の世界へと連れ出してくれる人を。


そして、その人は現れた。


その人ママは、ボクにいつも美味しいご飯を与えてくれた。


知ってる?ママのご飯、とっても美味しいんだよ?


おかげでボク、たくさんご飯を食べられるようになったんだ。


いつも美味しいご飯をくれるママが、ボクは1番大好きなんだ。


もちろん、2番目はパパだよ?

でもパパとママは、全然会ってないんだ。


もしかして、リコンってやつなのかな?


なんでそんな言葉を知っているかって?

ボク、まだ生まれてないけど、話し声だけは聞こえてくるんだ。


まぁ声だけじゃなくって、最近ではママの見ているものがボクにも見えるようになっちゃったんだけど。

これが、「チヲワケタオヤコ」ってやつの力なのかな?


だからボク、色んな言葉、知ってるんだよ?


例えば、ミギウデとかシレイトーとか。


ママが、友達のシゲって人といつも言い合ってるんだ。

よく分からないけど、絶対ママが正しいよ。


だってそのシゲって人、凄くバカっぽいんだよ?

それに、ママが間違ってるわけないし。


美味しいご飯をくれるママが間違ってることなんて、あり得ないんだ。


ママの周りには、変な人ばかりいるんだ。


シゲって人もそうだし、ツネって人も、いつもうるさいんだ。


ツッコミっていうらしいんだけど、いつも人の揚げ足ばかり取るんだ。


それでツネって人は、いつもアカって人に殴られてるんだ。


ママも、そのアカって人には頭があがらないみたい。


ママが本気を出せば、そのアカって人にも勝てるのに、なんでだろう?


なんて言ってるけど、実はボクも、ちょっとだけそのアカって人は怖いんだ。

ママの影響なのかな?

絶対に逆らっちゃいけない、そんな気がするんだ。


多分これが、本能ってやつなんだね。


きっとあのアカって人には、ママでも勝てない何かがあるんだね、きっと。

ボクも生まれたら、アカって人には逆らわないことにするよ。


あ、生まれるといえば・・・・


この話、内緒にできる?


ボクは今、ママの卵の中にいるんだ。

ママは毎日、「早く生まれてきて」って優しい声でボクに語り掛けてくれる。

ボク、そんな時間が大好きなんだ。


・・・どうしよう。

ママの友達のシゲって人みたいに脱線しちゃった。


あの人と同じなの、なんだか嫌だな。

ママのお友達だから、悪い人じゃないのは確かなんだけど。

ボクよりも仲が良いみたいだから、妬けちゃうんだよね。


・・・・あぁ、また脱線しちゃった。


話を戻さないとね。


えっと、なんだったっけ?

そうそう。ボクは今、卵の中にいるって話だったよね。


でもね、本当はもう、いつでも生まれることができるんだ。

じゃぁなんで卵から出ないのかって?


だって、普通に生まれるんじゃ面白くないでしょ?


ママがピンチの時に突然生まれて、ママを救いたいんだよ。


これ、「ハクバのオウジサマ」って言うんでしょ?

ママが時々マンガってやつを読みながら、「おぉ、かっこいい」って1人でつぶやいてるから、ママはきっと「ハクバのオウジサマ」に助けてもらいたいんだと思うんだ。


だからボクは、ママがピンチになるのをずぅ~っと待っていたんだ。


でも、ママって強いから、全然ピンチにならないの。

おかげでボク、完全にタイミングを逃しちゃった。


結局ボクは、今の今までずっと卵のままだったんだ。


でも、遂にチャンスが来たんだ。


ママの師匠の1人であるノリってドクシンキョウシが、ママに牙をむいたんだ。


あの人、多分今のママよりは強いんだ。

だから、これってママのピンチだよね?


ボク、やっとママと会えるんだ!


ママ、今行くからねっ!!

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