第413話:光移 志動
「もう、この辺でやめませんか」
そんな聡太の言葉に、これまで笑みが張り付けられていた顔が、怒りの形相に上書きされた。
「クソがぁっ!!私が、忍者部で和気あいあいと楽しんでいるようなお前なんかに負けるわけがないんだ!」
そう叫んだドウは、空間移動を使うことなく聡太へと飛びかかった。
「・・・・・・」
聡太は、向かってくるドウの拳を、ただ無言で正面からその体で受けた。
「なっ・・・」
全力で体の力を込めたドウの拳が聡太の腹に直撃するも、聡太は微動だにせずドウをじっと見つめ、その視線にドウは声を漏らした。
「認めないっ!私は認めない!!お前達のようなおともだち集団のような忍者、私は認めないっ!!
お前達忍者が、私にした仕打ちを、私は決して忘れないっ!」
そう言いながら聡太を殴り続けるドウに、聡太は悲しげな瞳を向け、自身の拳を振るった。
「がっ・・・」
聡太の拳を腹に受けたドウは、その力に膝を付きながらも、聡太を睨みあげた。
「ごめんなさい。今のぼくの力は、確かにぼくだけのものではありません。だけど、ぼくらだって別にただ遊んでいるわけじゃないんです。
ぼくらなりに、精一杯頑張ってるんです。
あなたに何があったのかはわからないけど、でも、そんなに凄い力があるんだから、もっと、他に方法があるんじゃないですか?」
そんな聡太の言葉にドウは、
「な、なにも、知らないくせに・・・」
そう言いながら倒れ込み、
「でも、もしも私があなた方と同じ中学にいたならば・・・こんなことにはなっていなかったのかも、しれません、ね」
そう呟いて、その意識を闇へと落とした。
甲賀ドウ、本名
彼自身が、社会科研究部に興味があったわけではなかった。彼は親友2人と一緒であればどの部活でも良いと考えていたのだ。
光移少年は、その日のうちに親友2人と忍者部に入部することとなった。
そして、捨て忍の烙印をおされた。
しかし、話はそれだけでは終わらなかった。
そのままその記憶を失った彼を、親友2人は突如として蔑むようになった。
記憶を失った光移にとって、それはあまりにも突然の出来事であり、なんの理由もわからないことであった。
しかもそれは、親友2人に留まらず、見知らぬ先輩達にまで及んでいた。
それが彼の忍者としての契約の際にその場にいた忍者部の先輩であることは、もちろん記憶を失くした彼が知る由もなかった。
理由もなく向けられる蔑みに、光移少年は必死に耐えていた。
本来であれば相談に乗ってくれるはずの親友が、その原因だったにも関わらず、だ。
しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。
光移少年に対する親友達の扱いは、やがてクラスにも伝染した。
光移少年のクラスメイト達は、面白半分で彼を馬鹿にし始めた。
それはもう、イジメとなっていた。
そして、光移少年は遂にその心が折れた。
不登校となった少年の前に、ある日厳つい老人が現れた。
全てに無気力になっていた少年は、それでも誰かに縋りたい一心で老人の言葉に従い、再び忍者としての契約を行い、そして、現在に至るのである。
そんな彼ももちろん、忍者に対しては憎悪を抱いており、ゴウの弟子となった彼が
本来ならば親友達にも復讐をと考えていたドウであったが、師となったゴウの必死の説得により、それだけは未だ叶ってはいない彼の悲しい野望となっているのである。
そんなドウが敗れたことを察知したゴウは、
「ほう。ドウも敗れたか。やはりお前達2中の生徒は、才能に溢れたものが多いようだな」
そう呟きながら悲しげな笑みを重清へと向けた。
「確かに。おれの周りは才能の塊みたいな連中ばっかりだね」
重清が強く頷きながらゴウへと返していると、
「あぁっ。もう!しつこいっ!あんたのその術、しつこいのよっ!」
そう言いながら、琴音が重清達の近くへと着地した。
「しつこくて結構!私は、あなたに勝つために修行を積んだのよ!あなたへの恐怖を、乗り越えるために!」
琴音の後を追うようにやってきた美影が、琴音へと叫んでいた。
そんな美影を見つめていたゴウは、フッと笑みを漏らした。
「な、何が面白いのよっ!?」
自身に向けられた笑みを蔑みのそれと勘違いした美影は、ゴウを睨みつけた。
「いや、なに。別に馬鹿にしたわけではない。ただ、父によく似ていると、そう思っただけだ」
「父・・・あなた、お父様を知っているの!?」
琴音との戦闘も忘れ、美影はゴウへとその視線を集中させた。
「昔、一度手合わせをしたことがある。
お前の父が死んだ、その日にな」
その言葉を聞いた美影は、我を忘れてゴウへと迫った。
「美影、だめだっ!!」
重清の叫びが、あたりに響き渡った。
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