第396話:当主押し付け、もとい当主争奪戦 決着

「ドカンっ!」

重清の声とともに、忍力の塊が浩へと向かっていった。


(これは・・・まずいな)

向かってくる忍力の塊を見た浩は、すぐにその場から離れた。


しかし忍力の塊は、方向を変えて浩を追い始める。


(やはり、追ってくるか。だったら!)

浩は剣を、大忍弾の術に向かって投げつけた。


百発百中の術


技の力を得意とする雑賀家、その本家が専有する術である。

目標をどこまでも追うことのできるこの術であるが、その真髄は別のところにある。


この術、目標以外に干渉されることなく対象外ののも全てをすり抜けることが可能なのである。


とはいえそれは、あくまでも練度を高めることができていればの話。


『百発百中の術』と契約して間もない重清が、それ程の練度に至っているはずもなく。


浩の剣は、当たり前のように重清の放った忍力の塊とぶつかり、


『ガキィン』


弾かれた。


「なに!?」

剣を弾いた忍力の塊は、なおも悠然と浩へと進んでいた。


(俺の剣を弾いた?それほど忍力濃度?だったら・・・)

浩は3振りの剣を具現化させると、それぞれに忍力を込めた。


火、土、金


浩の持つ3つの忍力が、それぞれ赤、黄、白く剣を包みこんでいった。


「行けっ!」

浩の言葉に合わせて、3振りの剣が重清の大忍弾の術へと飛ぶ。


『『『ガキィン』』』


先ほどと同じく弾かれる3振りの剣を見た浩は、小さく舌打ちをした。


(あれでもダメか。重清め、俺よりも忍力の許容量が多いな。

それにしても・・・さて、これは困ったな)

心の中で困ったと言いながらも、浩の口角は僅かながら上がっていた。


(『中学生相手に術は使わない』なんて、言わなければよかったな)

後悔しながらも浩は、再び3振りの剣を具現化すると、その剣先を迫りくる忍力の塊へと向けた。


(火砲の術、岩砲の術、金砲の術)


浩が3つの術を同時に発動すると、3振りの剣の先からそれぞれ、火、岩、金属の砲弾がいくつも発射され、重清の大忍弾の術へとぶつかっていった。


するとそれまで全く動きを緩めることのなかった忍力の塊は、少しずつその動きを弱めていった。


(まだだ。まだこちらに近づいてきている。くっ、止められないか。いや・・・)

3振りの剣に忍力を込めて砲弾を打ち続けながら、浩は大忍弾の術を見つめた。


(初めよりも小さくなっている。いける。このまま撃ち続ければ、いつかは消滅させられる)

浩はさらに剣へと忍力を込めて、砲弾を撃ち続けた。


大忍弾の術は、3つの忍力の砲弾を受けて徐々に小さくなりながらも、徐々に浩へと迫っていった。


そして。


ピンポン弾程のサイズにまで小さくなった忍力の塊が、浩の目前に迫っていた。


「くっ!」

浩は剣に手をかざすと、3振りの剣は忍力となり、浩の拳へと集まっていった。

そして3色の忍力を纏った浩の拳が、小さな忍力の塊へとぶつかった。


忍力同士のぶつかり合いに、小さな爆発が起きた。


立ち込める土煙の中から、浩が姿を現した。


拳から僅かな血を流しながらも、ほとんど無傷の浩は肩で息をしながら、その場に佇んでいた。


「へっへっへ〜。俺の勝ちかな、浩兄ちゃん」

そんな浩にいつの間にかマキネッタを突きつけた重清が、浩の隣で笑っていた。


「なんて、ね」

重清はそう言って、そのままその場に尻餅をついた。


「もう無理。『大忍弾の術』2回も使って、忍力ほとんど残ってないや。

浩兄ちゃん、おれの負―――」

「まいった。俺の負けだ、重清」

重清の言葉を遮って、浩は両手を上げた。


「あっ、そこまでっ!!」


義理の娘達に乗せられて、いつの間にか運動会気分に浸っていた雅が慌てて声を上げていた。


「浩兄ちゃん、なんで・・・」

尻餅をついたまま、重清は浩を見上げていた。


重清の前にドサッと腰を下ろした浩は、拳の血を拭いながら重清に笑いかけた。


「俺も、重清程じゃないが忍力が底をつきかけている。

そもそも、俺は大人だぞ?それなのにここまで追い込まれて、負けを認めない訳にはいかないじゃないか」

額に汗を浮かべながら笑う浩に重清は、


「でも、浩兄ちゃん。当主になりたかったんじゃないの?」

そう、浩へと問いかけた。


「なんだ、公弘からでも聞いたのか?

言っておくけどな、別に当主になんかなりたかったわけじゃない。

ただ、俺はお前達よりも年上だからな。俺がならないといけないって、思っていただけだ」

浩はそう答えて、未だにレジャーシートに座って缶ビールを嗜む公弘と裕二に目を向けた。


「重清も、それから公弘と裕二も。3人の強さはよく分かった。お前らなら、俺なんかよりも立派な当主になれると確信できた。だったら、俺が当主になる必要なんて、ないだろ?」

浩はそう言って、心から笑っていた。


責任感の強い浩は、当主にならなければいけないと、ずっと考えていた。

しかし本心では彼も、そんな面倒はゴメンだと思っていたのである。


「それにしても重清、強くなったな。いくらじいちゃんの作ったカリキュラムとはいえ、そこまて強くなっているなんて驚いたよ」

「いや、おれ何故か、変な人たちに襲われたりしてるからね。その人達に勝つためにも、一応頑張ってたから」


「変な人達って。なんだそれ」

そう言って笑う浩に、


「ホントなんだけどなぁ」

重清もそう呟きながら、浩につられて笑っていた。


「・・・オイラはいつまでマキネッタのまんまなんだ?」

プレッソのそんな言葉は、2人の笑い声にかき消されるのであった。

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