第192話:横やり

「充希!余計な手出しはしないでっ!」

重清の弾丸の術をその身に受けた美影は、膝をついたまま離れた充希を睨んでいた。


「し、しかし姉上っ!その末席は、こともあろうか姉上を傷物にっ!!」

「いや傷物て」

すかさず入る重清のつっこみを無視して、美影は充希に、


「い、今のはちょっと油断しただけよ!いいからあなたは、そこで黙って見ていなさい!」

焦ったように怒鳴り返していた。


「うぐっ」

大好きな姉に怒鳴られた充希がうなだれる。


姉にまともに叱らたことの無かった充希にとって、美影から怒鳴られるなど初めての経験なのであった。


そんな充希へと、近づいてくる者がいた。


「いやいやいや。雑賀本家ってのは、正々堂々戦うこともされないんですか?」

充希の耳にそんな声が聞こえてきた。


「お、お前は確か、伊賀家の末席!」

充希は、そう言って目の前の恒久を睨んだ。


「いや、まぁ確かに末席ですけど。でも伊賀家じゃ、あんな卑怯なことは教えてもらってないんですよね〜。是非とも伊賀家の末席に、そのへんの所教えていただけないですかね?」

そう言って恒久はニヤリと笑った。


もう、どちらが悪者なのかわからないのである。


「くっ、貴様、言わせておけばフザけたことをっ!」

そのまま恒久に掴みかかろうとする充希を、慌てて駆け寄ってきたソウが遮った。


「す、すみません充希様。この人、口はこんなだけど悪い人じゃないんです!

ツネもほら、ちゃんと謝って!」

「いやソウ、何で俺が謝らないと――――」


「ツネっ!!」

「うっ。す、すみませんでした、生意気なこと言って」

恒久は、ソウの剣幕に押し負けて渋々充希に頭を下げた。


「ふん。生意気な口を聞いたのは許してあげる。けど、雑賀家を馬鹿にしたことは許せないよ。だからこうしよう。君達も、僕と手合わせしてもらえないかな?

流石に、姉上の邪魔をしたのは反省してる、っていうか、あんなに怒られたの初めてだし・・・」

そう言って今にも泣きそうな充希に、ソウが声をかけた。


「あの、よろしければこちらも、美影様達のように1対1でやりませんか?」

「へぇ。まさか君、1人で僕に勝てると思ってるの?」


「あ、いえ、そうではないんです。ただ、どうせだったら充希様の実力を1人で体験してみたいと思いまして・・・」

「ふ〜ん。まぁいいか。おいクル!お前も来い!ちょうどこいつらは2人いるから、どっちかの相手をしてやれよ!」


「は、はいっ!」

そう返事をした隠は、ずっと抱いていた犬のヌイグルミを近くの木の根本へと置き、充希の側へと駆け寄った。


「で、どっちが僕の相手をしてくれるんだい?君かい?それともそっちの伊賀の末席かな?」

「あぁ、もちろん―――」

そう言って恒久が一歩前に出るのと同時に、


「充希様の相手は、アカが務めさせていただきます」

ソウは恒久を片手で制して、充希に告げた。


「「はぁっ!?」」

ソウの言葉に、恒久だけでなくアカもまた、少し離れた場所で声を上げていた。


そしてそのままアカが駆け寄って来たのを見計らって、

「すみません、ちょっとタイムで!」

充希にそう言って、ソウは恒久とアカを充希と隠から少し離れた場所へと呼び出した。


「おいソウ!なんで俺にやらせねーんだよっ!」

「ちょっとソウ!なんでわたしがあいつとやらないきゃいけないのよっ!」


2人が、ソウへと詰めよった。


「ホントは、僕がやろうと思ってたんだけどね。僕も、あの人達の言動には少なからず苛ついてるから。でも、あの隠って人が出てきちゃったから、あの充希って人をアカにお願いしたいんだ」


「だから、なんで俺に―――」

「ツネ、ちゃんと話すから聞いて」

「お、おう」

真剣な眼差しを向けてくるソウに、恒久は言葉を止めて頷いた。

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