第391話:当主押し付け、もとい当主争奪戦 その4
「裕二兄ちゃん、負けちゃったね」
自身のすぐ側に着地した公弘からボロボロのプレッソを受け取った重清は、公弘へと声をかけた。
「にしてもプレッソ、ボロボロじゃん」
重清は抱えたプレッソに笑いかけた。
「
プレッソは、重清を見上げて言い返した。
「いや、別に無視されたのおれのせいじゃないし」
重清はそう言いながらプレッソの具現化を解除し、すぐにその場に具現化した。
「はいはい、今は
公弘は、そんな2人に優しく声をかけるのであった。
「兄さん、悪い。どうやら『弱化の術』が解かれたみたいだ」
「公弘の動きで分かったよ。裕二の仕業だ」
太の言葉に、浩はレジャーシートで缶ビールを嗜む裕二に目を向けながらそう返した。
「待って、浩兄さん。私、そんなに忍力の感知得意じゃないけど、あの時裕二さん、術なんて使ってなかったわよ?」
麻耶は不思議そうに浩に目を向けた。
「あぁ。おそらく裕二はあの時、公弘に太の術に対抗する術を、教えたんだ」
「『修学旅行の夜の術』ぅ!?」
重清の間抜けな声に、公弘は優しく頷いた。
「そ。名前から分かるように、『修学旅行の夜の術』は裕二の作った術だ」
「裕二兄ちゃんの術、大体どんな術か名前で分かるのに、その術さっぱり意味分かんない」
「そうか?俺はわかりやすいと思ったんだけどな」
公弘は苦笑いを浮かべながら、『修学旅行の夜の術』の説明を始めた。
修学旅行を知る男子諸君には、経験がないだろうか。
修学旅行の夜、それは見回りの教師達の目を掻い潜りながら繰り広げられる、
『修学旅行の夜の術』
それは、特定の人物と内緒話ができる術なのだ。
「あ〜」
公弘の説明を聞いた重清は、小学生の頃、親友の聡太に田中琴音が好きである事を伝えた修学旅行の夜を思い出して納得したように頷いていた。
「でも、それで太兄ちゃんの術をどうやって?」
「いや、『修学旅行の夜の術』自体には太さんの術を解除する力は無いんだけどな」
公弘は重清にそう言って笑った。
「おそらく裕二はあの一瞬で、何某かの方法を使って公弘に太の術を破る方法を伝えたんだ。多分あれは、『幻破りの術』だな」
伊賀家固有忍術である『
その昔は伊賀家固有忍術であった『幻破りの術』は、『幻滅の術』が作られたことにより伊賀家より協会に払い下げられた忍術なのである。
「確か『幻破りの術』は協会が管理していて、力の配分さえ分かっていれば誰でもすぐに契約できる術のはずだからな」
「でも、あんな一瞬でどうやって・・・あの結界の外からは、どんな術も通らないんじゃなかったの?」
浩の説明に、麻耶は不服そうにそう呟きながら公弘に目を向けていた。
「公弘だからな。公弘なら、あの一瞬で伝えられた情報だけでも、『幻破りの術』との契約ならできるはずた。あいつ、理解力半端ないからな」
浩は麻耶へと答えながら、笑っていた。
「浩兄さん、何でそんなに楽しそうなのよ」
「だって、面白いじゃないか。おそらく公弘は、俺達が最初に裕二を狙うことに感づいて、この作戦に出たんだろう。
ま、どうせ次は公弘を狙うんだ。少しくらいあいつらに良い思いをさせても問題はないさ」
浩はそう言いながら、太へと目を向けた。
「太。『弱化の術』は、ここぞって時までとっておいてくれ。今使っても、すぐに公弘に邪魔されちまうからな」
「それはいいけど・・・ここぞって時って、いつ?」
「麻耶、すまないが少し、1人で重清とあいつの具現獣、プレッソ、だったか?その2人の相手をしてくれ。俺とチュウで、まず公弘を叩く。
太は、タイミングを見て公弘に『弱化の術』を頼む」
「わかった!」
「あぁ〜。ここぞって時は、俺判断なわけね」
麻耶の元気な声と、太の気のない返事を聞いた浩は、2人に笑いかけると真剣な眼差しで公弘達を見つめた。
「さて、さっさと終わらせようぜ」
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