第390話:当主押し付け、もとい当主争奪戦 その3

「心の力で作ってる術ってことは・・・さすが俺の武具、ちゃんと分かってるじゃん」

裕二は1人ブツブツと呟きながら、武具を目の前へと掲げた。


裕二の武具であるこの本、重清に説明されたとおりこれまで裕二が出会い、そして分析してきた術の全てがその中に記録されている。


本に記録された術は、あくまでも裕二が力の配分を分析した結果を記録しているだけである。

裕二の飛び抜けた分析力により、記録された術のほとんどの力の配分は正確であるのだが、それだけなのだ。


記録された術の全てを思いのままに扱えるわけでもなく、ただ力の配分を記録しているその本。


多くの者にとっては、ほとんど意味のないこの能力なのだが、持ち主は雑賀雅の才能を受け継ぐ、雑賀裕二なのだ。


裕二はその才能を活かし、これまでいくつもの術を作り上げてきた。


そこには、この本の能力は無くてはならないものであった。


どのような術を作りたいか、裕二が頭に思い浮かべるとすぐにこの本から裕二へと、その術に近い術の力の配分の情報が流れてくる。


たったそれだけのことではあるが、裕二にとっては非常にありがたい能力なのである。


裕二は語る。


「他の術を調べることに頭を使うくらいなら、どんな配分で術を作り上げるかに使いたい。その点で、この本は紛れもなく俺の相棒なわけだ」


と。


しかし術作りの才能がある裕二においても、戦闘中に術を作ることは不可能なのだ。


雅であれば、相手が平八でない限り、戦闘中に術を作ることができる。

それは、雅にそれほどの力があるからなのだ。


術作りの才能を雅から受け継いだ裕二には、それ程の力はなかった。


しかし裕二の武具には、それをカバーできるもう1つの力があった。


これまでに裕二は、解析した術のうちいくつかとは契約にまでこぎつけている。

そしてその術もまた、武具には記録されている。


武具はこれらの術を、相手の術や力に応じて選び出し、裕二に共有することができるのだ。


あくまでも裕二の思考の範囲を出ることはない武具ではあるが、解析に長ける裕二が使うことによって、その力は他の者が使うよりも効果を発揮する。


そしていままさに裕二は、太の術を受け、そしてその解析を終わらせるとともに、武具からの対抗策に頷いていた。


「麻耶!早く裕二を倒すぞっ!」

ニヤリと笑う裕二に目を向けながら、浩は麻耶へと叫びつつ裕二に向かって走り出した。


「くぅっ!」

瞬時にして裕二の元へと辿り着いた浩の剣が裕二を捉え、声を漏らしながら裕二は吹き飛んだ。


「裕二さん、失礼しますっ!」

吹き飛んだ先の麻耶はそう言いながら裕二の腕を掴むと、そのままグルグルと裕二を振り回し、結界に向けて投げつけた。


「兄さん、あとは頼んだよ〜」

裕二はその言葉を残して結界にぶつかり、その瞬間その場から姿を消した。



「いや〜、平太伯父。麻耶ちゃん、強くなったね〜」

結界に触れた直後、外野のレジャーシートの隅へと落ちてきた裕二は、近くの缶ビールに手を伸ばしながら平太へと笑いかけた。


「だろう?それに、浩の判断力も、太の術もなかなかだろ?こりゃ、お前達に勝ち目はないな」

娘を褒められた平太親バカは、満面の笑みを裕二へと返した。


「いや〜、残念だけど、太さんの術はもう、効かないぜ?」

「いやいや、裕二は何もできなかったじゃないか。負け惜しみは良くないぞ?」


「ま、見てなって」

豪快に笑いながら焼酎を飲んで笑う平太に、裕二は缶ビールに口をつけて小さくそう答えるのであった。



「よし、1番厄介な裕二はリタイアだ!

太の術が効いている間に、このまま終わらせるぞ!」

結界に触れて姿を消した裕二を確認した浩は、麻耶へと声をかけながら公弘へと向かった。


「浩さん、ウチの弟を甘く見ないで欲しいですね」

「っ!?ちぃっ!」

公弘が笑ってそう言っている間に、浩は公弘から出る忍力を感じ、舌打ちをしながらも公弘へと剣を投げつけた。


「おっと」

公弘はその剣を避け、そのまま高く飛び上がった。



公弘の頭上では、太の術によって動きの鈍くなっていたプレッソが、麻耶の具現獣、チュウの『岩針の術』を受けてボロボロになっていた。


公弘は即座に鞭でチュウを掴むと、そのまま麻耶へと向かってチュウを投げつけ、プレッソを連れて重清の元へと着地した。


「裕二のやつ、やってくれたな」

重清の元へと降り立った公弘を見つめながら、浩は小さく笑っていた。

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