第449話:カーちゃんの本音

「あぁもう!!結局こうなるのかよっ!!」

重清は叫びながら、允行を見ていた。


「シゲ、どうする!?」

聡太は身構えながらも、重清へと話しかけた。


「こうなったらやるしかない!みんな、あの人、ばあちゃんの攻撃も受け止めてたから!全力でいかないとマジでヤバいよ!」

「あの化け物ババアよりも強いのかよっ!」

重清の声に言い返しながら、恒久は忍力を放出した。


「でもぼく達には、この子達と、本家に伝わる忍術がある!忍者の力を、あの人に見せてやろうよ!」

聡太はそう言いながら青龍ブルーメの頭を撫で、


(『獣装じゅうそうの術』っ!!)

術を発動して青龍をその身に纏った。


甲賀ドウとの戦闘とは比べ物にならない程の忍力が、聡太から放出された。


「へっ。これが始祖が作った忍術の力ってか」

恒久はそう呟きながら、チラリと近藤に目を向けた。


「まさか、あれを俺とやろうってんじゃないだろうな」

近藤は苦々しい表情を恒久へと返していた。


「俺だってお前と合体なんてゴメンだよ!いいか近藤!足だけは引っ張んなよ!」

「クソガキが!誰に言ってんだよっ!」

そう言い合いながら允行へと向かおうとする2人を足蹴にして、茜が飛び出した。


「流石は次期忍者部部長っ!良いこと言うじゃない!

だったら先手は、わたしが行くわっ!」

聡太にそう言いながら茜は、独り允行へと走り出した。


「ハニーっ!1人じゃ危ないぜ!俺を使ってくれっ!」

「うっさい!あんたなんかに頼ってたまるもんですか!!」

茜は朱雀カーちゃんに叫び返しながら、


「『火鎧かがいの術』っ!『火拳かけんの術』っ!!」

2つの術を発動してその体に炎を纏った。


「はぁーーーっ!」

そのまま振り上げた拳を、茜は允行へと叩き込んだ。


しかし允行は、それをふわりと避け、


「その年にして素晴らしい体の力だが・・・全て攻撃に向けては意味がないな」

そう言って茜を蹴り上げた。


優しく、撫でるような蹴りにも関わらず、茜は強い衝撃を受けて上空へと吹き飛んだ。


「カールァーーーッ!」

微秒な鳴き声とともに茜を追うように待っていたカーちゃんは、空で茜を掴んで允行から離れた。


「ハニー!1人じゃ危ないぜ!」

「うるさいっ!あんた気持ち悪いのよっ!」

茜は叫び返しながら、カーちゃんを見上げて睨みつけた。


(アカ、カーちゃんの言うとおり、1人じゃ危険だよ。

それにアカの体の力は攻撃には向いてるけど、その分スピードが出ない。カーちゃんの力を借りなきゃ!)

そんな茜の頭に、聡太の声が響いた。


茜立ち寄りも更に上空で允行の様子を伺っていた聡太は、全身を緑色の鱗に覆われ、大きな龍の翼翼をはためかせながらスマホレーダーの力の1つ、『通信』によって茜へと語りかけていた。


「くっ・・・」

聡太の言葉に、茜は苦虫を噛み潰したような表情で允行を見つめていた。


允行の言った言葉、そして聡太の言うことは茜も理解はしていた。


雅との修行によって茜は、忍者の基礎的な力とも呼ばれる心・技・体の力の扱いについてはかなり練度が高まっている。


今の茜であれば、体の力に忍力を上乗せしてかなりの力を出すことができるだけでなく、その力をスピードに回して相手を撹乱しながらの戦闘も不可能ではない。


並の忍者でも手こずる程の力を、茜は既に手にしている。


しかし今、彼女達が相手にしようとしているのは並の忍者ではない。


彼女の師である雑賀雅の攻撃すらも簡単にいなす程の力を持った允行が相手なのだ。


しかもその允行は、美影をボロボロになるまで痛めつけ、更には自身に協力した琴音すらも無慈悲に眠らせた。


その光景が茜の心に影を落とし、ただ一心に攻撃だけに注力させたのだ。


だが、茜が1人で允行へと向かったのはそれだけが理由ではない。

新たに茜の具現獣となったカーちゃんに対する、絶対的な生理的嫌悪感が、茜にはしつこく付きまとっていた。


その生理的嫌悪感が、茜の判断を鈍らせていたのである。


内心では聡太の忠告を理解しつつも、茜はカーちゃんに協力を仰ぐことに躊躇いがあった。


そんな茜の心情を察したのか、カーちゃんは炎に包まれた顔に苦笑いを浮かべた。


「聞いてくれ、

カーちゃんは茜へと語りかけた。


「あいつは、琴音に手を出した。

それにあの美影って娘にもだ。

俺は、女に手を出す男が許せない。それが、俺のハニーである琴音だったら尚更だ!

頼む茜、俺にもあいつを倒すの、手伝わせてくれ!!」


「・・・・・・・」


カーちゃんの言葉を聞いた茜は、小さく笑みを浮かべた。


それは、自身に対する嘲笑的な笑みであった。


「あんた、意外と男らしいとこあるじゃない。

わたしとしたことが、あんたのこと表面上だけで判断していたわ」

そう言って向けられる笑みに、カーちゃんは小さく笑って頷き返した。

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