第242話:モテない男達

「いい加減にしろ!どいつもこいつもショウ、翔、翔!!なんでみんな、俺を見ないんだよ!!」

恒久の胸ぐらを掴んだまま、近藤が叫ぶ。


「俺の方がアイツよりも、頭は良い!見た目も良い!それに今は力だってある!!リーダーシップだってある!!

俺の方が、もっとモテていいはずなんだよっ!

なんで俺は、モテないんだよっ!!!」


そんな近藤の心からの叫びに、胸ぐらを掴まれながらも恒久は、じっと近藤を見つめていた。


「それなのに、女子はみんな翔を見る!

男子は、俺を哀れんだ目で見る!今のお前のように―――ってなんだ!お前のその目は!?」

言いながら恒久を睨んだ近藤が、驚きの声が発せられた。


確かに恒久は、近藤を見つめていた。


しかしその目に宿るのは哀れみなどではなかった。

涙すら浮べて近藤に向けられた恒久の目にあるのは・・・


「わかる!あんたの言うこと、スゲーわかるよ!!」


そう、親近感であった。


近藤のように特定の誰かと比べられているわけではない恒久ではあったが、それでも近藤の叫びは恒久の胸へとスッと染み込んできたのだ。


特に、『なんで俺は、モテないんだよ!』のあたりが。


恒久も、見た目は決して悪くない。

むしろ、見た目だけは2中忍者部男子においてショウとタメをはるくらいなのだ。


もちろん、タイプは全く違うのだが。


そんな見た目の恒久が、何故モテないのか。

それはひとえに、彼の持ち前のむっつりが原因なのだ。


恒久の見た目に、大抵の女子はまず彼に対して好感を持つ。

しかし初対面の相手には若干の距離を置く恒久は、普段はぶっきらぼうな性格をしている。


だがそんな様子も、見た目の良さから『硬派なイケメン』という印象へと書き換えられる。

さらに、仲の良い友人達とは明るく話し、しかも切れのあるつっこみまで披露している恒久の様子に、女子の恒久に対する好感度は、バク上がりする。


この時点における、恒久に対する女子の評価は、普段のショウにも勝る勢いなのだ。


しかし、そこまでなのだ。


恒久へ恋心を抱いた多くの女子のうち、一部は勇気を出して彼へと近づいた。


そして、彼女達は気付いてしまう。


自身へと向けられる、言いようのない不快な視線に。


何気ない会話の中に織り交ぜられる、恒久の無意識下でのイヤやしい視線に。


恒久は、決して彼女達に、わざとイヤらしい視線を送るのではない。


むっつりであるがゆえに、頭ではそんなことはしてはいけないと分かってはいるのだ。

それでも彼は、イヤらしい視線を送ってしまう。


それが、彼にとっては命取りであった。


イヤらしい視線を送られた彼女達は、少しずつ、恒久と距離を置くようになる。


女子中学生にイヤらしい視線は、ダメなのである。


そして彼女達は、友人達に恒久から送られる視線について報告をする。


女子ネットワークというものは、ネット社会である現代においても、そのスピードはこの世のどんなものよりも広く広大で、そして速いのだ。


おそらく、7Gくらいはあるのだ。


結果として恒久は、『むっつり』の烙印を瞬く間に忍ヶ丘市全中学校へと、本人の知らぬ間に広げられることとなった。


ここまでの期間、およそ1週間である。

ちなみにそのうちの6日は、恒久へ女子が近づくまでの期間である。


女子ネットワークの恐ろしさ、もとい、広大さとスピードが、お分かりいただけるだろう。


かくして恒久は、女子から全くモテないイケメンとなった。


そんな恒久だからこそ、近藤の言うことが良くわかったのだ。


それ故の、近藤への親近感なのである。


とはいえ、女子ネットワークとは違い、男子ネットワークというものは速くも広大でもない。


おそらく、糸電話の精度くらいなのだ。


そのため近藤は、そんな恒久の辛さなど知る由もなく、恒久の視線にただ狼狽えているのであった。


「お前に何が分かるんだよ!!」

近藤は、そう言って恒久を殴りつけた。


殴られた恒久は、口から血を流しながらも近藤をじっと見据えていた。


「いや、俺には分かるね!俺だって、全くモテないからなぁ!!」

恒久は、自信たっぷりに近藤に言い放った。


ちなみに、近藤自身はモテないと言っているが、それはショウと比べて、というだけであり、実際には全くモテていない訳ではない。


そこに若干の引っ掛かりを感じつつも、近藤も何故か、目の前の少年に親近感を感じ始めていたのであった。


「「・・・・・・・・」」


恒久と近藤が、何も言わず互いににらみ合っていると。


「みんな、無事かい!?」

雑賀雅が、その場へと現れた。

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