第243話:お年寄りたちの登場

「あららぁ〜、雑賀雅来ちゃったねぇ〜」

雅の登場に、ユキが呑気に笑っていた。


(いやいやぁ〜、これはまずいよぉ〜。ドウ、ちょっと遊びすぎだよぉ〜)


そんなユキの心中は、意外と焦りに焦っていたりするのだが。


「重清っ、大丈夫かい!?」

そんな中雅は、髪を焦がして絶賛気絶中の重清へと声をかけた。


「雅さん!シゲ、完全にのびちゃってます!!」

雅の声に答えられるわけもない重清に代わり、聡太が雅へと返事をした。


「・・・・あんた達、ウチの孫が世話になったみたいだねぇ」

聡太の声を聞いた雅が、怒りの表情で言うと、


「「「ひぃっ!!」」」


ゴロウに敗れて膝をついているドウ、琴音を担いでいるユキ、そして恒久の胸ぐらを掴んだままの近藤が、揃って声を上げていた。


「あんた達にはその目的も含めて、たぁ〜っぷりと話を聞かせてもらおうかねぇ」

そう言いながら雅は、琴音を担いだままのユキの元へと向かいながら拳を振り下ろした。


その時。


「まったくお前らは。儂が来なければどうなっていたことやら・・・・」

突然現れて雅の拳を額で受け止める屈強な老人が、雅を見つめながら言った。


「お、親父ぃ・・・」

ユキが、現れた老人に目を向けながら返した。


「おや、あたしの拳を難なく受け止めるとは、なかなかやるじゃないか」

雅が、痛む拳を擦りながら老人へと笑いかけた。


「ふむ。噂に違わぬ美しさですな、雑賀雅殿。儂があと20も若ければ、交際を申し込みたいところですな」

「ふん。それなら、あたしが20歳若くなる方がありがたいがね。どっちにしても、あたしの隣は今も生まれ変わっても、ある男が全て予約していてね」


「相変わらず、仲がよろしいようで」

「・・・あんた、あの人の事知ってるのかい?」


「ノーコメント、ですな。それよりも、我々はそろそろお暇させていただきますぞ」

「あたしが、させるとでも?」

雅がそう言うと、突然老人の体をいくつもの鎖が拘束し始めた。


老人はそれを少しも気にした様子もなく、大声をあげる。


「ドウ!ボケっとしとらんで皆を回収せい!!」



「・・・あぁ言われているのですが、よろしいですか?」

老人の声を聞いたドウは、そう言って対峙するゴロウへと笑いかけた。


「ふむ。雅ちゃんが来たなら、儂は手を出すまい。好きにせい」

「では、今日のところは失礼致します」

ゴロウの言葉に、ドウは微笑み返してその場から姿を消し、直後には近藤の元へと現れる。


「ちっ。じゃぁな」

近藤は恒久の胸ぐらから手を離す。


「お、おいっ!」

恒久が近藤に声をかけようとする間もなく、ドウに触れた近藤は、ドウ共々スッと姿を消した。


「・・・・・・・」

恒久は、ただ無言で口から垂れる血を拭っていた。



「親父殿。全員集めました」

ユキの元へと現れたドウが、鎖で繋がれたままの老人へと声をかけた。


「あんた達。逃げる気満々みたいだけど、この爺さんは置いて行くのかい?」

そう言って笑う雅に、老人が口を開いた。


「心配なさるな。このくらいで、儂は止められませんので」

老人の言葉と共に、その身を繋いでいた鎖が一瞬にして砕け散り、霧散した。


「ほぉ、なかなかやるじゃないかっ!!」

そう言いながら老人から距離をとり、雅は水と火、それぞれで出来た槍を出現させ、老人へと放った。


しかし老人は、身動き1つせず2つの槍をその身に受けた。

老人へと突き刺さるかに思われた槍は、老人に触れると同時にそのまま霧散し、消滅した。


「なに?」

その様子を見ていた雅は、そう声を漏らしていた。


「あんた、珍しい術を持っているみたいだねぇ」

「いやいや、術などという大層なもんではありませんわ。ただ少し、この身が無敵というだけでしてな」


「何を馬鹿なと言いたいところだが、あたしの術を防がれたのを見ちまったら、簡単に否定もできないねぇ」

雅は、そう言って笑っていた。


「というわけで、我々はこの辺で失礼します」

「まぁ、出来るもんならやってみるがいいさ。見たところそこのニヤけた男、あたしと同じような空間を操る力を持っているようだが・・・この辺りはあたしが既に掌握しているよ」


「まぁ、あなたの術とは似て非なるものですからね。その辺りはご安心ください」

ドウが、そう言いながらユキ、近藤を連れて老人の元へと寄っていく。


「あ、甲賀ソウくぅ~ん」

ユキが、聡太へと目と向ける。


「雑賀重清に伝えといてぇ~。雑賀美影の記憶は、戻しといたよぉ~って。そもそもあの子の記憶に用はないからねぇ~」

「え??」


そんなユキの言葉に聡太が首をかしげていると、


「雑賀本家の娘さんには、悪いことを。あれはウチのドウの弟子の我儘だったようでな。儂からの分も、代わりに謝っておいてくれないか」

老人も、聡太へと目を向けて言った。


老人に対し、聡太が頷き返していると。


「おい、近藤!!」

恒久が近藤へと叫んだ。


「今日のところは、負けを認めてやる!!けどな、モテない者同士として、お前は俺が――――」


恒久の言葉を待つことなく、老人たち一同はそのままその場からふっと姿を消すのであった。


「・・・・・難なく抜け出たのかい。あのニヤケ男の術も、よくわからないねぇ」


雅がボソリと呟く中、


「いや、そこは最後まで言わせろよーーーーーーーーっ!!!!」


恒久の叫び声が、辺りにこだまするのであった。

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