第230話:妻は強し
驚く日立と隠を尻目に、日陰は倒れる日立を無理矢理立たせて、その胸ぐらを掴んでいた。
「ちょっとあなた!これはどういうことなの!?私というものがありながら、こんな幼い子の足に縋るだなんて!!」
「いや、待つんだ日陰、これには事情が―――」
「言い訳なんて聞きたくないわ!!」
そんな叫びと共に、バチーンという音が辺りに響いた。
日立の頬に、日陰の手の平が炸裂した。
「シロ様に縋らずに、ちゃんと私に縋りなさいよっ!!」
そう言って日陰は、履いていたロングスカートを捲くりあげ、白い御御足をあらわにした。
「ひ、日陰!なにをはしたないことをっ!!隠以外に男がいないとはいえ、これは私だけの足だぞっ!!すまなかった!私が悪かったから!!」
「あぁ!あなた!!」
「おぉ!日陰っ!!」
日立・日陰夫妻は、そう言って抱き合っていた。
「・・・・・・・・・・・」
隠は、その光景をただ、無言で見つめていた。
(僕は一体、何を見せられているんだろう)
隠は現在、母の声に反応して智乃の『目を閉じるように』という指示を破ったことを、後悔していた。
中学生という多感な時期に、両親のラブラブな光景である。
もう、トラウマものなのである。
そんな息子の想いなど知らぬ日立と日陰はひとしきりイチャイチャしたあと、突然日陰が日立の頭を抑えこんだ。
「あなたっ!こんなことしている場合じゃないでしょ!ちゃんとシロ様に謝りなさい!!」
「なっ、こ、これはお前から―――」
「言い訳しないっ!!」
「はいっ!!」
怒鳴られた日立は、日陰に抑えられるまま土下座の姿勢をとり、チーノに向かって頭を下げた。
「これまでの非礼、誠に申し訳ございませんでした!私はこれまで甲賀、いや、雑賀平八殿を、ずっと恨んでおりました。雅殿がおりながら、シロ殿のような美女を侍らせていると勘違いしていたからです。
そしてその恨みを、色々なものにぶつけておりました!!
これからは、心を入れ替え、これまで以上に雑賀本家発展に、力を注ぐ所存です!!」
そんな日立の言葉を聞いた智乃は、猫の姿へと戻って日立に微笑んだ。
「ふふふ。雑賀本家の発展もいいけれど、あなたはまず、息子さんとしっかりと向き合いなさい。あんな良い子、なかなかいないわよ?」
「「はいっ!!」」
チーノの言葉に、日立だけでなく日陰も、嬉しそうな表情を浮べて返事をしていた。
「それと・・・私はもうシロではないわ。今はチーノよ」
「あっ、そうでしたチーノ様っ!!」
日陰が、慌てた様にチーノに謝った。
「気にしないで。それにしても日陰。あなたいつの間にいたの?私でも気付かなかったわ」
「初めからおりました。この人が来たら教えていただくよう雅様にお願いしていたのです」
「あら、隠君の隠密の才能はあなたの血のようね」
「えぇ、おかげさまで」
そう笑い合うチーノと日陰に、日立は呆然としていた。
「ふ、2人は知り合いだったのか?」
「えぇ、昔から雅様とシロ様には良くしていただいていたのよ。あなたの初恋の人が、変化の術を使ったシロ様だった、っていうお話もその時に伺っていたのよ」
そう、日陰はニコリと笑って日立に返した。
しかしその笑顔には、日立を凍りつかせる何かが混じっていた。
「そ、そうだったのか。あはははは」
日立は、触らぬ神に祟りなしとばかりに、ただ乾いた笑いだけを日陰に返すのであった。
(ふむ。あの頑固な日立が、考えを改めるとはのぉ)
隠に抱かれるゴロウは、そんな光景を満足そうに眺めるのであった。
そして隠は、いつも抱いているゴロウのその様子に笑顔をこぼしながら、わちゃわちゃやっている両親へと目を向けた。
父の変化を喜びながら。
そんな時、突然ノリが、その場へと現れた。
「雅様っ!!日立殿もこちらにおられましたか!!」
「なんだいノリ、そんなに慌てて」
息を切らせて現れたノリに、雅が声をかける。
ノリは、肩で息をしながら一同を見渡した。
「美影様が、何者かに襲われました!!」
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