第231話:目覚めを待って

「日立!お前が付いておりながら、何故こんなことになった!?」

雅宅で、雑賀本家当主雑賀六兵衛が怒鳴った。


「も、申し訳ございません!」

日立は六兵衛に対し、額を床につけて土下座していた。


その後ろでは、日立の妻日陰と、息子の隠も同様に土下座していた。


「六兵衛、もう許してやりな。日立は、あたしたちが拘束してたんだ。それに聞くところによると、日立が美影を追わなかったのは、美影自身の命令だったそうじゃないか。だったら、日立に非は無いはずだよ」

雅が、六兵衛に向かってそう告げた。


「し、しかし姉上・・・」

そこまで言葉を出した六兵衛は、雅に睨まれて口を閉ざした。


「ほら、顔を上げな」

六兵衛が黙り込んだのを確認した雅は、日立達にそう声をかけた。


日陰と隠が顔を上げる中、日立だけは頭を下げたままであった。

「雅殿はこうおっしゃってはおりますが、全ては私の責任です。どのような罰もお受けいたします」

日立は、頭を下げたままそう言った。


「今は責任の所在などに時間を割いている場合ではないだろう!」

雅が怒鳴った。


「まずは美影をこんな目に合わせた相手を探すのが先決だろう!?

全てが解決したうえで誰をどう罰しようとも、それは本家様で勝手にやればいいさ。

だがね、あたし住む街でこんなことが起きたんだ。まずはそっちの解決に注力してもらうよ!いいね、六兵衛!!」


「は、はいっ!」

雅の言葉に、六兵衛は姿勢を正し、そっと美影に目を向けた。


美しい顔の少女は、ただ静かに眠っていた。


着ていた制服はボロボロになっていたため、私服である和服に、雅と日陰の手で着替えが為されたその少女の眠る布団を、何人もの人間が取り囲んでいた。


そのうちの1人である雑賀雅を、雑賀日立は潤んだ目で見上げていた。


「雅様、私は、私は・・・・」

「泣くんじゃないよみっともない!爺の涙なんて、誰の得にもなりゃしない。美影の怪我は全てあたしが治療したんだ。直ぐに目を覚ますさ」

雅は、憎まれ口を叩きながら日立に笑いかけた。


「美影、ごめんな・・・おれがちゃんと一緒にいれば・・・」

遅れて駆けつけていた重清が、美影の枕元で呟いていた。


「あんたも気にするんじゃないよ。それにあんた、正式に交際を断ったんだろう?だったら、その後も一緒にいたほうがこの子にとっては辛かったさ」

雅が、そっと重清の肩へと手を置いた。


その場にいるもう1人の2中生徒である茜は、ただ深刻そうな顔でその様子を見つめていた。


現在その場には、雅、ノリ、重清、茜、そして雑賀本家の面々がいた。

事情を聞きつけて慌ててやって来た六兵衛が、開口一番日立を怒鳴りつけ、現在に至るのである。


茜は雅の弟子であることからこの場にいることが許されているが、それ以外の忍者部の面々には、まだこの事は伝えられてはいなかった。


そんな一同は、ただ、美影の目覚めを待っていた。


辺りが静けさに包まれる中、突然重清のスマホが小さな振動とともに着信音を響かせた。


「・・・・・ゴメン、友達だった」

画面にでる送り主を確認した重清は、中身も見ずにそっとスマホをポケットへとしまった。


それと同時に、重清の頬に衝撃が走った。


「ゴメンじゃねーよっ!!お前が!お前が姉上をふったりしなければ、こんなことにはならなかったんだぞ!!」

充希が、目を真っ赤にして重清を殴りつけ、叫んだ。


「・・・・・・ゴメン」

頬を抑えながら、重清は充希に目をやり、呟いた。


「充希、落ち着きなさい。姉上も仰ったように、重清君は悪くない」

「しかしお祖父様っ!!」


「落ち着きなさい」

六兵衛な強く言われ、充希は押し黙った。


「重清君、悪かったね。君は、全然気にしなくていいんだからね」

六兵衛は、そっと重清に微笑みかけた。


「はい、すみません」

「そんな顔をするな。お祖父様が生きてらっしゃったら、悲しむぞ?」


「じいちゃんを、知ってるんですか?」

「これでも姉上の弟だからね。それに、立場上公にはしていないが、私は彼の大ファンなんだ。息子にも、平八様の名前に寄せた名をつけたくらいだからね」


「息子・・・それって、美影のお父さん?」

「あぁ。もう亡くなってしまったがね」


「そう、なんですか・・・・」

「気にすることはない。それよりも、今は美影の目覚めを待とう。きっと、何か手がかりが掴めるはずだ」


「あの、そのことなんですけど・・・」

六兵衛と重清が話していると、茜がそっと手を挙げた。


「わたし、もしかしたら見たかも―――」


「美影様っ!」


茜の言葉を遮るように、隠が叫んだ。


その声に一同が美影へと目を向けると、布団から起き上がろうとする美影の姿があった。


「おぉ、美影・・・」

「美影っ!」


美影の元へ寄ろうとした六兵衛を押しのけるように、重清は美影に向かった。


「美影、ゴメン!」

そう言って美影に触れた重清の手は、


「気安く呼んでんじゃねーよ、末席」


美影によって払われた。

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