第259話:聡太の悩み

忍ヶ丘市に秋が近づいてきたある日のこと。


いつものように『喫茶 中央公園』に集まって重清達が宿題に励んでいると、


「はぁ〜」


聡太が、じゃれついているプレッソとロイを見つめながらため息をついた。


「なんだよソウ、ため息なんてついちゃって」

重清が、そんな聡太に声をかけた。


「うん、なんだか、シゲが羨ましくなってきちゃって」

聡太が、そう言って重清を見つめ返した。


「おれ?」

「そ。なんか最近、修行も行き詰まっちゃってさ〜。シゲ見てたら、具現獣良いなぁ〜って思っちゃって」


「あー、それなんかわかるわ」

聡太の言葉に、恒久も同意して頷いた。


「シゲには3体も具現獣いるからな。戦術の幅だって広がりそうだもんな。まぁ、シゲの場合は戦術っつってもチーノとロイが考えてそうだけど。

その点ソウなら、具現獣にも上手く指示出せそうだよな」


「あれ?おれそんなにプレッソ達に指示とか出せてない?」

「お前、今更気付いたのかよ」

重清の言葉に、プレッソがロイとじゃれながらつっこんだ。


「ふむ。確かに重清は、儂らを上手く使っておるようには思えんな。まぁ、儂は自分勝手に動かせてもらっとる今の方が助かるがな」

ロイも、プレッソに同意して頷いていた。


「ふふふ。重清は今のままの方が、私達にはありがたいわよ」

1人だけ変化の術で人の姿になっている智乃チーノは、重清へと微笑みかけた。


「え〜、オイラはもっと、バンバン指示が欲しいぞ」

そんな智乃に、プレッソが不満そうに反論した。


「じゃぁプレッソ、いっそのことぼくの具現獣になっちゃう?」

聡太が目を輝かせて言うと、


「それも悪くないなぁ」

プレッソもニヤリと笑って聡太に返した。


「なっ!?プレッソ、おれを裏切るのか!?」

重清は、そんなプレッソに抗議した。


「ふふふ。プレッソ、それは辞めておいたほうがいいわよ」

そんな様子に、智乃は笑いながらも言った。


「え、ぼくそんなに頼りない?」

聡太が、不貞腐れ気味に智乃へと言うと、


「そうじゃないのよ」

智乃は首を振る。


「私やロイとは違って、プレッソは元々重清の忍力が生み出した具現獣でしょう?そのプレッソを失うと、重清は忍力が使えなくなっちゃうのよ」

「え、ちょっとそれ初耳!!」

智乃の言葉に、重清が立ち上がった。


「シゲ、ちょっと落ち着いて。智乃ちゃん、どういうこと?」

茜が雑に重清を制して、智乃を見つめた。


「そのままの意味よ?具現獣はね、その忍者の忍力そのものと言っても過言ではないの。自身の忍力から具現化した具現獣を手放すと、その忍者は忍力を殆ど失ってしまうのよ」


「だってよ、プレッソ。残念だったな」

智乃の説明を聞いた重清が、ニヤニヤしてプレッソに言うと、


「いや、お前智乃の話聞いてたか?力を失うのは重清であって、オイラじゃないんだぞ?

オイラは聡太と契約しても、普通に生きていけるだろ。智乃やロイだって似たようなもんなんだし」


「うぉぃっ!薄情!!プレッソ薄情!!」

プレッソが呆れ顔で重清に返すと、重清は猛抗議を始めた。


「プレッソや、あまり重清をイジメるな。お主も、重清の元を離れる気などないくせに」

ロイが、プレッソの頭の上からそう、プレッソへと声をかけた。


「ロイ、バラすなよ面白くねーな。まぁ、重清ほどの馬鹿はそうそういねーからな。コイツといると、退屈しねーし。それに引き換え聡太はなんつーか、良くも悪くも、普通だからなぁ」

「いや、ソウも大概、普通じゃないだろ。武具はレーダーだし、師匠はあの、エセ孫バカだし」


プレッソが笑って言っていると、恒久がプレッソへとつっこんでいた。


「あれ?なんでぼく、プレッソと恒久からディスられてるの?しかも、おじいちゃんまで・・・

いや、エセ孫バカっていうのは、あながち間違ってはないんだけどさ」

聡太は、2人の言葉に不満そうに呟きながら、頬杖をついた。


「茜とツネは、具現獣欲しいとは思わないの?」

頬杖のまま聡太が茜と恒久に目をむける。


「わたしは、いいかな。わたしのところに来たいって子がいれば別だけど、自分から動く程でもないって感じかな。みーちゃんも具現獣いないし、できればわたし1人で、みーちゃん超えたいからね」

茜は、そう言って笑っていた。


「俺も、今はパスかな。まずは自分がもっと強くなるのが先決だからな」

恒久も、茜の言葉に頷いて聡太へと答えた。


「そっかぁ〜。ぼく、今度おじいちゃんに相談してみようかなぁ」

「いいんじゃね?エセ孫バカだから、ちゃんと考えてくれんだろ」

恒久が聡太に笑いかけると、


「あんまり言ってると言いつけるよ。一応おじいちゃんも、協会の人なんだからね?」

「ちょ、ソウ!それは卑怯だぞっ!」

恒久が聡太に返す。


『喫茶 中央公園』に、一同の笑い声が響くのであった。

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