第260話:おじいちゃんに聞いてみよう

「具現獣、か」

空中を浮遊する甲賀オウが、呟きながらその身を躱す。


「そ、そうなんです!ぼくも具現獣いると、いいなぁって!!」

同じく空を飛びながら、ソウがそう言って手の甲から生えている花をオウへと向けて、花の種を飛ばす。


現在ソウとオウは、修行の真っ最中である。


2人の修行は、もっぱら忍者協会の保有する鍛錬場にて行われている。


飛翔の術を使いながらの空中戦の真っ最中に、ソウはオウへと相談を持ちかけたのだ。


「具現獣が欲しい」と。


「それはなかなか、難しい相談だな」

飛んでくる花の種を指で弾いてソウへと飛ばし返しながら、オウは難しい顔をしていた。


「うわぁっ!」

自身の木砲の術をその身に受けたソウは、そう声を上げながら地へと落下し、地面へと激突する直前に、身を翻して着地した。


「とりあえず、飛翔の術はそれなりに使えるようになったな」

その様子を見ていたオウも、空中から降り立ってソウへと声をかけた。


今日のオウは、もの凄く師匠っぽいのである。


「おじいちゃん、今凄く師匠っぽくてカッコ良かったよ!」

「だろう!?今のは、自分でもいい感じに決まったと思ったのだ!」

オウは、デレッと顔を崩してソウへと気持ち悪い笑みを返した。


・・・・・・・・・


前言を撤回しよう。

今日のオウも、相変わらずエセ孫バカだった。



「おい、オウ殿がまた気持ちの悪い笑顔をしているぞ」

「あぁ。あの初めての弟子が出来てからというもの、あのオウ殿のキャラの崩壊ぶりは目をみはるものがあるな」

「しかしあの弟子、あの年で飛翔の術を使えるとは、なかなか見どころがあるじゃないか」

「それを言うならオウ殿の方も凄いぞ。最後の木砲の術にも、かなりの忍力が込められていたはずだ。にも関わらず、あぁもあっさりと弾き返していたぞ」

「だな。さすがは雑賀平八様の最初の教え子だけのことはある」


協会の鍛錬場で修行に励んでいた協会職員が、2人の修行を見ながら話していた。


オウのデレデレっぷりは、もはや協会の中でも知らぬ者がいない程に有名になっているのである。


と、そんなことはさておき。


一旦修行を切り上げたソウとオウは、木陰へと腰掛けて話していた。


「ソウの気持ちも分からんではないが・・・」

オウは、困り顔でソウへと顔を向ける。


(ぐぉっ!!)

そんなオウに対してソウが向けていたのは、ウルウルとした瞳。


(おじいちゃん、ぼくのお願い聞いて)

とでも言わんばかりのその瞳に、オウは1人悶絶していた。


それでも何とか心を落ち着けたオウは、続けた。


「具現獣とは本来、おいそれと人に契約を移譲できるようなものではないのだ。雑賀本家のゴロウのように、代々引き継がれているような具現獣でもない限りな」


「やっぱり、難しいよね」

別にそんなあざといことは考えていないソウは、肩を落としてそう呟いていた。


そんな残念そうな弟子の様子に、オウはしばしの間、思案した。


「そういえば・・・」

「え、なになになになに!?」


「いやめちゃくちゃ食いつくな。まるでピラニアだ」

つい漏らした言葉に早速食いついた弟子の姿に、オウは苦笑いを浮かべた。


「そんな微妙なつっこみはいいから、続きをお願い!

「微妙て。まぁいい。いやな、具現獣と関係があるかはわからんが、協会に依頼が入っておってな」


「依頼?依頼って、協会にも直接入ってくるの?」

「まぁ、忍者の存在を知る一部の者からだけだかだな」


「そっか。偉い人とかは、忍者のこと知ってるんだもんね。それで、その依頼に具現獣とどんな関係が?」

「それが、わからんのだ」


「ダメじゃん」

「ダメて。そもそも、依頼内容がどうにもアバウトでな。ただ、具現獣が関係している可能性も無くはない、かもしれんのだ」


「でも、協会の依頼を、ぼくが受けても大丈夫なの?」

「いや、無理だな」


「ダメじゃん」

「いやそれ2回目!まぁ普通は無理だが、協会の者が付き添えば、問題はなかろう」


「ってことは、おじいちゃんが付き添ってくれるの?」

「そうしたいのは山々じゃがな。儂はこう見えて忙しいのだ」


「ダメじゃん」

「え、それ今流行ってんの?すぐにと言うわけではないが、誰か探しておくから安心しなさい。どうせこの依頼は、優先度も低く、誰も受けようとはしておらんからな」


「誰かって、ノリさんとか?」

「いや。ノリのように教職に就いている者は、依頼を免除されておるのだ。教師は教育に専念せよという、平八様のお考えでな。まぁ、信用できる者を探しておくから、心配はするな」


「・・・・おじいちゃん、ありがとう!!」


(あぁ、儂もう幸せっ!!)


ソウの感謝に満ちた満面の笑みに、オウはただ、悶絶しているのであった。

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