第261話:忍者の社会科見学

ソウがオウおじいちゃんに相談をしてから数日後。


「という訳で、俺に白羽の矢が当たったってわけだ」

ノリの後輩であり警察官でもある風魔ガクが、土曜日の朝イチで突然忍者部の部室を訪れて重清達の前に立ち、腕を組んで言った。


「え、いきなり『という訳』とか言われても、分かんないんですけど」

重清が、ガクへと首を傾げた。


「は!?ソウ君、何も伝わっていないぞ!?」

ガクが、焦り顔をソウへと向けた。


「あ、いや。誰がいつ来るとか、何も聞いていなかったので・・・今話します」

ソウは、苦笑いを浮かべながらその場にいるメンバーへと説明を始めた。


その場に居るのは、ノリから部室にいるように指示をされたソウ、重清、恒久、そしてアカである。


「はぁ〜。あの人、何も言ってないのかよ。いくら初めての弟子が出来たからって、仕事まで影響しちゃってんじゃねーかよ」

ガクは、オウのデレデレした顔を思い出しながら頭を抱えていた。


ガクが頭を抱える中、ソウから経緯を聞いた恒久が、納得したように頷いてガクへと手を挙げた。


「話はわかりました。1つ、質問いいですか?」

「なんだ?」


「ウチから行くの、俺ら1年だけでいいんすか?」

「あぁ、そのことか。これは、ノリさんの提案だ。普段の依頼ならば、必ずや先輩を付けるところだろうが、今回は俺がいる。だから、君達1年生だけのチームで組んで、そのチームワークを磨いてほしいらしい」


「ノリさん、意外と考えてるのね」

アカが、ボソリと呟いた。


「ははは。先日の課題の事は雅様から聞いたよ。確かにノリさんは時々暴走するが、こういうとこはちゃんと考えてるんだよ。

一応フォローしとくが、あの課題だって内容自体は悪くはないんだぞ?

必要な情報を集める能力や、その情報を精査する力なんかが必要な内容の依頼は、いつか経験するだろうからな」


ガクが、笑ってそう言っていた。


「ま、その情報を悪用しようとするあたりが、ノリさんのダメなとこなんだけどな」

恒久が、ガクの言葉に笑いかけると、


「まぁ、それは否定しないがな」

ガクも、それに苦笑いを浮かべて頷いた。


「ちなみに重清君」

ガクは、そう言って重清へと目を向けた。


「課題に対しての君の行動も、俺は悪くは無いと思っているぞ」

「おぉ!!さすがガクさん!よくわかってらっしゃる!!」

重清は、初めての理解者にテンションを上げた。


「えぇ〜。ガクさんそんなこと言うんだ〜。ちょっとショック〜」

アカは、そんなガクに不機嫌そうな顔をした。


「そう言わんでくれ。情報を得るために自身の情報を売る。そう悪いことではないさ。まぁ、相手に与える情報も、しっかり精査する必要はあるがな。

今回の重清君の場合、美影様の情報を売ったのはあまり良い事とは言えんがな。

相手が友人であり、あくまでも同級生としての情報であったから良かったが、普通は本家の人間の情報など、簡単に売って良いものではないからな。

重清君も、そこはしっかりと理解するように」


ガクは、重清に向かってそう言った。


「なんだか、ガクさんの方がよっぽど先生らしいね」

がっくりと肩を落として頷く重清の隣で、ソウが感心したようにガクを見て呟いた。


「確かにな」

「それは言えてるわね」

「ほっほっほ」

具現獣ズが、ソウの言葉に各々感想を述べていた。


ロイだけはただ笑っていただけだか。


ちなみに具現獣ズ、プレッソは重清の頭の上、ロイはそのプレッソの頭の上、チーノは重清の隣が定位置であり、今もそれぞれが定位置についていたりする。


「それで、ソウ君は依頼内容については聞いているのかい?」

「いいえ、詳しくは」


「ということは、場所も聞いてはいないか。詳しくは車で説明するが、ここから車で3時間程かかるんだ。下手したら泊まりになるかもしれん。とりあえず、みんなご家族に泊まりの許可をもらっていると聞いているが?」


「はい。ノリさんからそう言われてたので」

「ちぇ〜、またキャンプだと思って楽しみにしてたのにな」

ソウが真面目顔で頷き、重清は不貞腐れ気味にボヤいていた。


「まぁそうがっかりするな。ちょっとした合宿込の社会科見学だと思ってくれ」

「まぁ、大人の忍者と行動させてもらえるなんて、なかなかないからな。その点は、エセ孫バカに感謝だな」

恒久が、重清の肩に手を置いて言うと、


「ぷっ!エセ孫バカって、オウさんのことか?言い得て妙というか・・・」

「が、ガクさんまでおじいちゃんの事をそんな風に・・・」


「いやソウ君。もの凄く被害者っぽい言い方だけど、キミのオウさんの扱いも酷いと聞くよ?」

「え?誰から聞いたんですか!?」

ガクの言葉に、ソウは驚いて声を上げた。


「協会に勤める忍者は、みんな知ってるぞ?」

「み、みんな、ですか?」


「そう。みんな」

「・・・・・」


じっとガクから見すえられたソウはしばらく考え込み、


「少しは自重しよう」

と、決意するのであった。

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