第262話:車中にて

「それでガクさん、これからどこに向かうの?」

ガクの車に乗り込んですぐに、重清が運転席のガクへと声をかけた。


「あぁ。依頼内容も含めて、今から説明する」

ガクはエンジンをかけながら話し始めた。


「まずこれから向かうのは、県境にある不忍村しのばずむらだ。で、依頼ってのはそこの村長からだ」

「そっか。偉い人だから、忍者の事を知ってるんだね」

後部座席の重清が、そう言いながらお菓子の袋を開け始めた。


「別にいいんだが、そういうのは一応、車の持ち主の許可とってからにしろよ?」

ガクは苦笑いしながら重清に言った。


「あっ、ごめんなさい。ガクさんも食べます?」

「いや、大丈夫だ」


「ちょっとシゲ、大事な話の時に脱線させないでよね!あと、わたしにも1つちょーだい!」

助手席の茜が、後ろを見ながら重清へと手を伸ばす。


「あ、ガクさんすみません。続けちゃってください」

重清は、袋からチョコをいくつか茜へと渡しながら、ガクへと続きを促した。


(ったく。これだから平八様の血は)

ガクはそう思いながらも、


「で、その村長からの依頼ってのがこれだ」

そう言って1枚の紙を茜へと手渡した。


「『ここ数週間、村の家畜が怯えています。調査をお願いします』??」

茜は、ガクから受け取った紙を読み上げた。


「え?それが具現獣と何か関係あるんですか?」

よく分からない依頼内容に、聡太が首を傾げる。


「いや、実際のところ、その辺がよく分からんのだ」

前方に目を向けながら、ガクは真面目そうな顔で聡太へと返した。


「どういうことなんですか?」

なんとも言えないガクの言葉に、恒久は怪訝な顔をしていた。


「どうやらその村、かなり辺鄙なところにあるらしくてな。周りには熊やら猪やらが、ゴロゴロいるらしい。だからこそ、家畜もそれに慣れていて、ちょっとしたことじゃ、怯えないらしいんだよ」

「いや、そんな家畜聞いたことねーよ」

恒久が、つっこんだ。


「そんなこと言われても、事実なんだから仕方ないじゃないか」

「そんな危険なところに、わたし達がいって大丈夫なんですか?」

茜は、不安そうに言った。


「まぁ、そのために俺がいるわけだしな。それに聞いたところによると、重清君はもっと獰猛な動物とも戦ったそうじゃないか。だったら、大丈夫だろ?」

赤信号で止まっていたガクが、後ろを振り向いて重清へと笑いかけた。


「いや、まぁそうだけど。でもあのときは、本物の動物じゃなかったし・・・」

「シゲはその時、どうしたの?」

茜が、重清へと振り向いた。


「どうって・・・銃をぶっ放してたかな」

「そりゃ本物にはできねーな」

恒久が、呆れ声で重清に返す。


「まぁ、普通の動物相手だったら、忍力出しときゃなんとかなるさ」

「どういうことですか?」

ガクの言葉に、聡太が聞き返した。


「忍力ってのは、忍者にしかない力だろ?動物達も、そういう得体の知れない力には怯えるもんなのさ」

「あぁ・・・」

重清は美影を思い出して頷いていた。


美影達を伴っての依頼の際に、彼女に暴言を履いていた少年に対して美影が怒り、無意識に忍力を溢れさせていたことに。

そしてそんな美影に、少年が恐怖を抱いていた様子を。


(だからあの時、あの人あんなに怖がってたんだ)


重清が1人納得していると、


「でも、それと具現獣と、どんな関係があるんですか?」

茜が、運転席のガクへと目を向けた。


「あぁ、この話には続きがあってな。家畜が怯えるもんだから、村では噂になっているんだそうだ。伝説の龍が、目を覚ましたんだ、ってな」


「「「「龍!?」」」」


車中に、重清達の声が響いた。


「うるさいなぁ。いつもこんなにリアクションでかいのか?」

ガクは呆れながらも、話を続けた。


「さすがに協会としては、その話を鵜呑みにしているわけではないんだがな。しかし、動物達がそれ程に怯えているということは、忍者に関係している可能性があるということで、この依頼を受理したんだ」


「忍力、ですね」

「さすがは聡太君。そういうことだ。協会では、具現獣の忍力が影響しているのではないかと考えているんだ」


「でも、具現獣が関係しているってことは、結局その具現者である忍者も関係している、ってことになりますよね?」

そんな中、恒久がガクへと問いかけた。


「いや、そうとも限らない」

ガクは、運転しながら恒久の言葉を否定した。


「時々いるんだよ。忍者との契約が切れたにも関わらず生き続けている、はぐれ具現獣がな」


「「「「はぐれ具現獣!?」」」」


「だからうるせぇって!!」


一同に、ガクは叫び声をあげるのであった。

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