第403話:別れ

「凄い、凄いよ重清っ!」

大忍弾の術を受けてボロボロになった体を瞬時に回復させながら、平八は目を輝かせた。


「『大忍弾の術』も『百発百中の術』も、かなりの練度だ!これほどのダメージ、雅以外からは受けたこと無いよっ!」

平八は嬉しそうに笑っていた。


(なはは。その割にじいちゃん、一瞬で回復してるけどね。そりゃ、天才なんて呼ばれる訳だよ)

嬉しそうな平八とは正反対に、重清は肩を落として平八を見ていた。


「あれ?重清、何でそんなに元気ないの?少しは自分の成長を褒めてあげないと!」

本心からそう言った平八に、若干不服そうな目とともに重清は、


「いや、まぁそうなんだけどさ。じいちゃん術が使えないのに、何で一瞬で回復してるのかが気になって仕方ないんだよね」

そう言って平八の体をマジマジと見ていた。


「あぁ、これ?術じゃないよ。体の力の回復力を、忍力で強化して回復しているんだ。『治癒の術』よりも効率は悪いけど、これなら術が使えなくても回復できるからオススメだよ。

重清は忍力も多いんだし、覚えていて損はないよ。試してみなよ」

平八がそう言いながら小さく手を動かすのと同時に、重清の頬に小さな痛みが走った。


「へ?」

重清が声を漏らしながら頬に手を当てると、手には僅かなばかりの血が付着していた。


(いやいや、今おれなにされたの?)

血を見つめながら戸惑う重清に、


「ほら、早く早く」

平八は楽しそうにそう言って重清を急かした。


孫に何かを教えることが心底楽しいとでも言うような平八のその表情に、重清は自身の疑問を諦らめてため息をついた。


「体の力を傷に集中させて。細胞分裂ってわかるよね?それを活性化させるイメージだよ」

優しく語りかけてくる平八に頷きながら、重清はほのかに痛む頬に集中した。


するとすぐに、傷が僅かな熱を帯び、痛みが引いたのを重清は感じた。


「うん、バッチリだね。チーノのおかげで力の使い方が上手くなってるから、すぐに出来たみたいだ。

今くらいの傷なら体の力だけで治せるけど、大きな傷は、体の力を忍力で強化するようにね。

流石に、孫にそんな傷は付けられないから、その辺は実践で頑張ってね」


無意識ではあるものの、既に重清の心に何度も大きな傷を負わせた平八は、そう言って重清に笑いかけた。


「おっと」

それと同時に、平八の体が光に包まれた。


「どうやら、重清のおかげで忍力も尽きたみたいだね。今度こそ、お別れだ」

平八は、寂しそうに微笑んだ。


「うん。じいちゃん、色々とありがとうね」

そう言って重清は、平八へと抱きついた。


胸に埋められた重清の頭を撫で、平八は微笑みながら声を漏らした。

「残念だなぁ。どうせだったら、生きているときにこうして重清を鍛えてあげたかったよ」


「いや、それはほんと勘弁してください」

重清は平八の胸から顔を上げ、涙目で懇願した。


この涙は、平八との手合わせを心の底から避けたいからなのか、別れを惜しんでのことなのか。


(術も使わずにこれだけ強いじいちゃんと術有りでなんて、考えただけで涙が出てきた!)


どうやら、前者であったようである。


「うんうん。重清も残念だよね。でも、私との手合わせで重清の基礎はしっかり固まったはずだから。あとは雅と修行すれば、もっと強くなるからね」

変な方向に勘違いした平八は、涙を浮かべる重清を優しく撫でながら、子どもをあやすようにそう言って笑うと、


「じゃぁ、今度こそ本当にお別れだね」

重清から離れた。


「あぁ、そうだ。ここでのことは、雅以外には内緒にしてくれないかな?私の死の真相は、出来れば隠しておきたいからね」

自身の頼みとはいえ、雅が平八の命を終わらせたことを息子達に知られたくない平八は、重清へと頼み込んだ。


「わかったけど・・・チーノにも言っちゃダメ?」

「いや、チーノには伝えてくれ。元私の相棒として、彼女には知る権利が・・・いや、違うな。彼女には知っていて欲しいからね。

それと、どうせ重清のことだから、きっと他の具現獣にもバレそうだし、プレッソと、本家にいたロイにも、伝えてくれて構わないよ」


「わかった。じゃぁじいちゃん、今度こそ、バイバイ。忍者になってから、じいちゃんに会えて嬉しかったよ」

徐々に体が透けていく平八に、そう言いながら手を振る重清の目には、今度こそ本当に平八との別れを惜しむ涙が浮かんでいた。


「重清、これからもたくさんの大変なことが起きるかもしれないけれど、重清ならきっと大丈夫だと信じているよ。あぁ、もしも私の姉が現れたら―――」


そんな中途半端に言葉を残して平八の姿が消えたのと同時に、重清の視界を真っ白い光が覆っていった。

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