第408話:森の中へ

(シゲ、ありがとうね)

森へと歩く重清の頭に、聡太の声が響いた。


(あ、『通信』か。ありがとうって、なにが?)

(人目を気にしたの、ぼくが契約忍者だからでしょ?)


(あぁ、そのことね。ソウはこの中で唯一、契約に縛られちゃってるからね。この人数相手だと、

もしも向こうが手を出してきた時に、ソウ抜きはマジで無理ゲーだから。

おれ、もうそんなに忍力残ってないし)

重清は聡太へと返しながら、聡太へと振り向いた。


今この場にいるメンバーは、具現獣達を除くと重清、恒久、美影、そして聡太の4人である。


聡太以外の3人が忍者の血を引く血の契約者であるのに対し、聡太だけはノリとの契約により忍者となった、契約忍者なのだ。


その契約により聡太は、忍者でない者に力を使うところを見られると、契約が破棄されてしまうのである。


そんな親友を心配していた重清に、


(重清よ)

ロイが語りかけてきた。


(忍力回復のためにも、一度我々を戻した方が良いのではないか?)

(いや、やめとくよ。ソウだけじゃなく、チーノとロイにも本気出してもらわないとヤバメだからね。

今のおれじゃ、一度戻しちゃうと皆に十分な忍力を渡せないからな。

チーノとロイはおれやプレッソと違って、今日はまだ力を使ってないでしょ?

だから2人には、おれ達の分まで頑張ってもらわないとね)


具現獣使いの荒いご主人様、と言いたいところだけれど、確かにそうも言っていられないわね)

重清の言葉に、チーノが小さく頷いた。


(パパ、ボクも頑張るからね!)

すると横から、ブルーメが割って入ってきた。


しかし聡太は、


(ブルーメ、ありがとう。でももし、あの人達と戦うことになったら、ぼくは1人であのドウって人とやりたい。前に襲われたとき、コテンパンにやられたから)

首に付けた龍のアクセサリーを撫でつけながら優しくブルーメに返した。


(えぇ〜。ボクも戦いたいよ)

(もちろん、いざとなったら手伝ってもらうから。でも、最初はぼくだけでやらせて)


(わかったよぉ〜)

そんなブルーメの残念そうな言葉に続き、


(だったら俺は、近藤だな。あいつとは色々とあったからな)

恒久が近藤に目を向けながら言った。


(ならば儂は、恒久を援護するかのう。あのヒトとかいう奴も、恒久を狙っておるようじゃなからな)

ロイが恒久の頭に飛び乗って笑うと、


(それなら私は、グラって女ね)

チーノもグラを見据えた。


(いや、なんかもう戦う感じになってるけど、まずは話し合うからね?皆好戦的すぎ。そういえばソウ・・・美影には、通信繋げてる?)

(ううん。美影さんは、ぼくの力のこと知らないと思ったから繋げてないよ?)


(じゃぁ悪いけど、繋げてもらっていい?美影に勝手に動かれても面倒だからね)

重清の頼みに頷いた聡太はすぐに『通信』を美影へと繋げ、重清に合図した。


(美影、聞こえる)

「えっ?」

突然頭に響く重清愛する人の声に驚いた美影は、声を漏らして重清へと目を向けた。


(しっ。声を出さないで。今、美影の頭に直接話してるから)

(直接頭の中に?もしかして、テレパシー!?重清の私への愛が、そんな奇跡を起こしたのね!?)


(いや違いますよー。これ、ソウの武具の力だからね?そして、これ皆聞いてるからね?)

(え?そうなの?まぁ、聞かれてもそんなに問題はないけど・・・)


(いや、おれが気にするからね?)

(そうよね。私への愛の囁きは、2人だけのものだものね)


(・・・えぇっと。それより美影。もしも向こうが戦闘仕掛けてきたら、美影はどうする?他のみんなは、それぞれもう相手を決めちゃってるんだけど)

(この琴音って子の相手は、誰にも譲らないわよ)


(いや、都合よく琴音ちゃんの相手は決まってないけど・・・痛い!美影、引っ張らないで!?美影が引っ張るから、琴音ちゃんまで引っ張り始めてるから!)


(そのまま引き裂かれてしまえ)


脳内で繰り広げられるイチャイチャとした会話に、恒久が会話を聞く全員を代表してつっこんだ。


こうして一同は、万が一の時のための相手を決めながら、森の中を進むのであった。



一方そんな彼らを、物陰から見つめる2人の人影があった。


「よろしいのですか?このまま行かせても。もしもあの方に何かあったら・・・」

使用人のように控えるその男は、主と思しき女へと声をかけた。


「構わないわ。相手は大した忍力も持っていないようじゃないの。あのような連中に負けるようならば、あの子を受け入れるわけにはいかないわ。でもあの子、私達に気が付いていたわよ」

白いワンピースに見を包む女は、男に対しそう答えた。


「なんと。我々は気配を消しているというのに。やはり、あの方のご子息ですな」

男は重清たち一向に目をむけて、呟いた。


「えぇ、憎たらしいほど、姉に似ているわ」

女もまた、悲しげな表情を浮かべて、


「聡太」

小さく呟いた。

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