第409話:黒い忍力

「それで、一体おれになんの用なのさ」

辺り一帯を木々に囲まれたその場所で、重清は面倒くさそうにゴウへと問いかけた。


「この状況で、よくもそれだけ余裕でいられるものだな」

重清のそんな様子に、ゴウは呆れ声を返した。


「まぁ、大将のおっちゃん達が強いのは分かってるんだけどさ。チカラの差に絶望するのは、もう飽きちゃったんだよね、ごく最近。そんなことより、雑賀末席なんかの当主になったおれに何をさせたいのさ?」

乾いた笑いを浮べながら再び問う重清に、ゴウは強い視線を向けた。


「雑賀平八から受け継いだものを、渡してもらおうか」

「は?じいちゃんから受け継いだもの?一体何のことを言ってるのさ?当主にはなったけど、別に何も受け継いでなんかいないよ?」


「ふん。そう簡単にいかないのは分かっているわ!もとより、力づくで聞くつもりよっ!」

ゴウの隣でグリがそう叫ぶと、後ろに控えた面々が飛び出した。


重清に向かうグリ、ドウ、近藤、ヒトの攻撃を、それぞれチーノ、聡太、恒久、ロイか受け止めた。


グリ「このクソ猫!私達の邪魔をしないで!」

チー「あらごめんなさいね。ご主人様を守るのが、私の勤めなの。愛する彼からの、最期のお願いでもあるからね」


ドウ「おや、聡太君、でしたか。私に一度負けたのをお忘れですか?」

聡太「覚えてますよ!でも、ぼくだってあれから、少しは強くなったんですっ!」


近藤「ちっ。このクソガキが!邪魔なんだよ!」

恒久「うるせぇな!モテないもん同士、ちったぁ仲良くやろうぜ?」


ヒト「痛ってぇ!なんだよこの亀!めちゃくちゃ硬いぞ!」

ロイ「おぉ、すまんかったのぉ。手加減を忘れておったわ」



それぞれが言い合いながら離れていくのを見つめていたいゴウは、


「まったく。自分達の目的を忘れおって」

ため息混じりにそう言って、重清の方へと目を向けた。


美影「ちょっとあなた!いつまで重清にくっついているのよ!?」

琴音「それはあんたの方でしょ!?重清君の隣は、私のものなのよ!」


重清「2人とも、少し落ち着い―――」


美影&琴音「「重清(君)は、黙ってて!!」」


重清「えぇ・・・・」


美影と琴音もまた、重清に叫び返すと言葉と拳の攻防を繰り広げながらその場から離れていった。


ゴウ&重清「「・・・・・・・・」」


「お互い、苦労するな」

ゴウが重清に優しげに言うと、


「なははは」

重清は小さく笑って、ゴウの様子を伺った。


「大将のおっちゃんは、襲ってこないの?」

「襲って欲しいか?」


「いや、出来れば勘弁して欲しいかな。おれもう、忍力あんまり残ってないし」

「そのようだな。であれば少し、話でもするか」


「賛成。みんなも、まずは話し合いから始めればいいのにね」

「血の気の多いものばかりだな」

ゴウはそう言うと、重清をマジマジと見つめた。


「雑賀重清。強くなったな」

「そうかな?まぁ、一応修行頑張ってはいるけどさ」


「だろうな。長く忍術を使うことなく、心・技・体の力のみを磨いてきた儂には良くわかる。今のお前はもはや、その辺の大人の忍者でも敵うまいて」

「忍術・・・おっちゃんってさ、もしかして、捨て忍ってやつなの?」


「そうか。反男そりおはお前の中学だったな。その時に捨て忍のことを聞いたか」

「反男君を知ってるの!?まさか、彼まで仲間にしたの!?」

重清は、頭にプレッソを乗せ、フラつきながらゴウに詰め寄った。


「落ち着け。確かに、反男に声をかけた。そして、修行もつけた。だが、反男は我々の考えには賛同しなかった」

「そ、それで、反男君をどうしたの!?まさか・・・」


「何を勘違いしている。何もしてはおらんわ。あやつは、あやつの好きなように生きるさ」

「そっか」

ゴウの言葉に、重清は安心したように息を吐いた。


「しかし、本当に惜しい奴だ。あやつの力は、お前たち忍者にとって脅威になりうるものだからな」

「力・・・やっぱり、おっちゃん達は何か特別な力があるんだね」


「そう。我々は捨て忍などと呼ばれ、この力も、忍力のなり損ないだと言われている」

そう言いながらゴウは、黒い忍力をその身に纏った。


「しかし、それは大きな間違いなのだ。この力は、鍛えることで特殊な能力を発現する」

ゴウはそう言うと、その力を手のひらへと集中させた。


黒い忍力はそのまま塊となり、やがて何かを形作っていった。


「文字?」

その力の塊を見つめていた重清は、小さく呟いた。


重清の言うとおり、力の塊は文字を作り上げていた。


「そう。この力は、鍛えることで発現者特有の文字を作り上げる。それが、捨て忍などと呼ばれる我々の能力だ。

このような力を持っていても忍者共は我々を出来損ないなどと呼ぶ。おかしいとは思わないか?」

そんなゴウの言葉を気に留めることなく、重清はただじっと、ゴウの手のひらの文字を見つめるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る