第407話:早速のお出まし

公弘が『喫茶 中央公園』をあとにしてから、2中忍者部の面々は来年への景気付けにノリのお金でたらふくコーヒーを飲み、その日は解散となった。


「シゲ、当主になったんだ。大変だね」

(シゲ、当主とか似合わなーい)

帰りの道すがら、重清からその日の報告を受けた聡太は、ブルーメの言葉に笑いを堪えながらそう言って重清の肩へと手を置いた。


「なんつーかシゲ、災難だな。それより―――」

同じく重清の話を聞いていた恒久は、聡太の手の置かれたのとは逆の腕を見つめていた。


腕というよりも、そこにしがみつく人物に。


「あんた、いつまでそうしてんだよ」

目の前でイチャイチャする光景を見せつけられているイライラしながら、恒久は美影へと声をかけた。


「いつまでって、いつまでもよ。重清は、今日たくさん頑張ったから、忍力がもうほとんど無いのよ。私が支えてあげなくちゃ」

美影は重清の腕にギュッと抱きつきながら、恒久へと言い返した。


腕に抱きつくことで重清の負担は若干ながらも増えているのであるが、美影にはそんなことは関係ないのである。


「だったら、あいつら戻せばいいじゃねーか」

恒久は呆れながらも、重清達について歩くプレッソ達に目を向けた。


「あー、その手があった」

「ダメっ!」

恒久の言葉に強く頷いた重清を、美影は必死に制止した。


「いや必死だなおい!少しは重清の迷惑も考えろよっ!なぁ重清?」

「・・・・」

恒久に話を振られた重清は、それに答えることなく遠くを見つめていた。


「重清、迷惑じゃないって。あんた、モテないからって僻むのはやめなさいよね」

「はぁ!?誰がモテないだと!?俺だってなぁ―――」

美影の的確なつっこみに、我らがつっこみ番長恒久は我を忘れてそこまで言って、言葉を飲み込んだ。


重清と聡太が、その言い争いに巻き込まれないように遠くを見つめながらも、恒久の言葉の先に聞き耳を立てているのに気付いたからであった。


「「っ!?」」

「おい重清、お前もなんとか言ったらどうなんだ―――うわっ!おいチーノ、いきなり何するんだよ!」

重清に詰め寄ろうとした恒久は、突然頭の上に乗ってきたチーノに怒りの矛先を向けた。


「恒久。ふざけている場合ではなさそうよ」

「なに?」

チーノの言葉にわけも分からず恒久は、重清と聡太の見つめる先に目を向けた。


そこには仁王立ちで道を塞ぐ屈強な老人と、その後ろに控える数人の人影が見えた。


「あー。来るかもとは聞いてたけど、まさか当日にとは思わなかったな」

重清は、苦笑いを浮かべて目の前の老人へと声をかけた。


「ほぉ。我々が来ることを聞いていたのか。一体、誰から聞いたのか教えてもらいたいものだな」

屈強な老人ゴウが、不敵な笑みを浮かべて重清を見据える。


「まぁ、それは企業秘密ってことで」

ゴウの言葉にそう答えた重清の言葉に、ゴウの後ろに控えていた男が、いつもの笑みを浮かべて進み出た。


「雑賀重清君。どうやら、無事に当主の座につくことができたようですね」

「流石は重清君ね。これでやっと、私の目的も果たせそうね。それよりも・・・その女、まだ重清君にまとわり付いているのね」

常に笑みを浮かべるドウに続いて、琴音がそう言って美影を睨みつけた。


「あなた、あの時の・・・」

美影は琴音を見つめてそう呟いた。

重清に絡みついたその腕に、力が入った。


一度は琴音によって重傷を負わされた美影には、まだ琴音に対する恐怖が色濃く残っているのである。


「はっ!人前でイチャイチャしやがって、相変わらずムカつく野郎だな」

「クソぉ・・・俺も彼女が欲しい・・・」

そんな重清と美影の様子に、元2中忍者部の近藤と、風魔呉羽くれはの元で重清と恒久を襲ったヒトがそれぞれに呟いていた。


「まぁ、近藤の言うことには賛成なんだけどよぉ。そのオッサン、誰だ?」

近藤の言葉に激しく同意しつつ、恒久はヒトを見つめて首を傾げていた。


「なによヒト。あんた、忘れられてるじゃないの?」

黒いチャイナ服を纏うグラが、ニヤニヤしながらヒトに目を向けると、


「忘れてんじゃねぇよ!俺だよ!呉羽のババァんところで―――」

「チャリンチャリン」

「あ、すみません」


ヒトは心の嘆きを吐き出す途中で近づいてきた自転車に、頭を下げて道を譲り、


「えぇっと・・・」

周りを歩く人々へと目を向けた。


「大将のおっちゃん。ここじゃなんだから、あっち、行かない?」

人目を気にした重清の提案に、


「別に我々は、ここでも構わんのだがな」

ゴウは周りの視線を気にすることなく答えた。


「いや、こっちが構うんだって。おれ達、中学生だよ?それにこっちには、契約で人に見られると困る友達もいるからね」

重清はそう言って、森へと歩き始めた。


「仕方あるまい」

ゴウがそう呟いて歩き出すと、その後ろに控えた面々もそれに従って歩き始めた。


琴音だけは、走って重清の隣へとやって来ると、美影とは逆の重清の肩を抱き、重清を支えた。


「ちょ、ちょっとあんた!?なにやってるのよ!?」

美影がそれに噛みつくと、


「いいじゃない!重清君は、私が支えるのよ!あなたこそ、邪魔なのよ!」

琴音はそれに言い返し、2人は重清を挟んで言い争いを始めていた。


「なんつーか。緊張感のかけらもねぇな」

「なははは。シゲだからね」

恒久のそんな呟きに聡太が乾いた笑いを返し、彼らもまた重清について森へと向かうのであった。

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